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秋蓮の目標

 二十七歳になる秋蓮は今年の科挙で五段目まで合格していた。既に九段目まで合格していた夫の夏鉄から勉強を教わってきた甲斐があった。科挙は最高で十二段有り、女性は七段までしか合格できない決まりになっている。秋蓮も夏鉄も満足している。


 三歳になった息子の真銭は日常会話が出来るようになっていた。夏鉄は竹簡に文字を書きながら丁寧に教え始めている。その傍らで秋蓮が青白い顔をしながら微笑んでいる。最近、悪阻が始まって妊娠が判明した。真銭の弟妹がこれから生まれる。


 真銭は夏鉄に相変わらずベッタリだが、夏鉄と一緒に心配そうに秋蓮の様子をうかがっている。秋蓮は普段、水運業と月経用の下着の製作・販売で忙しい。子分や使用人達に指示を出しながら自らも労働していたが、最近は悪阻で休みがちだ。母親と一緒にいる機会が増えて真銭は戸惑った。嬉しいけれどねてしまう。そのたびに父親の夏鉄は穏やかにそれを注意する。


 秋蓮は自宅で休んでいても考え事をしていた。夏鉄がそれに気付いて心配すると、

「また、画期的な事をしたいのですよ。夏鉄様」

 傍らで聴いていた真銭はまた違和感を覚えた。秋蓮は夏鉄と真銭しかいない時には「夏鉄様」、そうでない時は「旦那様」、真銭と二人きりの時は「御父上」と呼んでいる。他の者達は夏鉄を「殿下」と呼んでいる。皆、夏鉄に恐縮しているのが幼心にも真銭には分かる。


 夏鉄は気さくに、

「今は無茶をするなよ」

秋蓮は腹を擦りながら、

「この子が真銭ぐらいの歳になったら、思い切り販売網を広げたり商品を変えたりしたいのです」

「しかし、月の障りの下着はこの石花県の外では売ってはならない勅令が出ている」

 夏鉄が指摘すると秋蓮は、

「外でも興味を持っている女達は多い上に密売を試みている商人もいます。女達の証言を集めて役所や長官達に嘆願書を書いてみようかと思います」

 夏鉄は真銭の背中を擦りながら、

「少し危険だな」

「反発が想像以上ならば諦めます」

 秋蓮は妥協した。


 秋蓮は既に商品の改良を続けたり新規顧客を開拓している。肌触りの良い質感と細かい縫製、丈夫で摩擦に強い素材の布、汚れを落としやすく乾燥し易い利便性。また、安価な麻を仕入れて少し不器用な職人が大量に作成して敢えて使い捨てさせて衛生を保たせる。使用済みの古くなった下着を回収して許可を得た所で焼却処分してその灰を原料になる作物の畑に撒かせる。秋蓮達と関係者は協力し合ってどんどん工夫していく。


 藩一家の他に模倣品の下着を売っている商人達がいるが、秋蓮達には敵わなかった。女達の雇用と親睦を重視している秋蓮達に割り込むのは簡単なことではない。時折帳簿を確認する夏鉄はこのままでも十分に繁盛し続けると感じているが、秋蓮はまだ物足りないようだ。


 秋蓮と夏鉄が議論している間に真銭は寝始めた。まだ幼い真銭には秋蓮の商売は分からないだろう。女達が頑張りそれなりの対価を貰い他の女達から感謝される商いだ。夏鉄は応援したかったが、婦道を重んじる保守的な紅帝国では帝国中に秋蓮のやり方を認めるのは難しいだろう。第六皇子だった夏鉄には分かる。

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