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新郎新婦

 藩秋蓮は太鼓の演奏の後、新郎と共に仏堂の中に入る。仏像の前に正座して数珠を絡ませた手を合わせて僧侶の読経を聴く。途中で足が痺れたが我慢して動かないようにした。僧侶の低い声に混ざって後ろから様子をうかがう衆人達の息遣いが聞こえる。


 読経が終わるとゆっくり立ち上がる。秋蓮は少しよろけたがこらえる。新郎と一緒に三回跪いてその間に三回ずつ頭を深く下げる動作をした。新郎が真横にいるので正面を向いている秋蓮には同時に礼が出来ているか分からない。


 秋蓮と新郎は後ずさりしながら部屋を出た。僧侶の弟子達が扉を閉める。秋蓮は後ろに振り返り、衆人を見渡した。皆、安堵した様子だ。秋蓮は胸を撫で下ろす。いとこの息子で同じ歳の順温が広い庫裏くりに案内した。皆も後に続く。これから皆と食事しながら挨拶するのだ。


 秋蓮はチラリと新郎を盗み見ようとした。新郎が微笑んで秋蓮を見つめている。いかにも上品で穏やかな男だ。貴族である事は間違いないが、本当に皇族なのか未だに信じられない。


 皆、着席すると乾杯した。音頭を取ったのは県の長官だ。商人である秋蓮の婚礼に参加しているのではなく、新郎である第六皇子の為に式を取り仕切っているのだ。中央から来た役人や宦官も何人もいる。秋蓮は茶を飲んだが夢見心地だ。こちらは境内だが特別な日だ。酒好きは酒をここぞとばかりに飲んでいる。精進料理と少量の川魚料理だが、丹精込めて作られているので美味い。


 参加者達は新郎新婦の席に寄っては挨拶していく。秋蓮はそのたびに慇懃に返事をする。新郎は余裕の表情で答えている。覚悟しているのか何故か新郎はこの婚礼に不満は無さそうだ。時折、楽しそうに秋蓮に微笑む。秋蓮もぎこちない笑みで見返す。


 秋蓮の両親が来て、新郎に拱手して深々と頭を下げ、父親の草仁が、

「殿下、苦労をおかけしますがお許しください」

「今日から貴方は俺の岳父だ。卑屈にならないで欲しい」

 草仁とその妻の祥華は再度頭を下げると、一度秋蓮を不安そうに見やった。後ずさりしながら両親は去っていく。やはり、新郎は第六皇子である賀夏鉄だ。参加者達はチラリチラリと自分達を見やっている。


 夕方になり、宴は終わる。皆、それとなく後片付けを始める。草仁と祥華は秋蓮と夏鉄を家まで誘導する。それなりの大きさのはずだが、夏鉄にとっては小屋みたいだろう。藩一家は恥ずかしがった。夏鉄は涼しい顔をして中に入る。


 二人は秋蓮の部屋に入ると秋蓮は夏鉄を椅子に座らせようとした。しかし夏鉄は寝床に腰掛けて両腕を広げる。秋蓮は驚いて、

「本当に私をお抱きになるのですか、殿下」

 夏鉄は苦笑いして、

「二人きりの時は夏鉄と呼んでくれ」

 秋蓮は呆然と立ち尽くしている。夏鉄は腕を下げ、眉間に皺を寄せ、

「俺が嫌なのか」

「滅相もございません。殿下こそ、御無理なさらずに」

 秋蓮は上擦った声で答えた。夏鉄は溜息を吐き、

「名前を呼べと言っているだろう。俺は無理なんかしていない」

 秋蓮は恐る恐る一歩ずつ夏鉄に近寄る。夏鉄はまた両腕を広げる。秋蓮が一歩前まで来ると夏鉄は秋蓮を抱擁する。秋蓮は息を飲む。夏鉄は暗い声で、

「本当に嫌なのか、秋蓮」

 名前を覚えている上に呼んだ。秋蓮は躊躇いがちに夏鉄を抱き返し、

「夏鉄様こそ、よろしいのですね」

「ああ」

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