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藩秋蓮

 六人目の皇子が夏に生まれた後、その年の秋に藩一族の間で女の子が生まれた。父親である藩草仁は落胆しながらも娘に秋蓮と名付けた。母親の周祥華は安堵と落胆の混じった溜息を吐く。


 藩一族のいる紅帝国は帝国が存在する前から男児選好の文化が強かった。秋蓮が生まれる前には男子二人と女子二人が生まれたが、全員、夭逝している。今年で草仁は四十歳、祥華は三十五歳。更に子宝が恵まれる可能性は低い。更には秋蓮が無事に育つとも限らない。


 藩草仁は父親の家督を継いで水運業を営んでいる。帝国を縦横無尽に走る大小様々な河川を船で往来し、子分達と共に物資を運んでいる。妻の祥華は織物職人である周一族の娘で、自身も機織りしながら使用人達に指示を出して夫に織物を売らせている。夫婦は帝国の東から中央部に流れる東江の中流にある伊鈴町に居を構えている。庶民としては大きめの家だが、それなりに繁盛しているので節制しているともいえる。


 草仁の兄は科挙試験にある程度合格して地方官吏として働いている。草仁の父親はそれに満足して三年前に世を去った。草仁には姉もいるが、姉は篤農家に嫁入りしている。時々嫁ぎ先の姑と喧嘩はするが、何かと仲直りしては慎ましく暮らしている。


 草仁は秋蓮を抱いている祥華を連れて東江が見渡せる丘に登り、商売の神に祈った。今度こそは夭逝せずに長生きして欲しい。女子だから跡は継げないだろうが、良い婿を探して家督を譲るしかない。甥に譲っても良いが、せっかくの一人娘を大事にそして厳しく育てようと誓う。


 秋蓮はよく泣く。母親の祥華は必死に授乳したりおしめを取り換えたりあやしたりした。機織りの仕事が出来ない。炊事も洗濯も家業も使用人達に任せて祥華は秋蓮の面倒を観た。父親の草仁は横目でヒヤヒヤしながら子分達と共に商売に精を出す。


 秋蓮はよく乳を飲み、よく排尿した。時々、風邪も引く。祥華は忙しかったが、秋蓮は必ず元気になる。よく泣くが笑いもする。平均的な女の子よりも丈夫に育っている。


 祥華も草仁も秋蓮が七歳までに無事に育つか不安になりながらも、内心では娘の息災を天に祈った。


 仕事一筋の草仁は浮気も不倫もしなかったが、家事も育児も祥華とその使用人に任せきりだ。数日に一度、思い出したように祥華と食事を共にして近況を報告し合う。秋蓮の様子を不安そうにうかがう。


 秋蓮は祥華とその使用人に懐いたが、数日に一度しか会わない草仁には警戒気味だった。草仁は肩を落として落胆する。祥華は困り顔で草仁を励ます。

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