認められた独身の娘
勅令が出た。藩秋蓮が始めた月経用の下着の製作と販売と流通は石花県に限定する。紅帝国の人々は老若男女・貴賎を問わず複雑な気持ちになった。石花県では既に広く深く流通していたので、県内の男達は反発するのを諦めて受け入れ、女達は大喜びをした。風紀が乱されなくて済むと県外の男達は胸をなで下ろした。県外の女達は秋蓮の商品の噂を知って興味を持ったが、男達からの非難を恐れて表立って支持をしなかった。
自ら切り拓いた商売が半分否定され、半分肯定された。秋蓮は落胆もしなかったが、手放しで喜びもしなかった。秋蓮の父親である草仁は処罰を免れて安堵の涙を流し、母親である祥華はある程度の御墨付を得られて胸を撫で下ろした。
老親になった草仁と祥華は仕事を秋蓮に任せて、世話になった取引先や役所に挨拶して回った。穏やかな風と天気に草仁は小船を器用に操作して祥華と共にあちこち行っては頭を下げ、菓子や茶や酒を土産として贈る。相手方も喜んで接待する。
機織と家事を担当する使用人達も、水運で働く子分達も秋蓮に反発せずに勤勉に働く。その分、儲かっている。使用人達は女性として最初から秋蓮を応援していたし、子分達も男性ばかりだが、果敢で真面目な秋蓮を嘲る者はいなかった。
農村で麻や綿を栽培し、それを秋蓮が適切な価格で買い取り、下着を作成し、様々な家庭の女達に高過ぎない価格で売る。小作人の娘や妻が麻や綿や洗剤になる薬草を育て、遊郭に売られそうになった女達が機織をして、肩身の狭い思いをしている老女達が糸を紡ぎ、子育てや働き盛りの女達が購入する。雇用と消費の釣り合いがとれている。弱冠二十歳の秋蓮が人を集めては提案して指示を出しているが、女達も臨機応変に働く。帳簿の管理も報告・連絡・相談もしっかりとこなす。
草仁の所で働いていた子分達も、秋蓮達の商品を大事に扱い熱心に売った。元々、彼等は大小の船を操舵する技術は石花県一番であり、雨天時でも商品を濡らさずに運んだり、流れが急な所も事故を起こさずに進める。
月経用の下着の他にも、秋蓮達はその他の衣類や作物や食器を運ぶ。草仁がやっていた事を引き継いでもいる。
石花県の人々は秋蓮は既に事実上の藩一家の当主だと見なしている。
草仁は兄の草士を時折、見舞いに行く。草士は七十前で頭は冴えているが、身体が弱っている。草士の長男である啓軟と孫の順温は役人として忙しく働いている。草仁と草士は自然と数日に一度は顔を合わせて世間話をする。
「兄さん。秋蓮が結婚出来ない気がしてきたよ」
草仁が不安を吐露すると、草士は、
「秋蓮は今度の科挙にも挑戦するようだな」
草仁は溜息を吐く。秋蓮が九歳の時から勉強を教えてきた草士は、
「皆、秋蓮を認めてはいるが婿入りをしたがる男はいないな」
草仁は苦い顔をして首筋を掻く。草士は、
「クズ野郎に騙されて結婚するより、独身のままでも良いんじゃないのか」
「跡継ぎが出来ないとお祖父さんからの家業を畳むしかないんだよ」
草仁は言い返す。草士は腕を組み、
「お祖父さん達には申し訳ないが、永く続いた方だよ。仕方ない」
元々、草士と草仁の祖父は科挙で良い成績が取れなかった為に水運業を始めた。才覚が合って成功し最期には満足していたが、草士は祖父母や両親からの期待で科挙に合格して官吏になった。既にそれも引退している。
草仁は悲しい顔をして、
「娘の晴姿が見られないのか」
と、呟いた。




