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皇后の不安

 夏鉄は秋蓮の謹慎を見届ける前に石花県を出て、首都に戻っていた。東宮の中に入って早速、皇太子である長兄の旬鉄と面会して報告しようとしたが、迎えた宦官達と官吏達に入浴を強く勧められた。月経用の下着を売る商人である秋蓮と直接会って会話したので、彼等はその穢れを取るべきだと主張している。夏鉄は呆れて眉を寄せたが、言う通りにした。


 官吏達が入浴の準備をして待っている。入浴は夏場ならぬるま湯で毎日、冬場なら二日に一度、入っている。今は秋。普段ならば甥達と入るが、今回は一人だ。やけに広く感じる。官吏達が湯加減を確かめたり調整したりするが、夏鉄は身体を自分で洗う。その方が気が楽だ。


 官吏達は夏鉄が自ら身体を拭くと慇懃に着替えを差し出した。今回は新品で余所行きの着物だ。宦官達が少し手伝う。


 夏鉄は宦官達と官吏達を連れて皇太子の執務室に向かった。入口に着くと拱手して頭を下げる。穏やかな男の声で、

「入れ」

 と、命じられた。夏鉄は命じられた通りにする。部屋の奥には皇太子である旬鉄の他に朱万梅皇后が座っている。予め石花県での出来事を耳にしているのか、旬鉄も万梅も不安そうな顔をしている。旬鉄は、

「仙鉄と皆は納得しているのか」

 と、尋ねた。次兄の仙鉄は秋蓮の商売に心底腹を立てていた。十日の謹慎処分を独断で下した夏鉄に机を叩きながら怒鳴っていた。夏鉄は何度も頭を下げて謝り、仙鉄の正妻と長男に仲裁してもらった。その翌日に夏鉄は石花県を出てこちらへ帰ってきたのだ。夏鉄は目を泳がせながら正直に報告する。万梅は目をそらして溜息を吐き、旬鉄は気まずそうに自分の実母である万梅を見やる。


 旬鉄は夏鉄に振り向くと、

「まあ、父上も母上も叱責だけにしろと仰ったし、お前の判断は間違ってはいない」

 万梅は夏鉄を睨み、

「もしやお前、あの酔狂な商人に同情したのか」

 夏鉄は万梅を見返し、

「同情とは違います。資料を読みましたが女達からの絶大な評判は本当のようでした」

 万梅は腑に落ちず眉間に皺を寄せて首を傾げた。夏鉄は目を泳がせながら、

「貴賎を問わず御婦人の悩みではありませんか」

 万梅は腹の底から不快そうに息を吐き、

「やはり同情しているのか、お前は」

「母上。夏鉄は目先の情や欲にほだされているわけではないでしょう」

 万梅が不満そうに旬鉄に振り向く。旬鉄は、

「この世は男の数だけ女がおります。夏鉄なりに天下の為を考えたのでしょう」

「旬鉄。甘い慈悲ばかりでは皇帝にはなれない」

 万梅はそう言うと、ゆっくりと立ち上がる。旬鉄も立ち上がり、夏鉄と一緒に拱手する。万梅は二人に見送られながら、

「夏鉄。陛下がお前を心配なさっていたよ」

 と、言い残して部屋を出て行った。

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