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夏鉄と秋蓮の出会い

 牢屋に閉じ込められたかと思うと突然、外に出された。藩草仁と妻の周祥華と娘の秋蓮は釈然としなかったが、官吏の案内されるままに後をついて行った。気付くと先程の長官の執務室に向かっている。三人は訝った。今、執務室には第六皇子がいるはずだ。第六皇子が自ら処罰を決めたとしても、執務室内で断行するとは思えない。


 三人は入口でひざまずいた。執務室内には既に数十人もの役人達がいる。部屋は広いはずだが狭く感じられる。床を睨んでも大人数の息遣いが聴こえてくる。


 奥で長官の席に座っている男が落ち着いた声で、

「顔を上げてこちらに寄れ」

 立っている役人達は息を飲んだ。三人は言う通りにずべきか迷った。命じた男は恐らく第六皇子だろう。第六皇子は低い声で、

「顔を見せてこちらに来い」

 と、催促した。三人はゆっくりと立ち上がり、拱手しながら言う通りにした。第六皇子は指を組んだ両手を机の上に置いて真っ直ぐ三人を無表情で見つめている。草仁と祥華は五歩手前で立ち止まって俯いた。両親の後ろから秋蓮は第六皇子を覗き込む。皇子は自分と同じ歳ぐらいで若いようだ。無表情なので怒っているのか哀れんでいるのか分からない。


 皇子は祥華と草仁を見比べながら、

「去年か一昨年から月の障りの物を売っているそうだが、お前達から何故始めたのだ」

 草仁は青白い顔をしながら両膝を床につき、拱手して、

「まさかこんな大事になるとは思ってはいませんでした!娘の酔狂な考えが世間に認められるわけではないと、判断してしまったのです」

「立ち上がれ」

 皇子は穏やかな声で命じる。祥華は震えの止まらない草仁を立たせた。皇子は後ろに立っていた秋蓮を見やると、

「自ら考えてあの様な品物を売り出したのはお前か。確か名は藩秋蓮だったな」

 秋蓮は息を飲んだ。皇子が自分の名前を正確に知っている。秋蓮は拱手しながら、

「左様でございます。しかし私一人で考えて創った物ではありません」

 草仁と祥華は一度、秋蓮に振り返って睨む。皇子の横に立っていた県の長官が、

「ならば全員、教えて差し上げろ。連座せねばなるまい」

「お断りします。罰は私一人がお受けします。しかし私は今でも天下と婦道を貶したとは思っておりません」

 秋蓮がハッキリした口調で断った。祥華と草仁は狼狽し、県の長官は目を丸くし、周りの者達は口を開けた。県の長官の反対隣に立っていた宦官が声を荒げて、

「何を言う!世間知らずの無礼者!」

 皇子は宦官に振り向いて睨んだ。宦官は気まずくなって俯いた。皇子は秋蓮に振り返り、

「あの品物に命と誇りをかけているのか」

「商人として私は、私の失敗で世話になった人達を傷付けたくはありません」

 秋蓮は答えた。皇子は微笑み、

「気持ちは分からなくはない。けれども自分一人だけの覚悟ではどうにもならない時がある」

 秋蓮は俯く。皇子と共に来ていた官吏が壁際から、

「殿下。どうなさるおつもりですか」

 皇子は周りを見渡し、低い声で、

「藩秋蓮は十日ほど自宅で謹慎せよ」

 と、言い終えるとゆっくりと立ち上がる。皆、呆然としたが、皇子が席を離れると供の者達は急いで皇子の後について行った。他の者達は拱手をして頭を下げる。

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