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石花県の商人

 夏鉄が二十歳の時。本殿に呼ばれた。夏鉄は宦官達と官吏達と共に父帝の執務室に向かう。行事や公務で遠目で父帝の姿を見かけるが、父帝と対面でしっかり話す頻度は年に数回あれば良い方だ。夏鉄は緊張して腹が重くなった気がした。父帝は父親というよりも畏れ多い皇帝である。暴力を嫌うが威厳は有る。


 執務室の中は広い。数百人が整列して並んでも十分に余裕が有る。夏鉄は入口付近で宦官達や役人達の前に立って、拱手すると頭を下げる。後ろの供の者達もそれに倣っている。


 男の低い声が響く、

「頭を上げてこちらに来い」

 父帝が命じている。夏鉄は言われる通りにした。夏鉄は玉座から十歩前に立ち止まり、また拱手した。供の者達は更に五歩後ろで拱手して頭を下げる。


 夏鉄は内心驚いた。父帝から向かって左隣には皇后である朱万梅が座っている。父帝は頬杖をつきながら万梅を見やり、話を促す。万梅は、

「お前には東江の石花県に行って欲しい」

 夏鉄の目が泳ぐ。後ろで供の者達も微かに動揺しているのが伝わる。皇后は落ち着いた口調で説明を続ける。皆、黙って聴く。


 石花県は皇后の出身地である。ここ数ヶ月、その故郷の地で奇妙な商人が奇妙な商品を売って繁盛しているのだ。しっかり納税しているし、表向きは礼節をわきまえ、客の反応も良い。しかし、問題は商品である。その商品は女の月経用の下着だ。それを洗う洗剤も売っている。風紀が乱れると男達からの密告と地方官吏達からの叱責が有ったが、商人は口が達者で商売を止めない。女達からは絶大の支持がある。官吏になった女達もその商品を愛用している。商人の地元の麻梨郷の長官も使用している。女は科挙に七段までしか合格できないが、郷の長官にもなれる。


 話を聞き終えた父帝は溜息を吐く。今年で還暦だ。白髪も皺も増えている。皇太子の旬鉄に公務を少しずつ任せてはいるが、疲労は隠せない。婦道を否定するような商品が流行って困っているのだ。


 後ろの供の者達も動揺を隠せないでいる。宦官達にとっても官吏達にとっても非常に気色悪い話だ。しかし、絶大な支持を得ているので迂闊うかつに商人を処罰できない。夏鉄は穏やかな声で、

「皇后様。私がその商人を説き伏せればよろしいのですか」

 万梅は困った顔をして、

「月の障りを扱う者と皇子であるお前が会う必要はない。石花の者達を威厳有る態度で叱責すれば良い」

 夏鉄は一度目を伏せた。父帝はそれを見逃さず、

「どうした、夏鉄」

 夏鉄は息を飲んだ。目を泳がせながら、

「確かに月の障りは不浄ですが、完全に消し去るのも無理かと思われます」

 父帝は暗い声で、

「否定をしないのか」

 夏鉄は俯き、

「そういうわけではありませんが」

 父帝は溜息を吐き、

「誰も石花の者達に狼藉をはたらけとは言っていない。少し叱れば良いだけだ」

「かしこまりました」

 夏鉄は拱手しながら返事をした。後ろの供の者達も拱手する。

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