女の悩みの試作品
秋蓮は十八歳になった。父親の草仁は秋蓮の花婿を本格的に探そうかと考えたが、上手くいかない。秋蓮は女として華がないし慎ましくもない。婦道の道に逸れている。何時も着ている服は動きやすくて地味、化粧はしない。家事をせずに勉学と機織りと水運の手伝いをこなす。
周囲は勤勉だと誉めてはいるが、秋蓮に言い寄る男は一人もいないし草仁と妻の祥華に婚約を頼み込む男もいない。そろそろ結婚しなければ行き遅れてしまう。草仁は還暦近い。娘への心配を募らせていく。
しかし、秋蓮はいとこと一緒に草仁の手伝いをこなし、草仁の子分達からも信頼を得ている。小川を小船で縦横無尽に往来して荷物を運ぶし、大河川を大きな船で大量の物資をいとこと協力し合って子分達に指示を出して運搬する。河の流れと風を絶妙に掴めるようになっている。帳簿の管理も申し分ない。母親である祥華と創った反物も売れている。
秋蓮が家事を使用人達に丸投げしてばかりなので使用人達は不満を抱えているだろうと草仁が尋ねると、彼女達はケロリとしている。機織も担当する彼女達は秋蓮の活躍を認めているし、憧れる者すらいる。今年、秋蓮は科挙を三段目まで合格していた。
草仁は素直に喜べなかった。単に婿が見つからないだけではなかった。秋蓮は使用人達や親戚や近所の女達を集めては何か必死で議論している。女達も真剣な面持ちで考え込んでいる。草仁は祥華に質問するが祥華ははぐらかす。
草仁は仕事を半分、秋蓮と甥に任せ、破天荒気味な秋蓮の婿になるのを引き受けてくれそうな穏やかな男を探す。皆、商人・職人としての秋蓮を信頼しているようだが、女としての秋蓮を恋慕する者はいない。
ここ数ヶ月、草仁が悶々としていると、祥華が困った顔で夕食後に話しかけてきた。
秋蓮は月経用の下着を創って女達に売ろうとしているのだ。月経の時には専用の小屋に閉じこもって終わるのを待ち、ボロキレで経血を吸わせる。不衛生な状態が続くと健康に悪いのは明らかだが、表立って話題にすることではない。むしろ女の下着は日陰でこっそり干すのが美徳とされている。それが妊娠や出産にも悪影響を及ぼし、妊婦や新生児の死亡率を上げている。
秋蓮は様々な年代、色々な立場、賢愚や美醜を越えて沢山の女達と議論をした。産婆や医師にも教えを乞うた。秋蓮は清潔な新しい下着を使ったら綺麗に消毒して日向で干して再利用すべきだと考えている。それが無理なら使い捨ての下着を大量に創って安価に売りまくる。
草仁にとっては寝耳に水だ。怒りよりも恐怖に似た感情を覚えて背筋が冷たくなった。話し終えた祥華はそんな草仁を困った顔で見つめている。
洗濯嫌いだった秋蓮がここ半年、服や下着を熱心に洗うようになった。疑問に思った祥華と使用人達が尋ねると、秋蓮は経血を綺麗に拭き取る方法を模索していた。様々な薬草を洗剤にしたり男達に見つからないように日向に干したり安価な素材を紡いで織ったりして、既に試行錯誤している。
祥華は試作品を五種類ほど草仁に見せた。月経用の下着だ。洗わずに済む使い捨ての物もある。草仁は目をつむりながら顔をそむける。祥華も溜息を吐く。
これでは秋蓮は生涯独身になりそうだ。草仁は泣きそうになった。




