<第一章 Slothの種> 第2章 不穏な学園生活 6話 魔物/人間
死してなお学習するゴブリン。
鉄のように硬い紫色の爪が地面を抉る音が広間に響いていた。モリベント・ゴブリンは考える。誰が一番怖いかを。人間達が口を動かしたと思えば、手のひらをこちらに向け、赤色や青色の弾を放ってくる。青色は痛くないが怖い。赤色は痛いが怖くない。白色は痛いし怖い。女から潰すべきだと判断を下す。恐怖を押し殺すようにモリベント・ゴブリンが咆哮する。
ーア゛ァア゛ァア゛ァア゛ァ!!!!
どうやら人間たちが萎縮してくれたようだ。また弾を出されては困る。己の武器はこの爪だと何故か分かる。だから使う、手を広げて腕を振り下ろす。躱される、振り下ろす、また躱される。当たらないことに苛立ち始めたモリベント・ゴブリンは残っている片目を血走らせていた。
怒りに身を任せてダンジョンの壁を殴り、落ちた石を投げつける。モリベント・ゴブリンにとっては嬉しい誤算が起きた。石の破片が人間にとって脅威らしい。慌ただしく動く三人を見て戦法を変える。幸いなことに石はたくさん落ちている。拾っては砕き、投げる。それを何回か繰り返していると女の体に命中した。
ーア゛ァア゛ァ
喜びのあまり声を上げる。倒れた女の前に怖い男が立ちふさがっているが気にせず切り裂こうと右腕を振り上げた。その瞬間顔の右が燃え始めた。
何故?誰が?決まっている。怖くない男がしでかした。邪魔をしたこと、絶対に許さない。予定を変え、先に怖くない男を殺す。
ーア゛ァア゛ァア゛ァ!!
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「エド!ラーネア!あいつの体を見てみろ!」
「見てる!何かヒントでもあんのか!?」
「腐ってるだろ!?ってことはアンデッド系統のはずだ!エドの火魔法かラーネアの光魔法が弱点だと思うんだがどうだ!?」
「私はまだ最下級の光魔法しか使えません!浄化なんて無理です!」
「俺の火魔法だってそうだ!さっき当てたが効いてなかったの見ただろ!?」
ウーゴ達は襲い掛かる爪を回避しつつ、作戦会議をしていた。エドワードとラーネアはウーゴの考えに頷かない。それでも、とウーゴは必死に頼む。
「一発でダメなら何発でもくれてやりゃあいいじゃないか!」
「ったく!分かったよ!ウーゴも手伝えよ!?」
「当たり前だ!」
「いきます!」
「我求めん・小さき祈りに・熱の喝采を<ウラ・イグニス>!!」
「我求めん・小さき祈りに・涙の喝采を<ウラ・アクア>!!」
「我求めん・小さき祈りに・天の喝采を<ウラ・ルークス>!!」
ーア゛ァア゛ァア゛ァア゛ァ!!
「効いてるみたいです!」
「よし!そのまま、ッラーネア!?逃げろ!?」
ウーゴが声を上げる。今まで無差別の攻撃だったの。それなのにいきなりラーネアを集中して攻撃をし始めたのだ。
「無事か!?」
「エド君!?私は無事です!回避に専念するので攻撃をお願いします!」
「分かった!我求めん・小さき祈りに・熱の喝采を<ウラ・イグニス>!」
「あいつ…石を投げるつもりか!?」
腕がブンという大きな音をならし、石がウーゴ達にやってくる。最初のうちは回避できていたが、何度も投げられていくうちラーネアに被弾してしまった。石はラーネアの腹部に当たり、彼女は目を見開き吐血する。
「ッカハッ!!ゲホッ!!」
「ラーネア!?」
ウーゴはラーネアのもとへ駆け寄る。窮地に立たされてしまったウーゴ達。そんななかエドワードは忸怩たる思いを持っていた。
(俺にもっと力があれば!ルイーズ嬢のように下級魔法が使えていたら!)
強さに貪欲なエドワードは己の唇を噛みしめる。
(最下級魔法でも限界まで到達すれば!)
「我求めん・小さき祈りに・熱の喝采を<ウラ・イグニス>!っまだ、まだだ!」
詠唱を終えてもまだ魔法を放たない。手のひらが熱くなり視界がかすんだとしてもMPを込め続ける。やがてエドワードのMPが尽き、ゴブリンに向かって解き放たれる。
右目を失い死角になっていた事、エドワード渾身の一撃が放たれた事両方が噛みあいゴブリンに大打撃を与えることに成功した。しかし
「エド!!」
ーア゛ァア゛ァア゛ァ!!
ゴブリンの注意がエドワードに向かってしまう。顔の右側が燃えつつも殺しにかかる。ウーゴはもう終わりだと諦めかけたその時、ソレからの手助けが入る。
(まったくもう!君ってやつは!ここで死なれたら困るじゃないか!何も考えなくていい、ただ思った事を念じるんだ!)
「ッスーハー。我求めん・極上の祈りを彼のもとへ・望むべきは平等を・天から地へとの失墜を・人々の原典その一つを今ここに<ファティーグ・チルクム>」
半ば無意識に放たれた魔法が戦況を覆す。
堕ちる。もっともーっと堕ちる。




