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<第一章 Slothの種> 第2章 不穏な学園生活 7話

お母さんごめんなさい。


 無意識で放たれた<ファティーグ・チルクム>が広間に充満する。先ほどまでエドワードを殺そうとしていたモリベント・ゴブリンに重たい空気のような力が纏わりつく。振り上げたい腕には力が入らず、呼吸すら難しくなってしまった。ゴブリンの様子がおかしいことに気が付いたエドワードは攻撃を開始しようとしたが、詠唱を行うがうまく舌が回らず不発に終わる。

 ウーゴはMP(魔力)と魔法による影響で、ラーネアは先の攻撃で気絶してしまった。エドワードとゴブリンは本来の力を発揮できない状態に()()()()()。しかし相手は強力なモンスター。エドワードは死を覚悟したその時。


 「我求めん・変わらぬ祈りと・小さき霊に・熱の喝采を<ジュニラ・イグニス>!!」


 息を乱したゴブリンの背後に大きな火球がぶつけられた。今までの火魔法とは明らかに火力が違い、謎の疲弊も相まって致命傷を負う。鼓膜が破れんばかりに叫ぶゴブリンの後ろを驚愕の目で見るエドワード。そこに立っていたのは、自身のプライドを少し傷つけ、それ以上に力の渇望を与えてくれたオルド・ルイーズだった。ルイーズは休む間もなく続けて魔法を放つ。


 「我求めん・小さき祈りに・空の喝采を<ウラ・ヴェント>!」


 彼女の放った風魔法はモンスターの膝裏へ向かい、態勢を大きく崩した。ルイーズは芯の通った声で叫ぶ。


 「奥の君!畳みかけるぞ!!」


 エドワードは彼女がここにいる理由に困惑し、体は謎の疲労感を訴えられているが何とか立ち上がりゴブリンに短剣を突き立てに走った。

 ルイーズは変わらず風魔法を撃ち、エドワードは短剣で何度も腐ったゴブリンの体を切り刻んだ。二人の攻撃に反撃できず、されるがままのゴブリンは誰も気が付けない程の小さな涙を片目から溢し沈黙した。


 「死んだんだよな…」


 「ゾンビのようなモンスターに死んだ、と言っていいか分からないが少なくとも倒したはずだ。私は念の為こいつを見ておく。君はそこに倒れている仲間の安否を確認してくれないか?」


 「あ、あぁ!分かった!来てくれて助かったぜルイーズ嬢!」


 エドワードは足を引きずりながら一生懸命に走る。ウーゴとラーネアが生きていることを確認し、ルイーズに報告をする。


 「こっちは問題ない!すまないが先生のところまで運ぶのを手伝ってくれないか?」


 「勿論そのつもりだ。こちらも問題ないと思う。急いでトリーナ先生の元に向かおう。」


 ルイーズはモンスターの耳を念のため二つ切り取り、下級火魔法を放った。その後片方をエドワードに渡す。そうしてエドワードはウーゴを、ルイーズはラーネアを背負い広間から入ってきた道へと引き返す。道中、エドワードは警戒心を持ったままルイーズに質問を投げかけた。


 「来てくれて本当に助かったぜ。でもなんでルイーズ嬢はあそこが分かったんだ?」


 「何となく、としか言いようがないな。肌がぴりついて仕方なかったんだ。私の本能が危険を察知したのだろうな。」


 「危険と分かってそれでも立ち向かう。騎士の鑑なんだな。」


 「最初から見ていたわけではないが、君たちも素晴らしいと私は思うぞ。あのようなゴブリンばけものと臆せず戦っていたのだからな。」


 「そんなことはないさ。実際ルイーズ嬢が来てくれなきゃ今頃どうなっていたか…」


 「力になれたのなら幸いだよ。ふむ、いったんこの広間で休憩をしよう。」


 「どうしてだ?早く先生のところに戻ったほうが賢明だと思うんだが?」


 「私もそう思うよ。しかし君の体力が心配だ。見張りは私が受け持つから安心して欲しい。」


 「…あぁそうだな。本当に助かるよ。」


 気絶している二人を広間の床に寝かせ、エドワードは壁にもたれかかる。それを確認したルイーズはは宣言通り見張りを行う。エドワードは垂れてくる汗を乱暴にぬぐい、ウーゴとラーネアの顔を見る。彼の表情はダンジョンに潜る前と真逆で、悲痛なものであった。


 (俺がもっと強ければ…)


 別にエドワードが悪いわけではない。ただダンジョンという()()()が異様な反応を見せただけなのだ。とはいえその理由は誰にも分かるわけはなく、エドワードはただひたすらに力のなさを嘆くことしかできないでいた。そんな折、彼の存在意義である()()が顔を出す。普段なら思いつきもしない突拍子のない考え。

 エドワードは先程ルイーズから渡されたゴブリンの耳を見つめる。


 (これを喰えば少しは強くなれるだろうか…)


 羽音のようなノイズが彼の思考能力を鈍らせる。胃袋は既に空っぽ。口内には涎が大量に分泌されていた。

 そしてーーー


 「ッゴホ!エ…ド…?」


 「ウーゴ!目を覚ましたか!?ルイーズ嬢が助けてくれたんだ!俺たち生き残ったぞ!!」


 「本当かッ!?よかった…。それにしても寝起きにエドの声は頭に響くな。」


 「軽口を叩けるなら問題なさそうだな!っとラーネアも起きそうだな!」


 ラーネアは腹部を抑え、小さなうめき声を上げながら起きた。


 「あれ?ここは?」


 「俺たちがゴブリン二体を倒した広場だ。詳しい話はトリーナ先生がいるところでしたい。」


 「え、えぇ分かりました。あれ?あの方は?」


 「俺たちを助けてくれたルイーズ嬢さ!とにかく戻ろう!ルイーズ嬢!みんな目を覚ました!」


 エドワードの報告を聞いたルイーズは見張りから戻ってくる。ウーゴはエドワードの言葉が真実だったと目を見開きながら驚き、ラーネアは目をキラキラさせながらお礼を伝える。


 「ルイーズさん!私たちを助けてくださりありがとうございます!」


 「感謝の言葉は先程彼からたくさんもらったよ。気にしないでくれ。ともかくみんな目を覚ましたんだ、戻ろう。」


 ルイーズの言葉に反論するものは誰一人としてなく、傷ついた体を動かす三人。ルイーズを先頭に、来た道を戻りトリーナの元へ着く。トリーナは彼ら三人の見た目に驚き駆け寄る。


 「君たち何があったんだい!?それにどうしてルイーズ君がこの班に!?」


 エドワードとルイーズが軽く説明をするとトリーナは実技の中止を決め、急いで生徒達をダンジョンから出す。トリーナはウーゴ達を保健室へ行くよう指示をし、エドワードとルイーズから更なる情報を得る為図書室に連れていく。

 しばらく話を聞き終えたトリーナはエドワードに対しても保健室へ行くよう伝え、一人になる。部屋を出る際預かったゴブリンの片耳を見つめ。


 「アンデッド化したゴブリン…。このダンジョンでの目撃情報はなかったはず。これはしっかりと調べる必要があるな。」


 生徒の大半は実技を急に中止されたことに対し困惑し、異常事態に頭を抱えるトリーナ。そしてウーゴ達は保健室にて泥のように眠っていた。


1つはトリーナが手に持ってます。もう1つは?どこだろう。

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