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絶海の皇女マヤ -PRINCESS:ABYSS-  作者: 久坂下臈
第2章 闇夜航路
7/21

2-1 青海少年使節団

『ガリア大聖教』。

その起源は、一五〇〇年前。


天より降臨した〈大聖神〉が、

大帝国の迫害から逃れていた漂流民族を、

ガリア大陸へと導き救済したことが、

信仰の始まりだった。


漂流民族は、「新ガリア人」と称し、

『大聖教』の下に結束して、

ガリア大陸全土へと進出した。


「新ガリア人」は、

教派の分裂や対立、統合を繰り返しながらも、

『大聖教』の信仰を脈々と受け継いでいった。



そして、現代。


『大聖教』は、

『マグナ=ガリア民政新国』において、

国内最大宗教の地位を盤石なものとしていた。


しかし、その存在意義は、

自由民政国家の尺度で測れば、

法外に肥大化しているようにも映った。


教会は、

〈聖獣兵器〉を従える少年信徒を、

大青海戦争の最前線へと派遣し、

軍部や主戦派の政治家に対して、

その影響力を着々と伸ばしているようだった。



——ダンベリア島東部 ディムナットの山林


ここに、四人の信徒がいる。


彼らは、「宣教」という使命の下、

オーシャニア列島に派遣されたのだったが、

それは、建前に過ぎず、

「占領軍への軍事奉仕」が彼らの実態だった。


名は、『青海少年使節団』。


黒い外套の上に輝くのは、首飾りの〈眼魂石〉。


それが、

彼らの従える〈千眼獣〉を宿す聖石だった。



仄暗い早朝の山林で、

三人の信徒は、

残る、倒れた一人を囲んでいた。


「おい、ルカ!

しっかりしろ!

生きているか!」


倒れた一人を抱きかかえ、

肩を叩き呼びかけるのは、

まっすぐなギョロ目の少年。


名は、レオ。

齢は十三。

千眼の獅子〈ウルク〉の主だ。



他方、その脇から様子を眺め、

ぽつりと所感を漏らすのは、

ひねくれた垂れ目の少年。


「ルカ、反応ないなあ」


名は、ノア。

齢は十三。

千眼の水牛〈アルプ〉の主だ。


ノアは、重ったるい瞼を擦ると、

大きな口を手で覆い、

眠気のままにあくびをひとつ。


レオは、カチンときた。



「ノア、おまえ!」

「うおっ」

「そのあくびは、何だ!

その寝ぼけた顔は、何だ!

そのふざけた態度は、何だ!」

「レオ、そんなに怒るなよ」

「怒って当然だ!

この状況だぞ! 無神経が過ぎる!

おまえには、情というものが、だな!」

「いいや、勿論、心配はしているよ。

ただ、夜通し探していたから、さすがに眠くて」

「眠いだと!」

「そうだよ。悪いかよ」

「怠惰! 怠惰だ、おまえは!

本国に帰って、家の寝台で眠ってきたらどうだ!」



「……あんたたち、いい加減にしなよ!」


横から、吊り目の少女に怒鳴られて、

レオも、ノアも、口をつぐんだ。


油っ気のない髪を後ろに縛る彼女は、

倒れた一人の手首を握り、

落ち着いて脈拍をたしかめた。


名は、リタ。

齢は十三。

千眼の巨人〈フンババ〉の主だ。


「……」「……ルカ、死んじまった?」

「ううん。大丈夫。ルカ、生きているよ」



リタが表情を緩めてみせて、

レオも、ノアも、ひとまず安堵した。


倒れていた最後の一人は、

白く繊細な面差しで眠る、金髪の少年。


名は、ルカ。

齢は十二。

千眼の鷲〈イエラ〉の主だ。


「ルカには、無理をさせてしまった。

おれの〈ウルク〉が、

撃破されてしまったばかりに」

「というか、

〈カムランの灼天竜〉、強過ぎだろうが」



ノアの所感に、レオはまたカチンときた。


「おまえの〈アルプ〉は戦っていたのか?

奴の周りをうろついていただけだろう?」

「はっ? ちゃんと突進していただろうが」

「一撃も当たっていなかったよな?」

「うるせえ。当たっていなかったのは、

〈ウルク〉の攻撃も同じだろうが」

「何だと! おれの攻撃は当たっていた!」


「……あんたたち」

「……」「……」


リタにまた怒鳴られそうになって、

レオも、ノアも、また口をつぐんだ。



全員、疲れていたのだ。

昨日から続く騒乱で、神経を切らしていた。


占領軍総司令部からの命令で、

ダンベリア島東部に急行させられたかと思えば、

急行先のハーバーマス漁村では、

すでに、王女と赫き竜が大暴れしていた。


さらに、沖から押し寄せた海軍と、

保養所の銃器を奪った暴徒が戦闘を始めると、

慌てふためいた占領軍は、四人を残して、即撤退。

仕方なく、彼らは、独自で王女を追跡し、

赫き竜に対決を挑んだが、結果はひどかった。


しかも、これが彼らの初陣だった。



「……〈カムランの灼天竜〉は強かったけれど、

レオも、ノアも、よく頑張ってくれたよ。


レオは先陣を切ってくれたし、

ノアが健在じゃなかったら、

こうして、〈眼魂石〉の力で、

ルカを探知することもできなかった。


もう、そういうことにしておこうよ、ふたりとも」


リタに取り成されて、

レオも、ノアも、苛立ちの矛を収めた。


「……すまない、ノア、言い過ぎた」

「……いいや、レオ、こっちも悪かったよ」










◆2










三人は、ハーバーマス漁村に戻ることにした。


山林に潜った王女を追跡しようにも、

レオとリタの〈聖獣〉は戦闘不能で、

ノアの〈聖獣〉も全快してはいない。


それに、何より、

重傷のルカを、

はやく治療してやりたかった。


レオが、気絶したままのルカをおぶり、

ノアとリタが、随伴した。


仄明るくなった早朝の山林を、

のっそのっそと下っていく。



途中、幾人かの海兵たちとすれちがう。


「『山狩り』は、進んでいるようだな」


レオのギョロ目が、

海兵たちの尖った殺気を覚える。


この『山狩り作戦』は、

海軍と占領軍の競争と化しているのだ。


高山に挟まれたディムナットの山林は、

島の東部と北部とを繋ぐ回廊のようになっており、

東部からは海軍が、

北部からは占領軍が進入し、

我先にと、王女確保の手柄を競っていた。



四人の所属は、占領軍。

海軍に占拠されたハーバーマス漁村からでは、

総司令部と再交信するのは難しいかもしれない。


ルカを、どうしようか。


険しくなるレオの顔の前に、

リタが、携帯食の焼菓子を差し出した。


「滅茶苦茶な状況になっちゃったけれど、

とりあえず、その場、その場で考えていこう。

ほら、これでも食べて」


レオは、両手が塞がっていたので、

そのまま、リタの手元の焼菓子にかぶりついた。



「……これ、不味いな」

「軍の支給品に文句を言わないの」

「いいや、冗談抜きに、何だこれ」


顔を苦々しくするレオを見やり、

リタも、どんな味なのだろうかと、

手元の焼菓子を口にしてみた。


「……不味い。うわ。

あたし、これ、きらい」


やはり、顔を苦々しくし、

水筒を口にして流し込んだ。


レオは、それ見たことかと呆れた。



すると、ふたりの背後から、

間の抜けた旋律が聴こえてきた。


ノアの口笛だった。


近くには海兵たちも歩いていたので、

レオも、リタも、止めようかと思ったが、

両手を頭にのらりくらりとするノアが、

おかしくて、つい、吹き出してしまった。


物憂げな空気が、すこしだけ和んだ。


ノアなりの粋な計らいなのかとも思ったが、

木漏れ陽をぼんやりと眺める様子を見るに、

べつに、何も考えてはいなさそうだった。



「そういえば、リタ。

海軍には、おまえの友人がいたよな」


「友人?」


「『神林の巫女』だ」


「ああ、シルヴァのこと?

あたしが『大聖教』に改宗してから、

ずっと会えていないけれど」


「彼女を頼りにすれば、

ルカのことも、何とかならないだろうか」


「そうだね。あの子と連絡が取れたら、だけれど」



「うむ。そうか。とりあえず、

ハーバーマスに着かないことには、だな」

「……」

「リタ?」


リタは、茂みを見ていた。


カサカサと物音がしたのだ。

奥に、何者かが隠れている。


「レオ、ちょっと待っていて。

すぐに戻るから。ルカをお願い」


ルカをおぶっているレオを留め、

リタは、茂みの奥に駆け入ってみた。



枝葉を押し分け、草花を踏み分けていくと、

その陰には、

小さく、小さく、幼い娘がうずくまっていた。


見るに、漁村の戦闘から、

ここまで逃れてきたのだろう。


赤黒い血の染みが、

麻布の前掛けにこびりついていた。


どこかで見覚えがあるような気もしたが、

それにしても、ひどくやつれていたので、

リタは、

刺激しないよう低姿勢で近づき、

勉強したオーシャニア語で話しかけてみた。



「あなた、名前は?」

「……」


「お腹、空いている?」

「……」


こわばったままの娘に、

リタは、手元の焼菓子を差し出した。


「この焼菓子、食べる?

あっ。

えっと、そんなに美味しくはないけれど、

あたし、これしか持っていなくて。

もし、よかったら」

「……」



娘は、おそるおそる、

焼菓子に右手を伸ばし、口にした。


「どう?」

「……」

「美味しくない?」

「……」


娘の瞳がじわりと潤みだして、リタは焦った。


「えっ。本当に、ごめんなさい。どうしよう」

「……ありがとう」


「え?」

「ありがとう」



娘は、もう一口、もう一口と、焼菓子を食べる。


リタは、ほっと胸を撫で下ろしつつも、

このような振る舞いが、

偽善に過ぎないだろうことを自覚していた。


占領政策は、苛烈を極めている。


漁村の暴徒は王女により扇動されたというが、

やはり、彼らを決起させた主因は、

占領軍の圧制に対する憎悪だろう。

そして、彼女も、部外者の立場にはない。

それでも、

救いたいものを救おうという偽りの志だけでも、

喪いたくはなかったのだ。










◆3










——『戦艦ユーゲスト=ネーゲル』


早朝の潮風がそよぐ甲板からは、

黒焦げたハーバーマスの惨状を一望できた。


銀髪と黒い水兵服をひらめかせ、

シルヴァが、

静かに、祈りを捧げる。


戦跡を前にすると、

彼女は、必ずそうしていた。


首飾りの〈古の白石〉を掌中に、

傷ついた魂に静謐なるひとときが訪れるよう、

願いを馳せるのだ。



「シルヴァ、ここにいたか」

「提督?」


聳え立つ艦橋の陰から、

ガイウスが、歩み寄った。


「邪魔をしたか」

「ううん」


三歩ほど離れた位置で、

彼は、立ち止まった。


生き延びた者のためにも、

死に絶えた者のためにも、

祈りに無用な存在を排したのだ。



撃砕された家々からは、未だ、黒煙が昇っていた。


暴動に居合わせた捜索群は、

当初、砂浜や丘陵などの、

非居住地区を威嚇砲撃していたが、

暴徒が鎮まりそうになかったことと、

〈カムランの灼天竜〉の反撃を危惧したことから、

居住地区への本格砲撃を行い、その後、

海兵隊を上陸させ、暴徒を制圧したという。


「どうにかならなかったものか」


ガイウスは、鷹のような目を細め、

取り得た最善手を思索しようとし、

無意味だと悟って、波間に捨てた。



「提督、そろそろ、上陸?」


シルヴァの視線に、ガイウスは返した。


「ああ。舷梯に向かってくれ。

手配した交通艇が着く頃だろう」


「提督は? 一緒に来る?」


「いいや。艦隊の指揮系統を整えたい。

引き続き、第一艦橋に構えているつもりだ」


「そう」


シルヴァは、しゅんと頷いた。



第三艦隊は、ハーバーマスだけでなく、

ダンベリア島の周辺各所で、

海上封鎖に取り掛かっている。


殊に、島北東部は、

『ワーマニア島解放軍』の侵入を警戒すべく、

トレビオを差し向け、念入りに固めていた。


王女と〈灼天の紅玉〉を、

『ワーマニア島解放軍』に回収されることは、

是が非でも避けたい。


幸い、今回の追討作戦に際し、

占領軍が協力的な姿勢を示しているため、

ガイウスは、順当に事を進められていた。



しかし、占領軍が協力的だということは、

彼らが手をこまねいていることも意味した。


「シルヴァ、王女に油断は禁物だ。


報告によれば、彼女は、

『青海少年使節団』が召喚した〈千眼獣〉四体を、

疲弊しながらも、単独で退けたとのことだ。

ケイネス王子の実力を遥かに上回っていることは、

間違いないだろう。

その上、

西の山林を捜索させていた海兵七人との連絡が、

先刻より、途絶えている。

彼女と〈カムランの灼天竜〉の力が、

幾分、回復しているものと心得てくれ」



シルヴァは、銀髪を指先に絡めながら、

山林に潜む脅威とは別のことに関心を寄せていた。


「『使節団』は、みんな、無事?

リタが、いたかもしれない」


「リタ? 孤児院にいた頃の友だちだったか」

「うん。よく、遊んだから」


ガイウスは、顎を摩り、記憶を探る。


「彼女がいたかどうかは定かではないが、

動員された四人のうち三人は、

無事を確認されていたはずだ。

詳しく調べさせておこう」



「ありがとう」


シルヴァは、

銀髪を指先から解き、風にそよがせる。


「リタとは、同い年だったか」


「うん。でも、

リタは、喘鳴症だったから、

大青海戦争には来なかったみたい」


「それで、『使節団』に加わったというわけか」


ガイウスは、溜息を呑み込み、

打ち寄せる白波を見下ろした。



『青海少年使節団』には、

大青海戦争に従軍できなかった少年信徒のための、

「受け皿」としての側面があった。


〈聖獣兵器〉を使役する適正年齢とされるのは、

十二から十八才。


大青海戦争の間、

十二才に満たなかった少年信徒や、

疾患や外傷などの諸事情を抱えていた少年信徒は、

教会内で肩身が狭かった。

そこで、

彼らに新たな名誉獲得の機会を与えるとともに、

軍事力の再拡充も果たそうというのが、

『大聖教』と占領軍総司令部の目論見だった。



このような事業を発案したのは、

教会だったのか、ラッサリウスだったのか、

ガイウスの知るところではないし、

気にするところでもない。

ただ、彼らにとって、

大青海戦争の勝利とは、

いかなる意義があったのだろうか。


脳裏に、混濁した泡沫の波間が差し迫った時、


クァーッ、クァーッ、クァーッ、アハハッ!

ウミネコが、鳴く。


目覚めたように視線を上げると、

手配した交通艇がすぐそこまで来ていた。



「そろそろ、行ってくるね」


首飾りの〈古の白石〉を握り締め、

シルヴァは、後甲板の舷梯へ向かう。


「気をつけろ」


ガイウスの声に振り向くと、

澄んだ瞳を交わし、こくりと頷く。


荒波は、相も変わらず。


ふたりを陰らす艦橋の頂には、

「天秤を掲げた黒騎士」の旗が、

ウミネコに群がられ、小気味よく靡いていた。










◆4










——ダンベリア島東部 ディムナットの山林


破れ衣の少女はひとり、

木漏れ陽の下を征く。


乱れた黒髪を振り払えば、

見開いた瞳に当てはなく、

ひたすらに、前のめりに、

木々の狭間を突き進んでいく。


背に提げるのは、散弾銃。


左手に握るのは、銀の魚肉を刺した枝一本。


その手首に煌めくのは、腕輪の〈灼天の紅玉〉。



「王女を捜せ!」

「この辺りに潜んでいるはずだ!」

「銃殺してかまわん!」


山林のあちらこちらから、

尖った殺気に脅かされる。


対するマヤは、

ガリア軍の兵士どもを、

四人、返り討ちにしていた。


一人目は、散弾で胸を吹き飛ばし、

二人目は、銃把で頭を砕き、

三人目は、鉤爪の威力で首を裂き、

四人目は、火球の威力で全身を灼き払った。



〈灼天の紅玉〉の煌めきは、

昨夜から、だんだんと回復していた。


魚肉を噛み、樹洞で眠ると、

体も、幾分、軽くなった。


目覚めると、山林には兵士だらけだったので、

マヤは、肝を冷やしたが、

連日の戦いに適応してしまったせいか、どこか、

冷静に対処しようとしている自分にも驚いていた。


これでいいのか。


膿汁が固まりつつある額の傷をなぞり、

疼きをたしかめて、茂みを分けた。



マヤには、気がかりなことが幾つかあった。


まず、倒した兵士どもの所属だ。


占領軍は茶の軍服を着ていたものだが、

彼女を襲った四人のうち三人は、

茶でなく、黒の軍服だった。


つまり、この山林には、

占領軍だけでなく、

ガリア海軍も出張っているらしい。


さらに、三人が、

あの「黒騎士」の艦隊の直属だとすれば、

より深刻な事態も想定された。



〈白き龍〉の襲来だ。


夜の海、

鋼鉄の巨兵どもに囲まれるなか、

マヤと〈カムランの灼天竜〉を追い詰めた、

凶暴なる〈力〉の化身。


奴が、迫っているのかもしれない。


脅威の程度は、

昨夕の〈千眼獣〉四体の比ではなかった。


〈紅玉〉の煌めきが全快していない彼女には、

勝利することは勿論、

あの夜のように逃げ果せることも至難だろう。



何にせよ、窮状は揺るがない。敵が多過ぎる。

交戦をなるべく避け、

はやく山林の出口を見つけなればならない。


〈カムランの灼天竜〉を召喚し、

空から脱出することも考えたが、

目立ち過ぎるし、それこそ、

〈白き龍〉に急襲されるおそれがある。


どうにかならないものか。


枝に残ったわずかな魚肉を、

マヤは、噛み千切り咀嚼すると、

小骨を吐き捨て、

枝と共に、足で埋もれさせた。



……その時だった、ガリア軍の兵士が叫んだのは。

「ガキだ! 王女がいたぞ!」


興奮したガリア語を耳にして、

マヤは、

身を伏せ、声がした方角に振り向いた。


姿を捉えられてしまったかと、

散弾銃を手に、待ち構える。


だが、敵は来ない。


どういうわけか、

兵士どもの靴音は、

別の方角へ向かっていた。



好機だった。

敵の注意が逸れている。


マヤは、

銃身を手にしたまま、駆け出した。


兵士どもの靴音とは、反対の方角へ。


大木の間を縫うように進み、

小川を跳び越え、

岩から岩へ、

跳び乗った倒木の上を滑り、

泥土に足を着くと、

藪の下を潜り抜けて、

また、走った。



「追え! 追え! ……」

「絶対に逃がすな! ……」

「撃ち殺せ! ……」

……兵士どもの靴音が、背後へ、遠くなっていく。


だが、一瞬の安堵が、注意を怠らせた。


右手前から跳び出してきた人影に、

気づかなかったのだ。


ゴツンッ!


互いに、茂みに倒れたが、

マヤは、

くるりと体勢を立て直し、銃口を振り向けた。



しかし、銃口の先にいたのは、

ガリア軍の兵士ではなかった。


小さな少女だった。


思わず、昨日の記憶に引き摺られる。


「ゲーナ?」


否、よくよく見ると、

あの幼い娘にしては背が高い。


さらりとした栗茶の髪を乱し、

尻もちを痛そうにしながら、

少女も、こちらの様子を窺っていた。



すると、少女は、

はっと気づいたように、頬を桃花に上気させた。


「あの、もしかして、マヤ王女殿下ですか?」


不意の質問に、マヤはまごついた。


「……?」


「やっぱり、マヤ王女殿下だ! 初めまして!

『ダンベリア島解放軍』のハナと申します!」


『解放軍』。

ハナと名乗った少女のその言葉は、

マヤに、次の嵐を予感させるものだった。










To Be Continued.

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