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絶海の皇女マヤ -PRINCESS:ABYSS-  作者: 久坂下臈
第1章 王女初陣
5/21

1-4 千の眼をもつ獣

ダンベリア島東部ハーバーマス漁村は、

占領軍保養地となっていた。

遠方任務に従事する軍人の、

心身の負担を発散させるための拠点として、

占領軍総司令部に接収されたのだ。


軍人どもの棲処は、

浜辺の丘に聳える「銅板葺きの館」。

かつては、

長閑な漁村の象徴たる観光旅館だった。


「魚市場の向こうで、火事だ!」

「軍曹たちが行った方角じゃないか?」

「いいや、ただの火事じゃない!」

「戦闘だ! 〈霊獣〉が暴れているぞ!」



「装甲歩兵小隊、出動! ただちに制圧しろ!」

「『ダンベリア島解放軍』か!」

「いいや、奴らは壊滅したはず!」

「では、何者なのだ!」

「まさか!」

「通達にあった、奴か!」

「装甲歩兵小隊、全滅した模様!」

「ああ、まずい!」

「こっちに飛んでくるぞ!」


丘頂の牙城に、一撃を放つのは、

赫き竜の背に跨り天を翔ける少女。

「〈カムラン〉、灼き払え!」

〈赫炎弾〉!

雷を纏った大火球が、風を切り裂き、爆ぜた。



業火が、緑青の屋根を粉砕し、

中天に舞い上がった。

破れ溶かされた金属の呻きが、

頽廃の漁村に鳴り響いた。


さらに、連撃。


庭園に停められた軍用車も、

火球で、片端から圧砕し、

植木や花壇ごと燃え上がらせた。


炎の館。炎の庭。


低空を旋回する赫き竜の猛攻から、

茶の軍服の群衆が逃げ惑った。



「退避! 退避!」

「〈カムランの灼天竜〉だ!」

「ああ、死にたくない! 〈大聖神〉よ!」


保養中の彼らには、

まともな退避行動はできなかった。

燃える玄関から、

うじゃうじゃとなだれると、

降り注ぐ火球に狼狽えながら、

各々選んだ脱出路を転げ落ちた。


それどころか、

逃げ場がわからず堂々巡りする者、

酩酊状態の幻覚だと決め込む者、

倒錯し業火へ飛び入る者もいた。



他方、散弾銃を振り上げる者どもも。


「『使節団』の到着まで、持ちこたえろ!」

ババババババンッ!


だが、赫き鱗の前では、豆鉄砲も同然。


強靭な翼が起こした大風が、

茶の軍服も、散弾銃も、

塵芥のごとく掃き、

最後の抵抗も制圧した。


そして、

炎上する丘に降り立ったのは、

〈カムランの灼天竜〉の雄姿だった。



ひとり、竜に騎乗していたのは、

〈灼天の紅玉〉を腕に飾るマヤ。


マヤは、竜の背から、

館と庭の周囲を見回し、

東の断崖に、

石造りの蔵を見とめる。


あれか、子どもたちの監禁場所は。


燃え残っていた芝生に足を下ろし、

銀の腕輪を掲げると、

〈カムランの灼天竜〉は、

赫き光の粒子となり、

腕輪の〈紅玉〉に吸い込まれて、還った。



すると、ひっくり返るような眩暈が。


膝をつかされ、首筋を伝う汗に、

気力と体力の消耗を知らされた。


当然だった。戦いつづけているのだから。

沈没する駆逐艦を脱出してから、ずっと。


乱れた黒髪。薄汚れた破れ衣。

共鳴する〈紅玉〉の煌めきも、

だんだんと霞んできているのがわかる。


次の敵と張り合う余力はあるだろうか。

上下する胸に問いながら、

腰を上げ、石造りの蔵の前へと向かった。



蔵の扉は、鉄の錠で閉ざされていた。


散弾銃が足元に落ちていたので、

拾い上げると、

慣れない手つきで銃身を抱き、

銃口を、錠に宛てがう。


銃口が、カチャカチャと擦れる。


躊躇ってはならない、と、引き金に力を込めた。


バンッ!


仰け反らされ、四肢の先まで痺れたが、

鉄の錠は、無事、破壊できた。



体勢を立て直し、一呼吸。


散弾銃を負い革で背に提げると、

両手で、蔵の扉をぐいと押す。


粘っこい軋みとともに、

中の、澱んだ空気が漏れ出す。


ゆっくりと開かれたのは、暗闇の深奥。


燃え盛る外界とは裏腹に、

湿っていて、

陰っていて、

それでいて、

しんとしていた。



「いるのか」


声を低く抑え、慎重に、呼びかけてみる。


返事は、ない。


もう三歩ほど踏み入り、再度、呼びかけてみる。


やはり、返事はない。


代わりに、目鼻がつんとしてきた。


生臭い。朽ちた甘酸っぱい匂い。


両足が、石の床に固まってしまった。



暗闇の深奥に告げられた。

……遅かったのだ、と。


生も、死も、存在せず、

時が過ぎ去るのを待つだけの、

ただ虚ろな、毀された命。


勇気はおろか、

知恵や力を備えたとしても、

この狂気にこねくりまわされた残滓に、

手を施してやることはできない。


あるいは、咎められている気もした。

……驕っていたのだ。

誰も助けられてなどいなかったのだ、と。










◆2










石の蔵を出ると、赤々とした陽が、

マヤの頬を照らし陰らすのだった。


炎の館は、

拉げた骨組みだけとなり崩落しつつある。

炎の庭は、

黒々とした灰が積もるばかりとなっている。


焦点が揺らぎ沈みかけた瞳は、

おぼろげに、東の沖へ。


そして、見開かれた。


……暗くなった水平線に、

ぽつり、ぽつりと艦影が浮かんでいたのだ。



昨夜の「黒騎士」の艦隊だろうか。

明らかに、こちらに迫り来ていた。


脳裏に、殺戮の砲火が蘇った。

肉片と化す彼女の体と、

無音を侵される石の蔵と、

撃砕される漁村の情景が、よぎった。


額の傷が、また、疼きだす。

血が、膿汁を破り溢れ出す。


退けられるか、それとも、避けるべきか。

いずれにせよ、この場にいてはならない。


マヤは、急ぎ、炎上する丘を駆け下りた。



————


だが、慮外の惨状が、

丘の下の漁師町で待ち受けていた。


「殺せ!」「殺せ!」「皆殺しだ!」


怒号を上げた漁民が、

逃げ惑う占領軍を、殺して回っていたのだ。


「鬼畜ガリア人を生かして帰すな!」


血飛沫を散らし、

トタンの漁家を真っ赤に濡らして、

狂気が、表通りを行き交っていた。



ひとりの若い兵士が躓くや否や、

痩せこけた漁夫どもが群がり、

銛で、喉や腹を串刺しにした。

「死に晒せ!」

包丁が、兵士の首を刎ねた。


まだまだ。

漁夫どもは、漁網を放り投げ、

追い詰めた兵士どもを捕らえると、

銛で、胸から背まで滅多刺しにした。

「くたばれ、屑どもが!」


拳銃を奪った。散弾銃を奪った。機関銃を奪った。

燃え残っていた装甲車に跳び乗った。

「鉄槌だ! 奴らに、鉄槌を下せ!」



狂気の宴会が繰り広げられるうちに、

ひとりの若い漁夫が、

丘を下りてきた人影に気づいた。


「あれは、赫き竜の主だ!

ケイネス王子殿下だ!」


肉を挽いていた漁夫どもも、

略奪に没頭していた漁夫どもも、

こぞって、

血走った目をマヤに向けた。


「え、ケイネス王子殿下?」

「ケイネス王子殿下だ!」

「ああ、生きていらっしゃったのか!」



血まみれの包丁。

血まみれの銛。

血まみれの銃。

血まみれの顔。


皆、一斉に、マヤの元に詰め寄った。


「王国万歳!」「王国万歳!」

「ケイネス王子殿下、万歳!」

「てっきり、ヴォルホア沖海戦で、

亡くなられたものかと!」

「ああ、助けにきてくださったのか!」

「『ダンベリア島解放軍』は、

壊滅させられてしまいました!」

「殿下が、仇を討ってくださった!」



血まみれの群衆に取り巻かれて、

マヤは、立ち竦んでしまった。


「違う、われは」

「ケイネス王子殿下! どうか、

〈カムランの灼天竜〉の赫き炎で、

列島中の占領軍を灼き払ってください!」

「憎きガリア人に、死を!」

「誇り高きオーシャニア人に、勝利を!」

「大青海の真の覇者を、

奴らに知らしめてやりましょう!」

「聞け、ここには軍艦が」

「戦わせてください、殿下と共に!」

「オーシャニア再興のために!」

「王国万歳!」「ケイネス王子殿下、万歳!」



血まみれの群衆の手に、

べたべたと縋りつかれた。


「ああ、殿下! 殿下!」

「待て、われは」

「ケイネス王子殿下、万歳!」

「赫き竜に栄光あれ!」

「マグナ=ガリアに滅亡を!」

「奴らを、根絶やしに!」

「血祭りに上げなければ!」

「そうだ、決起の時だ!」


「血祭りだ!」「皆殺しだ!」

「血祭りだ!」「皆殺しだ!」

「血祭りだ!」「皆殺しだ!」



圧し潰されそうになった。

頬を、肩を、胸を、腹を。


「さがれ!」


煌めいた、腕輪の〈灼天の紅玉〉。


マヤの叫びに呼応して、

竜の息吹が、一帯に放たれた。


はじかれる手。吹き払われる漁夫ども。


砂埃を周縁に巻き上げた後、

倒された群衆の輪の中に、

破れ衣の少女は、ひとりとなった。



体中が震えていた。


咄嗟に、〈力〉を振り翳してしまった。


静まり返った、狂気の宴会場。


見下ろせば、

漁夫どもの黒い眼差しが、

彼女を睨み上げていた。


恐怖か。失望か。憤怒か。


負の感情の群れが、どす黒い渦となり、

小さな体を雁字搦めにしようとしていた。

どうすれば、どうすれば、どうすれば……。



「……こっち!」


土壇場の一助だった。


左手を強く引かれ、

マヤは、あたふたと転ぶように駆け出した。


漁夫どもの輪を抜け、

広い表通りから、

狭い路地裏へと、一目散に。


導いたのは、誰か、すぐにわかった。


占領軍に攫われそうになっていた、

あの幼い娘だった。










◆3










カチャカチャと、

背に提げた散弾銃が揺れていた。


錆びたトタンの軒下を潜り、

肩が擦れそうなほどの狭隘を、

雑草や廃材を踏み分けながら、

マヤと幼い娘は、ひた走る。


狂気の宴会場が、背後へ、遠くなっていく。


やがて、路地裏が開け、

ふたりの前に現れたのは、


古びた漁家に囲まれた井戸端の閑地と、

温かな残陽のそそぎだった。



ほっとしてしまうような静けさだった。


足がもつれ、両手を膝に、ぜえぜえと、

マヤは、汗を垂らす。


「大丈夫?」

干からびそうだったところに、

井戸水を汲んだ桶が手渡された。


かぶりついた。

ごくごくと、ごくごくと、

貪るように冷水を飲み込んだ。


渇いた喉に潤いがもたらされ、

体の芯に、わずかばかりの生気が取り戻された。



咽てしまい、桶を下ろしたマヤの顔を、

幼い娘のつぶらな瞳が覗いている。


そういえば、娘に伝えていなかった。


「ありがとう」


娘は、はにかみ、首を横に振る。


「ありがとう、は、わたしからだよ。

さっきは、すぐに飛んで行っちゃったから」


よくよく見ると、

娘の麻布の前掛けには、

赤黒い血がべったりとこびりついていた。



「われは、……いいや、

わたしは、マヤ。あなたは」


「ゲーナ」


「ゲーナ、ここには……」


言い出すよりもはやく、

マヤは、娘に抱きつかれ、

胸に、顔をうずめられる。


「ここ、みんなの秘密の遊び場だったの」


掠れた声と咽んだ息に、

胸を、冷たく湿らされていった。



どうすることもできなかった。


ここに至るまで、この娘に、

どれほどの痛苦があったのか。


慮っても、きっと足りない。


ただ、残陽の温もりが、

娘の傷を慰めることを祈り、

マヤも、娘に腕を回す。


胸に、やるせない犠牲を受け止める。


柔らかな肌に触れたせいか、

背に当たる銃身が、武骨で不快になった。



静寂も束の間。

……ズドンッ!

劈くような轟音が、浜辺の方角から。


耳にこびりついていたその響きと、

地を傾かせるような激震に、

マヤは、

先によぎった情景が現実になりつつあることを、

無情にも、宣告されてしまった。


「艦砲射撃、まさか、漁村を」

「え?」


不穏を孕ませた言葉に、

娘の潤んだ瞳がこわばった。



気を落ち着かせようと、

マヤは、両手を、娘の肩に置いた。


「ゲーナ、聞いてほしい。

東の沖にガリア海軍が来ている。

漁村の外れに、どこか身を隠せる場所は」


「身を隠せる場所?

西に、ディムナットの山林なら。

そこなら、島の奥まで繋がっているから」


「その山林まで走って。ここはもう危ない。

奴らは、漁村の者たちを制圧するつもりだ」


「うん。わかった。でも、おねえちゃんは?」



「わたしは……」

「おねえちゃん?」

「……」

「逃げないの?」


肩に置いた両手が、震えていた。


「……戦わないと。

あの子たちを、あのままにしていたら」


柔らかな両手に、引き留められた。


「もう、いいよ。

もう、戦わなくてもいいから。

一緒に来て。逃げよう」



いつしか、溺れていた。

荒くれたうねりに呑まれていた。


何一つ変えられなかった。

何一つ止められなかった。


殺戮の連鎖が続くだけだった。


見捨てられなかったから、

抗い切れなかったから、

何も斥けられず、何も守り抜けなかったのか。


そして、今、残されている選択肢は、

無邪気な願いを送り届けることだけなのだと、

胸に、深々と刻みつけられたのだった。



……ズドンッ、

……ズドンッ、

轟音は鳴り止まない。


震える手を取り合い、

ふたりで、井戸端の閑地を駆け出す。

目指すのは、西。

砂利の一本路の先には、

鬱蒼とした山林が輪郭を現している。


……ズドンッ!

トタンの漁家が撃ち砕かれ、

業火に焦がされる悲鳴がしても、

振り返ってはならない。

上り坂を、西へ、西へとひた走る。



「ありがとう」

額の傷から溢れた血が、

瞳を赤く染め、頬を伝う。


「いいよ」

柔らかな右手に、握り返される。


視界には、軍人も、漁民もいない。

狂気にこねくりまわされた残滓も、

鋼鉄の巨兵も、

撃砕される漁村も、何も入れない。


ただ、救いたいものを救うために、

岐路を選択できるだけの、

真実のつよさが欲しかった。










◆4










辿り着いた坂の上は集落の端で、

まばらな廃屋と、あとは、荒畑ばかりだった。

砂利の一本路の先には、

鬱蒼とした山林の入口が空いている。


マヤは娘を急かそうとし、

不意に、禍々しい気配に粟立った。


視線だった。


追跡されていたのだ、何者かに。

それも、ただの視線ではない。

姿形ばかりか、心根までも、

しかと見透かされているような、

畏るべき〈無窮の眼光〉だった。



〈紅玉〉が、霞んだ煌めきを介し、

マヤの意思に警告を発している。


「おねえちゃん?」

対し、娘は、まったく気づいていない。

足を止めたまま、首をかしげる。


握り合う、左手と右手。

響き合う、小さな鼓動。


しかし、このままでは逃げ切れない。


戦わなければならない。


再び、傷を咎めなければならない。



これが、荒海の摂理なのか。


溺れる愚者と藻掻く弱者に、

生と死が、結論を急かし、

無知と無力の代償を請求していた。


繋いだものも、掬ったものも、

芽ぐんだものも、灯したものも、

切り、流し、摘み、吹こうとしていた。


それでも、最後の選択肢を貫徹したいのなら。

せめて、無邪気な願いを送り届けたいのなら。


マヤは、

握り合う手を半ば強引に離し、娘と向き合う。



「ゲーナ、先に、山林の奥に隠れていて」

「どうして?」

「敵が来た。逃げ切れない。ここで食い止める」

「でも、さっき、一緒に逃げる、って」

「わたしは、後から、追いかけるから」

「だめ」

「……」

「だめだよ」

「……」

「一緒に行こう」


マヤは、笑顔をつくってみせ、

娘の肩をぽんと押した。


「ありがとう」



娘は、瞳をこわばらせたまま、

しかし、謝恩の言葉の内に、

謝罪の意味を察したようだった。

それは、諦めの表情のようにも映った。


「じゃあ、待っているから」


山林の入口へと、転ぶように駆けて行った。


……ズドンッ、

……ズドンッ、

轟音は鳴り止まない。


マヤは、ふたりの逃げ道に背を向け、

下り坂を、鋭く睨み下ろした。



廃屋の陰から、

ぬるりと姿を現したのは、四人。


黒い外套を深く被っており、

その面差しは窺えないが、

全員、背丈は、

マヤとそう大差ない。


それよりも目を奪うのは、

首元に輝いている、

波紋模様の〈黄金の石〉だった。


絢爛な光沢の裏には、

睨んでいるのか、睨まれているのか、

わからなくなるほどの怪奇があった。



四人は、ぎこちないオーシャニア語で言い放った。


「オーシャニアの王女マヤ!」

「青海の安寧秩序のため!」

「『大聖神判』を果たすため!」

「ここに、きさまを追討する!」


全員、首元の〈黄金の石〉を構える。


すると、

粟立つような、禍々しい気配が。

身も心も見透かすような視線が。


マヤを捉えていた〈無窮の眼光〉の正体は、

あれらしかった。



『万物ヲ見透ス神殿ノ獣ヨ、今無窮ノ眼ヲ開ケ』

「応えるがいい、〈眼魂石〉!」


四人の高らかな詠唱とともに、

激しく輝く、黄金の〈眼魂石〉。


逆巻く風が、金の光の粒子を束ね、

重力をもった球を形成し、

四人それぞれの前に、

四体の〈聖獣〉の、

大いなる肉体を創造していく。


尊き拍動に、

脈打つ皮膚には、

無数の眼球がひしめいていた。



「吼えろ、〈千眼獣ウルク〉!」


一体は、獅子となった。

炎のように靡くたてがみと、

水晶質の鉤爪が脅す。


〈千眼獣ウルク〉、降臨!


「昂れ、〈千眼獣アルプ〉!」


また一体は、水牛となった。

鼻孔から熱い蒸気を噴き出し、

鉛の洞角を振り回す。


〈千眼獣アルプ〉、降臨!



「叫べ、〈千眼獣フンババ〉!」


もう一体は、巨人となった。

赤裸の筋骨は岩盤のごとく、

大地を剛く踏み鳴らす。


〈千眼獣フンババ〉、降臨!


「舞え、〈千眼獣イエラ〉!」


最後の一体は、鷲となった。

鋼の翼に虹彩の帯を引かせ、

逆巻く風を打ち払う。


〈千眼獣イエラ〉、降臨!



破れ衣の少女の前に、

四体の〈千眼獣〉が出揃った。


無数の眼球に捉えられるなか、

マヤの装備は、背に提げた散弾銃と、

腕輪に霞む〈灼天の紅玉〉だけだった。


それでも、戦わなければならない。

愚者だろうと、弱者だろうと、関係ない。


己の活路を、己で切り開くために、

額の傷から溢れた血を拭う。


燃える漁村、夕闇の坂にて、

『青海少年使節団』との対決が始まった。










To Be Continued.

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