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絶海の皇女マヤ -PRINCESS:ABYSS-  作者: 久坂下臈
第1章 王女初陣
4/21

1-3 ハーバーマス保養地

クァーッ、クァーッ、クァーッ、アハハッ!


眠りを覚ましたのは、ウミネコの声だった。


瞼を開けると、

白い羽搏きに群がられている。


クァーッ、クァーッ、クァーッ、アハハッ!


頬や、肩や、胸や、腹を、

つつかれたり、ついばまれたり。


くすぐったい。


たまらず、マヤは、悪戯な群がりを振り払った。



アハハッ、アハハッ、アハハッ!


ウミネコたちは、一斉に、飛び去っていった。


体を起こすと、砂浜にいた。


辺りは、流木だらけ。

貝殻や海藻も散らかっている。


滴る雫。湿った表層には、

雲間から差し込んだ黄金の陽が、

きらきらと照りつけている。


どこなのだろうか。

人影は、まったく見当たらなかった。



マヤは、ひとまず、

砂まみれの体を立たせ、

波打ち際に沿い、

ふらふらと歩いてみた。


踏み出すたびに、

濡れた裾がへばりつき、

華奢な線を浮き彫りにされた。


潮風が、ひんやりと肌を撫でた。


なぜだか、海気には、

朽ちた甘酸っぱい匂いが混じり、

鼻をつんと刺されるようで、

居心地の悪さを覚えた。



クァーッ、クァーッ、クァーッ、アハハッ!


すると、前方に、

大きな白い塊が。


また、ウミネコたちだった。


何に群がっているのだろうか。

近寄ってみる。


クァーッ、クァーッ、クァーッ、アハハッ!


彼らは、食事にいそしんでいた。

白い翼を羽搏かせ、

つんつんと、何かを突いては、啄んでいる。



前屈みになり、

よくよく、

彼らの食事を覗き込んでみると、

血の気を失う。


アハハッ、アハハッ、アハハッ!


ニンゲンの死骸だったのだ。


皮膚が緑がかり、漏液が黒ずみ、

丸出しになった内臓には蛆が湧いていた。


アハハッ、アハハッ!

アハハッ、アハハッ、アハハッ!

アハハッ、アハハッ、アハハッ!



思わず、絶叫した。


ウミネコたちが一斉に飛んだ。


白い幕が剥がれたことで、

さらに、

無数の死骸が露わになった。


皆、腐っていた。


咄嗟に、うずくまり、視界を閉ざす。


胃の奥から込み上げそうになるものを、

気合で飲み込み、

震える唇をぎゅっと噛み締めた。



……疼いていたのは、また、額の傷だった。


脳裏に、闇夜の荒海が蘇る。


殺戮の砲火。

斃される軍人。

炎上する甲板。

鋼鉄の巨兵。

白き龍。

嵐に次ぐ、嵐。


すべて、思い出された。


マヤは、赫き竜と共に雷雨を乗り越え、

辛くも、この砂浜に辿り着いたのだった。



……そうだ。赫き竜、〈カムランの灼天竜〉!


うずくまったままの姿勢で、

左手首をたしかめてみる。


竜の息吹を宿した〈灼天の紅玉〉は、

銀の腕輪を飾り、

ぎらぎらと煌めいていた。


……大丈夫だ。まだ、武器はあった。


動悸が鎮まり、

体熱が戻るのを感じてから、

おそるおそる、

目の前の惨状を見返してみた。



死骸は、どれも、

幼い男児だった。


手首を後ろに縛られており、

蛆の蠢く中には、

銃創らしき窪みが見受けられる。


銃殺刑だろうか。


腐敗の状態からして、

数日間放置されていることが察せられた。


殊に、硫黄臭や発酵臭がとてもきつく、

両目までもがつんとしてきたので、

顔を逸らし、死骸から七歩ほど退いた。



クァーッ、クァーッ、クァーッ、クァーッ!

空を飛ぶウミネコたちが、

また、戻ってこようとしている。


しかし、思慮すべきは、

この惨状の行く末ではない。

この惨状をつくりだした者だ。


おそらくは複数人。銃を所持。

あるいは、今も、この辺りにいるのではないか。


……バンッ!


予感の的中を告げるように、

どこかから、銃声が鳴り響いた。



身を伏せ、

発砲があっただろう方角に振り向くと、

漁村があった。


砂浜の隣で、

錆びたトタン屋根の並びが頽廃を呈し、

その向こうの丘には、

銅板葺きの館が怪しく聳えていた。


そして、異様な殺気。

とにもかくにも、留まっているのは危険らしい。


マヤは、

砂と煤と血にまみれた裾をたくし上げ、

急ぎ、砂浜の惨状を後にした。










◆2










——『戦艦ユーゲスト=ネーゲル』

第一艦橋・艦隊指揮所


艦は、停泊中。


窓から覗く占領地の港は、侘しい。


とびきり苦い珈琲を片手に、

ガイウスは、所内に目を遣ると、

ぼんやりと引き締まらない、

夜勤明けの幕僚たちがいる。


寝不足のシルヴァも、

椅子の上で膝を抱え、

銀髪を指先でいじっている。



物憂げな空気を破ったのは、

ガイウスが招いていた客人だった。


ドン! ドン! ドン!

「トレビオです! 入所許可を求めます!」


ガイウスが許可を出すと、

防水扉をこじ開けて、

快活な太顎の男が入った。


名は、トレビオ。


ガイウス率いる第三艦隊の主力の一角。

『三十 節(ノット)の騎士』の異名を取る、

夜間雷撃戦の達人だった。



「トレビオ准将、昨夜はご苦労だった。

即席で編成させた先行群だったが、

敵駆逐艦を沈めてくれるとは、見事だ」


「とんでもない。

提督の電波探知網があったからこそ、ですよ。

あとは、

まあ、有能な部下たちのおかげでしょうか。


それより、こちらを。

捕虜の口から、

盛りだくさん吐かせておきましたから」


トレビオから差し出された報告書に、

ガイウスは、早速、目を通す。



「……ほほう。

奴ら、やはり、『解放軍』の一派だったか。

これは何だ? 海軍極秘? 緊急? 軍事?」

「『海軍極秘緊急軍事行動案第十八号』、

だそうです」

「いやはや、長いな」


「ええ。昨夜の王女拉致を首謀したのは、

エドモンド国王の逮捕に焦った、

オーシャニア海軍の青年将校どもでした。


そして、軍事拠点『海星島』。

奴らが逃亡先として予定していたようですが、

座標がデタラメで、どこのことやら。

まだまだ情報を吐かせる必要がありそうです」



ガイウスは、報告書を一通り捲り終えると、

珈琲を一口、眉をひそめる。


「……〈灼天の紅玉〉を隠し持っていたのが、

『解放軍』の一派だったとなると、

〈羅森の翠玉〉も、また、

奴らの手中にあると見るのが妥当か」


オーシャニア王家に伝わる『護国三大霊獣』は、

それぞれ、

〈灼天の紅玉〉、〈溟海の碧玉〉、〈羅森の翠玉〉に、

その霊体と霊力を封じられている。


〈溟海の碧玉〉は、第二王子と共に海に沈んだが、

〈羅森の翠玉〉は、未だ行方が知れなかった。



そして、〈灼天の紅玉〉。


ケイネス第三王子を殺害して以来、

半年ぶりに姿を現したそれは、

王女の左手首に煌めいたまま、

嵐の中へと、再び、消えていった。


「あの王女、さすがに死にましたかね。

熱帯低気圧に突っ込んだのでしょう?

今頃は、海の藻屑でしょうか、〈紅玉〉もろとも」


トレビオのざっくばらんな指摘。

しかし、

決死の王女と相対したガイウスの目には、

少々異なるものが映っていた。



「あの子、こわいよ」


彼の所感を代弁するように、

呟いたのは、シルヴァだった。


いつになく頑なな彼女の瞳に、

ガイウスは、向き直った。


「ああ、王女の生死はまだわからないだろう。


熱帯低気圧を越えた先のダンベリア島東沖には、

念には念を入れ、捜索群を差し向けておいた。


もっとも、王女が陸に上がっていれば、

あとは占領軍に任せるしかないが、な」



トレビオは、ぽりぽりと太顎を掻く。


「まあ、万一、王女が生きていたとしても、

すぐに捕まることでしょう。

所詮は、王宮育ちのお嬢さまでしょうから。


ところで、提督、占領軍総司令部からは何と?」


「先刻、叱責の電報ならばあった。

敵艦艇を王都港湾よりみすみす逃がした挙句、

王女の生死の確証すらも得られずじまいとは、

第三艦隊諸君の失態甚だし、とのことだ。


ラッサリウス総司令は、

今回の全責任を、海軍に押しつけたいらしい」



トレビオも、ガイウスも、苦笑う。


「ラッサリウスも必死ですね。

王都港湾は占領軍の管轄区域ですし、

そもそもの原因は、

王女を公邸から拉致されたことでしょう?

何か言い返してやったらどうです」


「無論だ。今、副官に返信を書かせている」


第三艦隊と占領軍の仲は、険悪だった。

海と陸とで軍種を異にする上、

最高指揮官の気質が合わない両者の関係は、

構造的にも実質的にも捻れたものとなり、

概して、非効率な相互非難を繰り返していた。



ふたりが話にのめり込むうちに、

シルヴァは、また、銀髪を指先でいじりだす。


「それにしても、今回の大失態は、

ラッサリウスらしくないですね。

諜報は、本来、彼の十八番でしょうに」


「あいつも忙しいのだろう。

統治機構の改編。軍事裁判の準備。北方への警戒。

仕事が増えれば、粗も増えるというものか。


だが、次の手は打ったようだ。


王女が上陸した可能性のある臨海地域には、

『青海少年使節団』が動員されるらしい」



「『青海少年使節団』?

あれですか、『ガリア大聖教』の」


聞き覚えのある名称に、

シルヴァは、指先を止めた。


「占領軍の軍備増強のため、

本国より派遣されたばかりだと聞くが、

まさか、このような形で動員されるとは。


仮に、王女が生きていたとしても、

准将が言った通り、

その進退窮まった状況は揺るぎまい。


さて、荒海はどううねるかな」










◆3










——ダンベリア島東部 ハーバーマス漁村


錆びたトタン屋根の狭間を、

鋼の装甲の軍用車が、

砂埃を巻き上げ、爆走する。


表通りに人気はなく、

車両は、縦横無尽に暴れ放題。


撥ね飛ばされた石ころが、

番屋の窓硝子にひびを入れた。


反射する漁師町の情景が、

衝撃に耐えかね、

ぱらぱら、ぱらぱらと砕け散る。



「ガキだ! ガキを探せ!」


揺れる車内には、

茶の軍服の男どもが、

ぎゅうぎゅうに詰める。


彼らは、占領軍。


オーシャニア列島の武力支配を任された、

ガリア陸軍の下士官兵どもだった。


けれども、今は、保養中。


遠方任務の鬱憤を晴らすべく、

最上級の「娯楽」に耽っていた。



呼気は酒臭く、奇声はやかましい。


「おい! 二等兵! もっと速度を上げろ!」

「了解! 軍曹!」

「そういえば、軍曹、朝の通達は読みましたか?」

「どうした! 伍長!」

「ガキ、いませんね!」

「『青海少年使節団』の件ですよ!」

「何だ! 聞こえない!」

「魚市場、突っ切りますよ!」

「『青海少年使節団』!」

「もういい! ややこしい話は後だ!

ほら! 二等兵! もっと速度を上げろ!」

「了解! 軍曹!」

「……」



ごつごつとした車輪の回転が、

横一列の木箱と木棚を、どかんと蹴散らした。


男どもは、愉快痛快。


魚市場をそのまま突っ切り、

浜辺の宅地へ抜け出ると、

風防窓に、茶の軍服の群衆が。


「おい! 二等兵! ここで停めろ!」

「了解! 軍曹!」


砂利を散らして、急停車。

鋼の車扉を蹴り開けて、

男どもは、うようよと路上に降りた。



そこには、古びた漁家があった。

石壁とトタン屋根の簡素な造りに、

漁網や浮玉が吊るされていた。


玄関では、

家主らしき白髪の老漁夫に、

兵士どもが群がっている。


「おお、やっているな!」


軍曹は、にやにやと、兵士どもに歩み寄る。


「これは、軍曹!」

「このジジイ、ガキを匿っているのですよ!」

「さっきから家の中に入れさせないのです!」



老漁夫は、玄関に張りついていた。

日焼けした肌には、

殴打の痕が蒼く浮くが、

その面差しは、硬く、動じない。


軍曹は、

二等兵に指で合図を送り、

伍長を付き従え、

老漁夫の前に立つ。


「おい、伍長、きちんと訳せよ。

……ジジイ、日向ぼっこか?

それとも、

外の空気でも吸いたくなったか?

嵐が過ぎた後は気持ちがいいからな」



老漁夫は、面差しを険しくしたまま、

ぱくぱくと何かを言い立てる。


それを、伍長がガリア語に翻訳する。


「帰れ、占領軍、……だそうです」


ふうんと首を縦に振ると、

軍曹は、いきなり、

老漁夫の頬を殴りつける。


「ジジイ、わからないのか!

おれは、お喋りがしたいのだよ!

言葉と、言葉で、親密に!

ジジイと語り合いたいだけなのだよ!」



老漁夫は、倒れなかった。

砕かれた頬を赤く腫らしながらも、

ぱくぱくと物を言うのをやめなかった。


「おまえたちと親密にはならない、

何人攫った、何人殺した、この村で、

帰れ、おまえたちの国へ、今すぐに、

……だそうです」


軍曹は、にやにやと、殴った拳を摩る。


「ジジイ、おれは悲しいよ!

おれは、ジジイと出逢えたことを、

心の底から喜んでいたのに!

仲良くなれると思っていたのに!」



……ガシャンッ!

その時、大きな物音が、漁家の奥から響いた。


異変に気づいた老漁夫が振り向くと、

軍曹は、

白髪頭を後ろからひょいと掴み、

鼻頭を、扉に叩きつけ、

顔面を、砂利まで擦り落とす。


血溜まりができた。兵士どもに嗤いが漏れた。


軍曹は、うつ伏せになった白髪頭を、

踏み潰し、踏み砕き、踏み躙る。


老漁夫は、痙攣し、動かなくなった。



「軍曹! やりましたよ!

上等な娘だ! こいつは当たりだ!」


漁家の奥から、

幼い娘を担いだ二等兵が、

意気揚々と跳び出した。


軍曹が老漁夫を殴っている間に、

裏手に回り込んでいたのだ。


娘が泣きじゃくり暴れるのを見かね、

軍曹は、

腰から拳銃を引き抜き、バンッ!


空への一発で、娘を黙らせる。



「おまえ、ジジイの孫娘か?

可愛い顔だ。

仲良くしようよ、せっかく出逢えたのだから。


ほら! 野郎ども! 保養所に戻るぞ!」


「おう!」と男どもは掛け声を上げ、

娘を囲み、軍用車の扉へ向かう。


……だが、

「やめろ」

威圧感が、彼らを遮った。


砂と煤と血にまみれた少女が、

黒々とした瞳で睨みつけていたのだ。










◆4










自分でも、愚かだと思った。


わざわざ首を突っ込まずに、

物陰に隠れ、やり過ごすこともできたはずなのに。

腹の奥底を、鈍く、熱く、燻ぶられ、

気づけば、娘を攫う男どもの前に躍り出ていた。


赦せなかった。


これを見過ごせば、自分は屑だと思ったのだ。

奴らを斥けるだけの〈力〉が、

彼女の手中に、たしかに在るのだとすれば。


遣り場のない怒りを滾らせて、

マヤは、敵を睨んだ。



クァーッ、クァーッ、クァーッ、アハハッ!


空では、ウミネコたちが鳴いている。


「おお、何かと思えば、

獲物がもう一匹、のこのこと近づいてきたぞ!

汚らしいなりだが、顔は悪くない!

おい、伍長、訳せ。

……お嬢ちゃん、何の用だい?」


にやつく軍曹。

マヤは、怯まない。


「砂浜で子どもたちが死んでいた。

なれらの仕業か。答えろ、占領軍」



クァーッ、クァーッ、クァーッ、アハハッ!


「偉そうな口ぶりだな。余所者か?

あれは、戒めだよ。

あのガキどもは、おれたちに逆らったから」


「逆らった?」


クァーッ、クァーッ、クァーッ、アハハッ!


「教習を拒んだのだよ。


この村のガキどもは躾がなっていないから、

おれたちの保養所で、

世話をすることにしているのだ」



クァーッ、クァーッ、クァーッ、アハハッ!


「世話をするとは、その子も、か。

なれらが、何を教示する」


「何って、それは、……ねえ」


アハハッ、アハハッ、アハハッ!


軍曹と兵士どもは、

顔を見合わせ、引き嗤い。

渇いた唇を、舌舐めずり。


のしかかるような鳥影が、

空を、より黒ずませた。



「……教習などと称し取り繕うのは、やめろ。


なれらは、ひとを攫い、

手籠めにし、撲りつけ、殺したいだけだ。


今すぐに、その子を離せ。


抵抗する力を持たない者に、

卑劣な真似をするな」


アハハッ、アハハッ!

アハハッ、アハハッ、アハハッ!


男どもの嗤いは収まらない。

空を、ますます黒ずませていく。



軍曹が近寄ってきた。


ふうんと首を縦に振るかと思えば、

いきなり、

腹を蹴飛ばされる。


砂利の上に、倒伏。


刺すような痛みに、

額の傷が、また、疼きだす。


アハハッ、アハハッ、アハハッ!


どろどろと渦巻く闇が、

空を、真っ黒に染め上げてしまった。



「お嬢ちゃんは、わかっていないね。


取り繕うのはやめろ? 卑劣な真似をするな?


おまえらオーシャニア人だって、

戦場で、誰彼かまわず、

嬲り殺しにしてきただろうが!

偉そうに説教しやがって!


降伏しようが関係ない。

勝者には、敗者を罰する権利がある。

そういうものなのだよ。


お嬢ちゃんにも教習が必要だな。

さあ、おいで、おれたちの保養所へ」



アハハッ、アハハッ、アハハッ!


わからなかった。

戦場も。生きることも。勝つことも。


誰も、彼も、戦火の収束など望まず、

復讐に復讐を重ねようとするだけだった。


力を振り翳した者は、必ず、

力を振り翳され、斃れる。

そういうものなのかもしれない。


それでも、どうしても、わからない。

目の前の幼い娘が、

犠牲を払わなければならない理由が……。



アハハッ、アハハッ、アハハッ!

アハハッ、アハハッ、アハハッ!

アハハッ、アハハッ、アハハッ!

アハハッ、アハハッ、アハハッ!

アハハッ、アハハッ、アハハッ!

アハハッ、アハハッ、アハハッ!


……マヤは、立った。


『烈火昇天、靭翼旋空、精悍ノ誉ニ不滅ヲ謳ヘ』

「翔来せよ、〈カムランの灼天竜〉!」


激しく煌めいた、腕輪の〈灼天の紅玉〉。


闇が渦巻く空の下に、赫き光が充ち満ちた。



「眩しい、目が!」

「これは、〈霊石〉の光か!」

「まさか、通達にあった、あの!」


拳銃を抜かせる間も与えない。


〈紅玉〉から放った鉤爪の威力で、

軍曹と兵士どもを八つ裂きにし、

二等兵の胴体を真っ二つにして、

肩に担がれていた娘を解き放った。


灼熱の切断面は、たちまち発火。


男どもの屍が燦々と燃え上がり、

砂利の路上は、炎に包まれた。



〈カムランの灼天竜〉、激発!


強靭な翼を広げた赫き竜が、

屍を踏み潰し、炎に降り立つ。


「ああ、死ぬ!」


銅色の眼光に睨まれた伍長は、

泡を食い、腰を抜かした。


マヤは、顔に浴びた血を拭うと、

荒くれたうねりに身を投じたことを悟った。


「答えろ、通訳。

攫った子どもたちは皆、どこだ」










To Be Continued.

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