4-4 闇の羅森獣・後編
『戦艦ユーゲスト=ネーゲル』、一斉砲撃。
ズドドドドドドドンッ!
連続炸裂。
鉄火の波が、〈深黒の大樹〉へ。
爆炎が、深黒の葉を燃え上がらせ、
爆風が、深黒の枝を吹き飛ばす。
ズドドドドドドドンッ!
深黒の蔓が伸び、
燃える樹冠を包み込むが、
質と量を増す砲火が、
再生に匹敵する速度で損傷を与えつづける。
ズドドドドドドドンッ!
この、
海上に君臨する「鋼鉄の処刑者」による、
地上に君臨する「凶木の断罪者」への猛攻は、
王都港湾の市民に、
閃光と轟音の恐怖をもたらす一方で、
〈大樹〉の侵食から逃げる猶予をつくってもいた。
ズドドドドドドドンッ!
〈闇の羅森獣〉の霊力を、
樹冠の再生に割かせることで、
蔓と根の延伸を、
大幅に遅らせていたのだった。
ズドドドドドドドンッ!
砲弾が風を切り裂く真下では、
リタが、逃げ惑う市民を誘導していた。
「南へ走ってください!
南へ! ワダン拘置所から離れて!」
ズドドドドドドドンッ!
その脇では、レオが冷や汗をかいていた。
「暴挙だ、艦砲射撃など。狙いを外せばどうする。
アルクシア級戦艦の主砲となれば、
七〇〇 呎は吹き飛ばすはずだぞ」
ズドドドドドドドンッ!
みすぼらしいなりをした群衆が、
石畳の大路を、南へ、南へとなだれていく。
リタは、レオに怒鳴った。
「ちょっと! 眺めていないで、手伝って!
せっかく制限処分を解除されたんでしょう!
バッサス憲兵隊長からの命令なんだから!」
「う、うむ!
しかし、バッサス憲兵隊長からは、
南へ逃がせ、とのお達しだが、
海が近いぞ! 追い詰められやしないか!」
その時、ふたりは、激震に足を取られた。
石畳を突き破って、
深黒の根が、大路に露出したのだ。
深黒の根は、しなり、うねり、荒ぶって、
赤煉瓦と白格子の建物を叩き壊し、
リタとレオの頭上に、瓦礫を撒き散らした。
「お願い!」「任せろ!」
レオは、首飾りの〈眼魂石〉を構えた。
輝きとともに、
鉤爪の威力が放たれ、
瓦礫を、粉々に砕いた。
だが、深黒の根は止まらない。
次から次へと建物を叩き壊し、
群衆が逃げ惑う大路一杯に、
大量の瓦礫を撒き散らした。
瓦礫が、痩せこけた老夫を圧し潰す。
深黒の根が、やつれた幼女を叩き潰す。
「レオ、何とかして!」
「〈千眼獣ウルク〉、吼えてくれ!」
詠唱を捧げるが、
全快していないレオの〈眼魂石〉では、
〈千眼獣ウルク〉を召喚することができない。
血飛沫が舞い、石畳を真っ赤に濡らしていく。
死が、大路に蔓延していく。
リタとレオに絶望がよぎった時、
一縷の白き光が、
視界をたちどころに反転させた。
超高熱の破壊光線だった。
〈白熱伝導弾〉!
凄まじい耀光と圧力波に、
空と陸が割れるように呻き、
飛び散る瓦礫も、荒ぶる深黒の根も、
瞬時に、昇華しはじけた。
「シルヴァ!」
リタは、上空を仰いだ。
研がれた大理石のように滑らかな頭部に、
紫色の眼を冷徹に光らせ、
鋭く引き絞った翼を背に、
〈白き龍〉が、高速で北上していった。
「〈伯焔龍フォルティナ〉、奴と戦うのか」
レオは、拳を固く握り締めた。
彼が欲する、守りたいものを守れるつよさを、
激戦に臨む飛龍の影に重ねたのだった。
——ワダン拘置所 上空
〈伯焔龍フォルティナ〉、襲来!
銀髪を靡かせるシルヴァは、
龍の背から、〈深黒の大樹〉を見下ろした。
〈深黒の大樹〉は、
脅威の接近を察したようだった。
深黒の蔓を張り巡らせ、
〈伯焔龍フォルティナ〉を取り囲むと、
篭を編み、収縮させ、絞め殺そうとした。
〈黒死・裂情棺罰〉!
対し、シルヴァは、反撃を命じた。
「〈フォルティナ〉、やっつけて」
〈伯焔龍フォルティナ〉の大口が、
青白い焔を湛え、
収縮する篭目掛けて、撃ちまくった。
〈白熱伝導弾〉、八連発!
一発目、左右から迫る蔓を薙ぎ払った。
二発目、上下から迫る蔓を吹き払った。
三発目、正面から迫る蔓を焼き払った。
収縮する篭を突き抜け、〈深黒の大樹〉に接近した。
四発目、樹冠の枝葉を散らした。
五発目、幹を深くまで抉った。
さらに、
背後から迫る蔓をひらりと躱すと、
損傷させた部位に畳み掛けた。
六発目、外樹皮を穿った。
七発目、内樹皮を貫いた。
八発目、形成層まで暴いた。
シルヴァの狙いは、ただひとつ、
中にいるだろう召喚者の命だった。
〈闇の羅森獣〉の暴走を止めるには、
召喚者を殺害し、霊力の源を断つしかない。
◆2
——ワダン拘置所 南門
カイは、ハナをおぶり、
崩壊する混凝土壁から逃げていた。
頭上では、
〈白き龍〉と〈深黒の大樹〉の格闘が続き、
破壊光線や千切れた蔓、瓦礫が降り注いで、
ふたりの脱出路の妨げとなっていた。
ハナは、擦り切れた外套をつねる。
「カイ、どこに行くの! マヤは!」
カイは、答える。
「王宮東門御苑だ! 地下道に撤退する!」
ハナは、声を震わせた。
「マヤを置き去りにするの?
軍人としての責務は?
王家の剣となり盾となるんじゃなかったの?」
カイの声も、震えていた。
「ハナ、冷静になれ!
もう、ここで、おれたちにできることはない!
おれたちは、生き延びることだけを考えるぞ!
そもそも、だ!
王女殿下に取り入ろうなんて言っていたのは、
おまえだろう!」
背後で、
破壊光線の連撃が、石畳を砕いた。
爆炎と爆風が、命に差し迫っていた。
ハナは、擦り切れた外套に額を摺り当てた。
「でも、マヤが……」
カイは、卑怯を承知で言い放った。
「……王女殿下を信じろ。
あいつは、誰よりもつよくなろうとしていた。
そう簡単にやられやしない。
不器用なやつだが、必ず、帰ってくる。
おれたちは、水路橋であいつを待つんだ」
——〈闇の羅森獣〉深奥部 黒樹洞
額の傷が、疼きつづけていた。
血が溢れ、唇に伝い、舌先に沁みれば、
唾液が錆びつくような苦々しさが。
けれども、死んではいられない。
マヤは、周囲を見回した。
がらんどうだった。
深黒の枝が絡み合い、
曲々しい内壁となって、
湿り陰った寂寥を閉じ込めていた。
体を動かそうとしたが、動かなかった。
深黒の蔓に吊るされていた。
四肢を縛られ、胴を巻かれ、関節を締められ、
がらんどうに、惨めな姿を晒されていた。
そうだった。
ギルと争っていた時、
暴走を始めた〈シャーレイの羅森獣〉は、
悍ましき〈深黒の大樹〉に変貌した。
そして、
マヤは、〈カムランの灼天竜〉もろとも、
肥大化する幹に取り込まれてしまったのだった。
マヤは、瞼を閉じ、深呼吸をする。
じっと意志を漲らせてから、鋭く開き、
腕輪の〈灼天の紅玉〉に命じた。
「翔来せよ、〈カムランの灼天竜〉!」
〈烙隕星弾〉!
天井を砕き、
烈火の落下体が、噴進、急降下。
灼熱の炎の威力を全身に帯びて、
〈カムランの灼天竜〉が飛び込んだ。
大風に舞い、瞬く火の粉が、
マヤを吊るしていた深黒の蔓を灼き切った。
マヤは、火の粉を纏い、内床に降り立った。
足元に落ちていた散弾銃を拾い上げ、構えた。
寄せ来る深黒の蔓を、
〈カムランの灼天竜〉に睨ませ、牽制した。
「……マヤ王女殿下」
呼び声に振り向くと、
深黒の内壁に下半身と両腕を呑まれ、
うねうねと悶え苦しむ少年の影があった。
無数の細根を胸に生やされ、干からびつつあった。
「きさまは……」
ギルの、成れの果てだった。
「……無様でしょう。ぼくも、そう思います。
どうぞ、嗤ってください。
どうぞ、蔑んでください。
ぼくの意思が保つのは、あとすこしだけです。
ぼくに屈辱を味合わせたいのなら、今のうちです。
……いいえ、こんなことを要求するのは、
殿下への侮辱になってしまうのでしょう。
殿下だけは、違いました。
ぼくのことも、父のことも、
殿下だけは、謗りませんでした。
……本当に、嬉しかったのです。
この幸福に、ずっと浸っていたかったのに。
……〈シャーレイの羅森獣〉は、
完全に、ぼくの意思を乗っ取ろうとしています。
負の感情を増幅させようとしています。
正の感情を埋没させようとしています。
……惨めです。
己の弱さと愚かさを呪うだけでは、
堪え切れなくなってしまった自分自身が、
情けなくてなりません。
……ですが、殿下。
ぼくが堪え切れなくなってしまったのは、
殿下のせいでもあるのです。
……誰も、彼も、平然と、疑いもせず、
ひとを騙し、脅し、傷つけ、殺すだけのことなら、
ぼくは、
奴らにいじめられつづけることを、
納得できていたことでしょう。
……ですが、殿下の御性情は、
ぼくに、気づかせてしまったのです。
奴らは、ただの、道徳的怠慢な狂人だったのです。
……赦せなくなりました。
……殺してやりたくなりました。
……死んだ方が世のためだと確信しました。
……狂っているでしょう。
これでは、ぼくは、奴らと同じです。
それでも、始末しなければ、と思ったのです。
殿下の名誉を守りたかったのです。
……聡明な殿下は、とうにお気づきでしょう。
殿下は、奴らの手により、
王室新設の道具にされようとしていたのです」
◆3
ギルの声は、消えそうなほどに掠れていた。
「……殿下は、勇気をお持ちでいらっしゃいます。
……勇気とは、何も、
無謀な一歩を踏み出すことでもなければ、
勝手な使命感を抱くことでもありません。
……己の罪と向き合う覚悟です。
……それこそが、真実のつよさなのです。
……臆病者は、己の罪から目を背けるか、
誰かに、何かに、赦しを乞います。
……卑劣漢は、己の罪を棚に上げ、
他人に罰を与えるのです。狂っています。
……狂人は、いつでも、
勇気ある者の心につけこみ、
遮りようもないほどに撲りつけます。
……だから、勇気ある者は、
胸の内に、痛苦を溜めなければならないのです。
……それでも、殿下は、
不退転の覚悟をもって、
闇夜の荒海に臨むのでしょう。
弱さを呪いつづけるのでしょう。
愚かさを呪いつづけるのでしょう。
傷を咎めつづけるのでしょう。
……ぼくのせいです。
……ぼくは、断罪されるべきです。
ぼくが、救いを奪ってしまったせいです。
祈りも、赦しも、攫ってしまったせいです」
「待て」
「……」
マヤは、言葉を繋ぎ止めた。
「きさまが〈力〉を振り翳したのは、
対話を諦めたからか。言葉を棄てたからか。
答えろ」
ギルは、繋ぎ止めた言葉を圧した。
「……はい。諦めました。
……そして、今はもう、
言葉の尊さを説く資格を失いました。
……言葉とは、
己の罪と向き合える者同士が、
約束を交わすための概念です。
……ひとを撲りつけた者に、
言葉の尊さを説く資格はありません。
どんな理由があろうとも、
どんな事情があろうとも、です。
それは、言葉そのものを貶める行為です」
対し、マヤは、気圧されなかった。
「ならば、われにも、
言葉の尊さを説く資格はない。
われも、ひとを殺した。
拳も言葉も武器にした。
優劣のつけようのない蛮行のはずだ」
ギルは、言葉を圧するのを止めた。
「……やはり、
殿下は、ご立派でいらっしゃいます。
殿下は、その拳も、その言葉も、
最後には、殿下御自身に向かわせます。
殿下には、もっと早くにお逢いしたかった」
寂寥も束の間。
……ズドドドドドドドンッ!
轟音と激震が、外界から。
「艦砲射撃か」
「……それだけではないようです。
……〈白き龍〉が迫っています。
……近づいています、ぼくの終わりが」
「終わり、だと」
マヤは、息を呑んだ。
ギルの、生への諦念の内に、
死への執念を、察した。
ギルは、マヤに向き直った。
「……最後に、これだけ、伝えさせてください。
……ぼくは、殿下を赦したいのです。
……ぼくたちは、形式的にも、実質的にも、
この社会を動かすことはできませんから。
……勇気ある者の心を、邪知暴虐が蝕む、
この荒海の摂理を打ち破ることはできませんから。
……殿下のこれまでの戦いは、
やむを得なかったことです。
……奴らを殺すのは、仕方のないことです。
……その代わり、約束してほしいのです。
……殿下には、この社会を動かせずとも、
その目に留まった子どもたちを守れるだけの、
知恵と力があります。
……どうか、彼らを守ってください。
……守りきれなくても、守りつづけてください。
……ぼくたちが、いいえ、きみたちが、
真実のつよさをもって、この社会を動かし、
この荒海の摂理を打ち破ることができる日まで、
きみは、戦いつづけてください。
……これが、きみの戦争です」
マヤは、激しく首を振った。
「いいや、できない!
そんな約束など、あってはならない!
戦いつづけろ、など!
われは、戦いなんか大嫌いだ!
誰も騙したくないし、脅したくもない!
傷つけたくもないし、殺したくもない!」
ギルは、瞳を黒光りさせた。
「……いいえ、戦争とは、真っ先に、
戦争に興味を持たない者を轢き殺すのです。
……この約束は、
きみたちの憎しみへの赦しであり、祈りなのです」
マヤは、頑なに拒んだ。
「いいや、祈りではない!
すべてを呪っているだけだ!
きさまは、きさまの戦いを終わりにしたいだけだ!
勝手に満足して、勝手に消え去りたいだけだ!
逃げるな! 言葉を繋げ!」
ギルは、瞼を閉ざした。
悦んでいるようでもあり、
怒っているようでもあった。
嗤っているようでもあり、
泣いているようでもあった。
「……ありがとうございました。
それから、申し訳ございませんでした。
どうか、きみが、毀れませんよう」
……ガシャンッ! ガラガラッ!
「ギル!」
ギルは、舌を噛み潰した。
ぐしゃぐしゃになった肉片を飲み込み、
口から、黒い血を溢れ出させた。
「……えん、……あ、……、————」
ギルは、悶え苦しんだ後、喋らなくなった。
◆4
——『戦艦ユーゲスト=ネーゲル』
第三艦橋・戦争指揮所 展望台
ガイウスは、双眼鏡を覗き込んだ。
〈深黒の大樹〉の侵食が、突然、止まった。
建物を叩き壊していた蔓が、
瓦礫を撒き散らしていた根が、
みるみるうちに、萎びて、枯れた。
「どうやら、片づいたか」
一つの戦いの幕切れが、
ガイウスの鷹の目に、ようやく見据えられた。
まもなくして、副官から報告が。
「埠頭の海兵隊より、朗報です!
〈シャーレイの羅森獣〉、静止!
霊体が消滅しだした模様!」
ガイウスは、頷いた。
「よし、砲撃停止だ。
海兵隊には、憲兵隊の指揮の下、
避難民の護衛を続けさせろ。
これより、衛生班を急行させる。
負傷者の応急手当と、
その他要配慮者の支援を進めるのだ」
——軍用埠頭
「〈大樹〉の侵食が止まったぞ?」
「助かったのか?」
「どうなっている、王都港湾は?」
岸壁に押し寄せた群衆が、
状況の変転に気づき、ざわめいた。
リタとレオは、両手を振り、彼らを宥めた。
「戻らないでください!
〈霊獣〉の暴走は止まりましたが、
市街の安全は確保されていません!」
「この場で動くな! 指示を待て!」
ざわめきは、鎮まった。
その後、避難民は、憲兵隊の指示の下、
救命処置が必要な重傷者のための「緊急列」と、
年少者、高齢者、傷病者等のための「優先列」と、
その他の者のための「一般列」とに区分され、
手荷物を検査された。
避難所となった倉庫の隅で、
リタは、ほっと一息吐いた。
「シルヴァが、何とかしてくれたのかな」
レオも、壁にもたれかかった。
「そういうことだろう。
輸送艦まで使わずに済んだのは、幸いだった」
死線を乗り越えたふたりは、
気力も体力も消耗し切っていた。
「……待機時間だけれど、
何かあったら、また、出動、だよね?」
「……ああ、休息時間ではないからな」
「……仮眠くらいは、いいと思う?
あたし、もう、無理かも」
「……わかった。何かあれば、おれが起こす。
せっかく制限処分を解除されたのだ。
これぐらいは、役立とう」
リタとレオは、笑い合った。
「……疲れたね、本当に」「……まったくだ」
——軍事裁判所 正門
バッサスは、部下の報告を受け、
黒眼鏡の最高指揮官に振り向いた。
「総司令、
〈シャーレイの羅森獣〉が静止したようです。
〈伯焔龍フォルティナ〉の勝利です」
ラッサリウスは、頷いた。
「さすがだね。助かったよ。
『アレ』を使わずに済んだ。
さてと。
軍事裁判所の解放軍どもも、
奥の間で腹を切っていたことだし。
バッサスくん、次の仕事はわかるね?」
バッサスは、即答した。
「これより、
第六十一騎兵師団と共に、
ワダン拘置所へ急行します。
必ずや、
〈羅森の翠玉〉と〈灼天の紅玉〉を、
回収して参ります」
軍事裁判所にいた憲兵隊は、
颯爽と、馬を駆った。
砕け散った石畳と、
撒き散らされた瓦礫を跳び越え、
北へ、北へ。
ワダン拘置所へ。
——ワダン拘置所 南門
〈深黒の大樹〉が、崩壊していた。
樹冠も、幹も、蔓も、根も、
萎びて、枯れて、塵と化していた。
深黒の塵は、瓦礫の山に降り注ぎ、
積もっては、溶け、
積もっては、溶け、
有から無への解体を繰り返していた。
「空間」だけだった。
いつ、だれが、なにを、どうしたから、
このような惨状がつくりだされたのか。
そのような思索は、意味を失っていた。
「探せ!」「探せ!」「王女を探せ!」
万雷の蹄音。
憲兵隊と第六十一騎兵師団が殺到した。
「〈灼天の紅玉〉と〈羅森の翠玉〉を逃すな!」
兵士どもは、馬から跳び降り、
血走った目で敷地内を見回した。
ほどなくして、
ひとりの若い兵士が、瓦礫の山を指差した。
「あそこだ! あの中にいるに違いないぞ!」
兵士どもは、一斉に、瓦礫の山をよじ登った。
「王女を見つけるのは、おれだ!」
兵士どもは、瓦礫を漁った。
「待て! 待て! おれが!」
混凝土片を拾っては、投げ、拾っては、投げた。
「いいや、おれが一番乗りだ!」
黒い外套の屍が現れた。
「うおっ!」
黒い礼服の屍も現れた。
「ちっ、汚えし、臭え!」
それでも、かまわず、瓦礫を漁った。
「どうでもいい死体は、捨て置け!」
屍が窪んだ。屍が潰れた。屍が破れた。
「どこだ、王女は!」
血が噴き出した。血が噴き出した。
瓦礫の斜面は、流血階段と化した。
血まみれの群衆。血まみれの軍服。
血まみれの銃。血まみれの顔。
皆、うようよと、のたうった。
皆、うようよと、ずりおちた。
狂気の宴会の有様を、
五十歩ほど離れた位置から、
シルヴァが、冷ややかに眺めていた。
彼女は、わかっていた。
……処々方々、いかなる戦いも必ず、
一握の鉄拳、一閃の刀刃、一発の弾丸から始まり、
一面の血溜まりの中にしか終わらないのだ、と。
To Be Continued.




