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絶海の皇女マヤ -PRINCESS:ABYSS-  作者: 久坂下臈
第4章 王都決戦
21/21

4-5 絶海の皇女

闇を掻き分けていた。


散弾銃を杖代わりにし、

擦り減った体を引き摺っていた。


額の挫創と、左肩と右足の切創からは、

真っ赤な血が迸っていた。


詰襟は、裾が破け、血と汗で薄汚れていた。


艶やかだった黒髪は、

乱れ、沈んだ瞳に被さっていた。


それでも、銀の腕輪には、

〈灼天の紅玉〉がぎらぎらと煌めいていた。



この煌めきだけが、道標だった。


闇を追い散らしては、

混凝土の地べたを浮かべ、

銃把を突き立てては、

体を推し進める。


そんな動作を、無心で繰り返していた。


希望には逃げられ、

失望にだけ追われるような、

非対称な感覚の中でも、

己の光ひとつで、

ひたすらに、前のめりに、

闇の中を突き進んでいた。



この闇は、凶器だった。


殺そうとする者も、攫おうとする者も、

奪おうとする者も、守ろうとする者も、

誰も、彼も、

この闇の中に身を潜め、

命に差し迫ろうとしていた。


活路を切り開けるか、

死路を断ち切れるかは、

すべて、知恵と力次第だった。


この闇に馴染めない愚者と弱者は、

闇に巣くう強者を前に、

喰い殺されるだけなのだった。



ならば、闇に巣くえばいい。

それ以外に、答えはない。


そのはずなのに。


なぜ、光を灯すのか。

なぜ、闇を散らすのか。


何を信じたがっているのか。


臆病で卑劣な心では、

どこに辿り着けないというのか。


辿り着こうとすること自体、

愚挙なのか、それとも、壮挙なのか。



いいや、もう、何でも、かまわなかった。


この闇の中で、

どんな敵が潜んでいようとも、

どんな敵が迫っていようとも、

打ち破り、捻じ伏せる覚悟があった。


それでもって、光を灯しつづける覚悟があった。


負け犬の、最後の意地だった。


己の弱さも、己の愚かさも、

二度と、認められないのなら、

呪いつづければいい。咎めつづければいい。

命を繋ぎ、力を尽くし、誇りを保てばいい。



痛々しく、暴力的な結論だった。


血が、煮えたぎるように熱かった。


けれども、心は凍結しかけていた。


視界が潤んでいた。唇が震えていた。


覚悟に、綻びがあった。


光を灯し、闇を散らして、

誰かと、何かと、巡り逢おうとしていた。


毀されてしまったはずの期待を、

誰かに、何かに、替えようとしていた。



よわい。よわすぎる。


女々しかった。

惨めだった。

無様だった。


こんな期待は捨ててしまうべきだと思った。


誰かが見つけてくれなくても、

光を灯す覚悟がなければ。

誰かを見つけられなくても、

闇を散らす覚悟がなければ。


呪わなければ。咎めなければ。

己の罪と向き合わなければ。



その時、銃把がつかえた。

地べたの赤煉瓦に引っ掛かったのだ。


手元から、散弾銃が落ちた。


拾おうとしたが、

震える足を立てられなかった。


一歩、二歩、三歩ほどよろめき、

前のめりに倒れそうになった。


だが、擦り減った体は、

柔らかな腕に受け支えられた。


よく知る少女の匂いがした。



「よかった」


「……」


「さあ、行こう。

追っ手は、いないよね」


「……ハナ」


声は震え、上ずりそうだった。


隣り合い、肩を貸された。


触れ合ったところに、

小さな鼓動が響き合った。



気づけば、暗闇の先に、

光り輝く出口があった。


出口には、よく知る少年の影があった。


「ほら。カイだよ。先に行って、

水路橋を見張っていてくれたの」


「……待って」


声が掠れた。息が咽んだ。

足を回せなかった。

怖かった。

あの光に照らされることで、

曝け出されてしまう、よわさがあった。



すると、擦り減った体が、

柔らかな肌に包み込まれた。


「もう、いいよ。

もう、戦わなくてもいいから。

大丈夫。還ろう」


堰を切られた。

澱んだ痛苦が溢れ出した。

光に、残酷なまでに、

陰りなく透明な雫を照らされた。


「……、……あ」


マヤは、泣いていた。










◆2










——占領軍総司令部 最高執務室


「王都港湾決戦」から一週間後、

生暖かい白陽が、

窓掛けの隙間から差し込んでいた。


「ふうん。セミヌス大佐か。

まさか、彼だったとはねえ。

しかも、一週間前のあの戦いで死んでいたなんて」


ラッサリウスは、報告書を机上に置いた。


「驚きました。『大聖教』の信奉者だった、彼が」


バッサスは、執務机の前で直立していた。



「これが、きみの最後の仕事か。ご苦労だったね」


「はっ。

この仕事だけは、片づけておきたかったのです。

王女の拉致を手引きした者。

これを洗い出しておかなければ、

気持ちよく職を降りられませんから」


「不運だったねえ、きみは。

いいや、むしろ、幸運だったかもしれないか。


この列島は、また、戦場になる。

『ナランバトル革融国連邦』は、

フロストベリア島北部から、

手を引くつもりはないらしいから」



バッサスは、両肩をすくめてみせた。


「儘なりませんね。

我が国の勝利と支配を主張すべく、

『アーコンプール軍事裁判』を急ぎましたが、

かえって、解放軍に引っ掻き回されるとは」


ラッサリウスは、煙管を吹かした。


「まったくだよ。

こんな事態になるだろうと思ったから、

ぼくは、

エドモンド国王を起訴するのに反対していたのさ。

占領政策を安全かつ円滑に進めるには、

彼は、処分するのでなく、利用すべきだったよ」



執務室に、灰煙の臭いが漂う。


「ですが、総司令。

『自由の法理念』という大義の下、

オーシャニアの戦争指導者を罰する、

この大前提が崩れませんか?

彼の戦争責任は否定し得ないでしょう」


窓掛けの隙間から、風は吹かない。


「大義は、所詮、大義さ。

その演目が何だろうと、

戦争、という中身自体は変わらない。

大事なのは、演劇を綺麗にまとめることさ。

多少、嘘を吐いてでも、ね」



バッサスは、呟いた。


「……ガイウス提督なら、何と仰いますかね」


ラッサリウスは、鼻で笑った。


「……難儀な男だよねえ。


自由民政国家の軍人として、

法だの秩序だのに拘っているようだが。

彼のやり方では、

歴史を創ることはできないよ。


戦争に、勝利以外の最適解はない。

勝者は、英雄を演じ切らなければ、ね」



バッサスは、一度、咳払いをした。


「恐れながら、小官には、

彼の信条が、愚かな執着、とは思えませんが」


ラッサリウスは、黒眼鏡をぎらつかせた。


「ほお。人道と民意の法秩序に従うことが、

この荒海で、どう、愚かでない、と言える?」


「勿論、時と場合によるのかもしれませんが、

一見解として、……よろしいのですか?」


「遠慮なく言ってみたまえ。

どうせ、これで最後さ」



バッサスは、もう一度、咳払いをした。


「……青海連盟により制定された人道法や、

国民の意思が反映された軍法を遵守することは、

いいえ、遵守させようとすることは、

軍隊としての信頼を得ることに資しませんか。


また、名誉と欺瞞を厭う彼のやり方だからこそ、

彼についていく者も大勢おりませんか。


何より、法と秩序がもたらす統制は、

勝利への最短経路とも考えられませんか。


これも、ガイウス提督の、

海軍の変わり者なりの軍略なのでは」



すると、ラッサリウスは、

灰煙を吹き出し、大笑いした。


「実にきみらしい! 痛烈な非難だ!

人道や民意とは、軍略の下に語られる程度の、

安い代物だったのかい!」


「はい?」


「彼は、効率よく敵と味方を殺すことが、

命の尊重だと履き違えていたのかい!

勝利と人道とが矛盾することすらも、

理解していなかったのかい!

彼が信奉する法と秩序とは、

そんなくだらないものだったとはねえ!」



バッサスは、あんぐりと、まばたきした。


「くだらない? どういうことです?」


ラッサリウスは、にこにこと、煙管を吹かした。


「いいや、気にしないでくれたまえ。

ぼくは、きみを褒めているよ。

きみは、ガイウスと違い、

ぼくのためだけに、忠実に働いてくれたから」


彼は、腰を上げ、

執務室の隅にある保管庫の鍵を開けた。


取り出したのは、黒鉄の宝石箱だった。



箱の中に煌めいていたのは、

銀の腕輪と、

それを飾る〈翠の玉〉。


「〈羅森の翠玉〉。

こちらで保管されていたのですか」


「きみたちが勝ち獲ってくれた、

素晴らしい戦利品だ。


数日中には、『大聖教』の異端審問所に回し、

『神秘の契り』を無効化してもらう。


〈聖獣兵器〉とすることができれば、

我が軍の主力となること間違いなし、だよ」



バッサスは、口髭を摩り、作り笑った。


「犠牲は大き過ぎましたが、

これが、せめてもの償いです」


ラッサリウスは、肩を持った。


「何。

敵が、犠牲の大きさを量り違えただけさ。

これで、解放軍との戦いにも終わりが見えた。


……でも、まだ、あの子がいたね。


はやく第六遠征軍に仕留めさせて、

ダミアヌスくんの仇を討ってあげないと」










◆3










——『戦艦ユーゲスト=ネーゲル』


甲板には、生暖かい白陽が照りつけていた。


汗を垂らす乗員たちが、

固唾を呑んで見送るのは、

ひとりの男の除隊だった。


男は、ヤコブス准将。


第三十五・六群の指揮官として、

ハーバーマス漁村の暴動を鎮圧したが、

その苛烈な指揮内容から、

軍法会議に架けられ、

この日、本国へ移送されようとしていた。



クァーッ、クァーッ、クァーッ、アハハッ!


空では、ウミネコたちが鳴いている。


ヤコブスは、士官用船房を出され、

衛兵に引っ立てられるまま、

後甲板の舷梯へ向かっていた。


途中、鷹の目の最高指揮官を見つけるや否や、

ヤコブスの目が血走った。


「ガイウス提督!」


肉薄しようとするヤコブスを、

衛兵の散弾銃が阻んだ。



クァーッ、クァーッ、クァーッ、アハハッ!


ガイウスは、長い溜息を吐いた。


「どうした、この期に及んで。

きさまの謀殺罪は、揺るぎない評決だ」


クァーッ、クァーッ、クァーッ、アハハッ!


ヤコブスは、鼻息を荒げた。


「承服しかねます!

小官の鎮圧作戦は、正当です!

残存勢力の潜伏や、暴動再発の危険を除くには、

容赦ない殲滅しかなかったのです!」



クァーッ、クァーッ、クァーッ、アハハッ!


「正当、か。ならば、問おう。

『漁村全域を焼け野原にせよ』。

『十才以上の現地民は皆殺しにせよ』。

これらの命令のどこに、

須要と、分別と、均衡があった」


クァーッ、クァーッ、クァーッ、アハハッ!


「ありますとも!

漁村は、狂気の宴会場でしたよ!

戦闘員と非戦闘員とをどう識別するのですか!

殺さなければ、殺されます!

小官は、部下の命を守ったまでのこと!」



ガイウスは、鷹の目を細めた。


「それだけか」


クァーッ、クァーッ、クァーッ、アハハッ!


「それだけ? いいえ!

奴らは、威嚇砲撃を無視しました!

残留した現地民は皆、準戦闘員です!

それに、王女がどこかに潜んでいた以上、

悠長に一点制圧している暇などありますか!

そもそも、解放軍が、平服を着用し、

我が軍を遊撃することこそが、違法です!

違法な連中を成敗するためには、

苛烈な手段が認められて然るべきです!」



クァーッ、クァーッ、クァーッ、アハハッ!


「『万国陸戦協定』規則第二十三条第七号は、

軍事目標達成のために不必要な破壊と押収を、

合法的攻撃手段より除いている。


また、暴動の危険を徒に大きく見積もり、

抵抗する力を持たない幼児や老人までも、

攻撃対象として明示し、砲撃、虐殺したことは、

同規則第二十五条、『非戦闘地域の区別』および、

同規則第四十六条、『市民の権利尊重』の違反だ。


そして、『陸戦訓令』第三五八条第五号は、

敵の違法性の程度を上回る反撃手段を、

報復権の範囲として、当然、認めてはいない」



ヤコブスの顔つきが、ぐしゃりと歪んだ。


「提督らしい仰りようですな! だが、甘い!

殺すか殺されるかの戦場において、

不必要な攻撃など、ありますか!

軍規とは、大義の形式的担保と、

軍事目標達成のための統制にこそ、意義がある!

勝利こそが、軍人の責務だ!

勝利した軍人が裁かれるなど、笑止千万!」


アハハッ、アハハッ、アハハッ!


ガイウスは、

鷹の目をさらに細め、

混濁した心を見据えた。



「違うな。軍規とは、

勝利の推進器としての機能と、

人道の抑制器としての機能を、

相克的に併存させた上で、

その統制を、国民の意思に委ねるための概念だ。


そして、この軍規の下、

自由民政国家の軍人は、

勝利の名誉に狂うことなどあってはならない。


鼻高々に武力を誇示し、

したり顔で知略をひけらかすような輩は、

いずれ、国民の意思を蔑ろにし、

軍事的にも、人道的にも、

判断を誤ることになるからだ」



アハハッ、アハハッ、アハハッ!


ヤコブスは、嗤った。


「『ガリア海軍の電算頭脳』が、聞いて呆れますな!


今、列島では、何が起きていますか!

占領軍の落花狼藉ですよ!

無抵抗な子女が犯されているのですよ!

しかも、憲兵隊からはお咎めなしだ!

諜報局が事件を隠蔽してくれるから、

我が国の『自由』の大義は損なわれない、と!


それなのに、小官だけが裁かれるなど!

小官は、生贄か! 何だ!」



アハハッ、アハハッ、アハハッ!


「今、きさまが立っているそこが、

手段の無制限化が続くこの海の、

最後の防波堤だということがわからないか」


「わかりませんな!

さっきから偉そうなことを仰っているが、

提督! あなたは、どうだ!

大統領の容認さえあれば、

民間船も撃沈し放題ですか!

法規制さえなければ、

慰安所の設置も許されるのですか!

軍事と人道なんて両立させられっこないから、

あなたは、国民に、責任を丸投げしたいだけだ!」



アハハッ、アハハッ、アハハッ!

アハハッ、アハハッ、アハハッ!

アハハッ、アハハッ、アハハッ!

アハハッ、アハハッ、アハハッ!

アハハッ、アハハッ、アハハッ!

アハハッ、アハハッ、アハハッ!


……闇が渦巻く空の下に、

シルヴァが、踊り出た。

銀髪を靡かせ、冷ややかに瞳を据えた。


「……わからない。

あなたが、背負ってきたものが。

あなたは、諦めているだけ。

あなたは、諦めさせているだけ」










◆4










その後、

占領軍と第三艦隊の間では、

奇妙な噂が流れるようになった。


『絶海の皇女』にまつわる噂だった。


『大聖教』の聖典にして、

古の信徒がまどろみのなかで記した、

神国が到来するまでの預言書、

『絶海黙示録』。


その第四部に登場する賊軍の長、

『絶海の皇女』とは、

亡国の王女マヤのことを指しているのではないか。

そう憶測を立てる者が後を絶たなくなったのだ。



列島のガリア人の誰もが、

王女の政治的危険性を認識していた。


占領軍の管理下を脱け出し、

第三艦隊の包囲網を掻い潜り、

ハーバーマス保養地を灼き払い、

ワダン拘置所を打ち壊した、

狂気の戦姫。


彼女が、これから、

青海の安寧秩序を乱す、

より凶悪な存在となるのではないか。


皆、恐怖を覚え、

彼女の死を祈り、生を呪うようになった。



占領軍総司令部は、

「王都港湾決戦」で戦死した青年の遺族の手紙を、

恐怖の払拭と士気の高揚のために、公表した。


「この度の戦闘において、

大切な家族の一員、ダミアヌスの命が、

理不尽に奪われました。

故人は、教戒士としての誇りを胸に、

日々、苛酷な任務に励んでいました。

家族の皆にとっても、自慢のダミアヌスでした。

その志と未来を踏み躙った、

オーシャニア人とその王女に対し、遺族一同、

底知れない憤りを抱いています。

この訃報に接した皆様方が、共に涙し、共に怒り、

立ち上がってくださることを、切に願います」



他方、オーシャニア人は、

『絶海の皇女』の噂と、

彼女の激戦を耳にした時、

それを、真逆の意味の記号として受け取った。


鋼鉄の大艦隊を打ち破り、

聖なる巨獣軍を捻じ伏せ、

圧制と弾圧に苦しむ国民と、

たったひとりの父王を救おうとした、

勇敢な戦姫。


彼女こそが、青海の英雄となるのではないか。


皆、期待を膨らませ、

彼女の生を祈り、死を呪うようになった。



結果として、列島の抵抗活動は激化した。


解放軍が壊滅した後も、

自警団による遊撃事件が続発し、

占領軍と第三艦隊を苦しめた。


旗印は、いつ、どこでも、『絶海の皇女』だった。


王女を公邸からみすみす逃がし、

保養地でも拘置所でも仕留められなかった、

ラッサリウスの失態を追及する声が上がった。


山林に潜った王女を仕留める絶好の機会に、

現地の指揮官の処分でもたついた、

ガイウスの失態を追及する声も上がった。



しかし、

二人に、より多く寄せられたのは、

将来の戦功を切望する声だった。


『マグナ=ガリア民政新国』の脅威は、

オーシャニア人だけではなかったからだ。


列島の最北端、

氷ノ島=フロストベリア島には、

ランディア大陸の軍事大国、

『ナランバトル革融国連邦』の軍勢がいた。


大青海戦争末期に押し寄せて以来、

領有権を主張すべく、

粘り強く、居座っていたのだった。



ガリア軍とナランバトル軍の激突は、

時間の問題だった。


ガリア陸軍省は、

『ガリア大聖教』との結びつきを強め、

さらなる〈聖獣兵器〉の導入を目論んだ。


切り札は、『巨神兵』だった。


ヒートベリア島の二つの港湾都市を潰滅させ、

『オーシャニア列島連合王国』の降伏を早めた、

史上最凶の〈聖獣兵器〉。


その配備数を、現有の二体から、

七体まで増やす構想を固めた。



ガリア海軍省も、

さらなる大戦艦の建造を目論んだ。


大青海戦争で猛威を振るった、

アルクシア級戦艦、

『戦艦アルクシア=カンディドゥス』、

『戦艦グラディエイター=ルベル』、

『戦艦ユーゲスト=ネーゲル』、

『戦艦モリス=パーリドゥス』、

これら四隻をも上回る、

排水量一〇〇〇〇〇 噸(トン)規模の、

『終末戦艦』の建造、

『アルマゲドン計画』を始動させた。


陸海軍共に、次なる戦争に備えた……。



……それは、鴻大な渦のようだった。


ひとを喰い殺す、渦だった。


ろくでもなかったが、

その渦を発生させているのは、

他でもない、ひとだった。


ひとの、心だった。


その心とは、あるいは、

他人の弱さと愚かさを咎めることで、

己のそれを慰めようとし、

その末に、

己を支える制度と精神を濁らせる闇だった。



その闇と、今、ひとりの少女が対峙する。


少女は、『絶海の皇女』として、

人々の呪いと祈りを一身に背負い、

それでもなお、

荒くれたうねりに身を投ずる。


真実のつよさを問いつづける。


けれども、少女は、もう、ひとりきりではない。


少女の両隣には、

生真面目だけれども、誠実な、

不真面目だけれども、狡猾な、

それでもって、認め合える、ふたりの朋友がいる。



いざ、共に生きよう。


少女を繋ぎ止めているものは、

個々、かけがえのなく、

喪えば二度と戻らない絆だった。


助け合い、守り合い、

毀れてしまわないよう、共に進もう。


朋友と共に選んだ、この航路を。

その先にあるだろう、暁の水平線を信じて。


————


少年少女、闇夜の荒海を征く!










Part Ⅳ – End.

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