4-3 闇の羅森獣・前編
屍の山が燃えていた。
粘っこい黒煙が、
焦げた硫黄臭を漂わせていた。
ギルは、鼻を刺されるようで、
詰襟の袖で顔をごしごしと擦った。
擦るたびに、顔が歪んでいくようだった。
唇の角が、震えた。
頬の筋が、引き攣った。
瞳が潤み、瞼が膨れだした。
それでも、
彼が負の感情を寄せつづけてきた、
『森羅万象との契約主』を前に、吠えた。
「陛下に、上奏したき儀がございます!
是が非でも、申し上げたいのでございます!
政治や軍事の云々ではございません!
陛下は、もはや、
列島の国家元首ではないのですから!
そのような云々は、無用でしょう!
お伝えしたいのは、ただ、恨みでございます!
我が父のこと! ケイネスさまのこと!
そして、今の、わたしたちのこと!
これを申し上げずに、
わたしは、死ぬことができましょうか!
父は、愚者でした!
父は、弱者でした!
父は、臆病者でした!
皆様方から、蔑まれました!
皆様方から、嗤われました!
陛下からも、謗られました!
戦争犯罪者の汚名に堪えかね自決した折も、
よわい、の御一言をいただきました!
これからも、意志に欠けた無能として、
たくさんの人間から謗られることでしょう!
何と、まあ、無様なことでしょう!
しかしながら、我が父は、
戦火の収束のために尽力しておりました!
早期の和平を志しておりました!
陛下は、戦果が挙がっていないことを理由に、
我が父の上奏を退けられたと聞きますが!
もしも、あの時、
陛下が、和平を、いいえ、降伏を決していれば、
ケイネスさまは死なずに済んだのです!
あんなにも誠実で実直な御方を、
これからのオーシャニアを背負うべき御方を、
南部二主島の救援などという、
無謀な作戦で喪わずに済んだのです!
いいえ、わかっております!
わたしは、的外れなことを申し上げております!
父は、父であるより前に、宰相でした!
結果を出せない政治家は、国家の害悪です!
皆様方に謗られるのは、当然でしょう!
ケイネスさまも、友であるより前に、王子でした!
民に犠牲を強いるだけの王族は、国家の害悪です!
戦場で華々しく散るのは、当然でしょう!
わかっているのです! わかってはいるのです!
これも、荒海の摂理でございましょう!
政治家も、王族も、皆、
各々の責務の下で、
知恵と力を試されつづけるのでしょう!
無知のままでは、無力なままでは、
何一つ変えられず、何一つ止められません!
愚者と弱者は断罪されるべきなのです!
そして、それは、陛下も同じこと!
陛下は、何ができましたか!
陛下は、何をしてくれましたか!
今更、人格者ぶっても、もう遅い!
陛下を、お恨み申し上げます!
陛下は、断罪されるべきです!
陛下だけではありません!
我が国の大臣も、軍人も、政商も、
皆、断罪されるべきなのです!
我が国の惨状をご覧ください!
かよわい子女を守ることができなかったのです!
守るどころか、鉄砲玉にすることで、
皆様方は、生き長らえてしまったのです!
命を懸けていたのは、誰でしたか!
傷を咎められていたのは、誰でしたか!
犠牲になっていたのは、誰でしたか!
陛下、教えていただきたい!
わたしたちは、どう生きていけばよいのでしょう!
わたしたちは、未来永劫、
侵略戦争に加担した屑どもとして、
邪知暴虐の民族として、祟られましょう!
国を、民を、生を、死を、
二度と、愛することは叶わないでしょう!
無知と無力の代償でしょうか!
尊厳も何もかも、
剥奪されて当然なのでしょうか!
わたしたちは、どう生きていけばよいのでしょう!
教えていただきたい、この荒海を生き抜く術を!」
捲し立て、ぜえぜえと、ギルは、息を切らした。
顔は、歪み果てていた。
悦んでいるようでもあり、
怒っているようでもあった。
嗤っているようでもあり、
泣いているようでもあった。
……ガシャンッ!
〈シャーレイの羅森獣〉が放つ光の鞭が、
しなり、うねり、荒ぶって、
拘置所の混凝土壁を叩き壊した。
瓦礫が、燃える屍の山を圧し潰した。
エドモンドは、ギルに向き直った。
「……そうだった。
抗戦派は、和平工作を図ったユリックを、
別邸に閉じ込めていたのだったな。
そして、
卿は、ユリックの人質として、奴らの手により、
大陸の最前線へ送られようとしていたのだったな。
さぞや、恐ろしい目に遭わされてきたのだろう。
余を裁くべきは、
国家でも、国民でも、法でもなかった。
卿ら、だ。
これからを生きなければならない少年少女だ。
余は、卿らに謝らなければならない。
民の犠牲の上に生き長らえたこの命を、
せめて、民のために遣い果たそうと思っていたが。
卿らには、
この惨状を遺すことしかできなかったのだから。
ギルよ、すまなかった。
卿は、ケイネスをよく慕っていたのだったな。
死を恐れてはいない。森羅万象に還るのみだ。
皆、余を待ちかねていることだろう。
皆、余のために逝ってしまったのだから。
————」
◆2
——軍事裁判所 判事室
憲兵隊による強行突入が始まろうとしていた。
扉と机の防護壁の外側に、
大斧と大槌を手にした憲兵たちが並ぶのを、
シグマは、物音で察知した。
それは、
人質の安全が切り捨てられたことを意味した。
椅子に縛られたメディクスは、溜息を吐いた。
「また量り違えたかね、命の重さを」
シグマは、低く笑ってみせた。
「否、心さ」
シグマは、血塗られた刃で、
メディクスを縛っていた縄を解いてみせた。
「何のつもりだ」
「判事殿に危害を加えるつもりはありません。
部屋の隅にでも伏せていてくだされば」
中の解放軍の手勢も、
刀や突撃銃、手榴弾を握り締めた。
憲兵たちが防護壁を穿ったのと同時に、
内側から逆進し、混乱に乗じて、
判事室を脱出する算段だった。
最後に、メディクスは、
涼しげな黒目の硬骨漢に語りかけた。
「貴殿の語った、決闘の精神とやら。
なるほど、対話すらも、
命の駆け引きとなり得るのは当然だろう。
だが、力の伴わない言葉には、
本当に価値がないのかね。
いいや、
それに価値を見出そうという自由民政社会は、
貴殿には、差し迫らないのかね。
貴殿は、言葉そのものを信じているのか。
ひとを騙し脅すためのものでもなければ、
ひとを傷つけ殺すためのものでもない、
ひとと交わし合うための、真実の知性の言葉を」
シグマは、
法冠と法服を着こなす老夫に振り向いた。
「決闘と、ただの殺し合いとは、断じて違います。
ひとを害したか、でなく、
何をもってひとを害したか。
この視座より、両者の境界を見定められましょう。
小官は、『一五〇〇年の人文』をもって闘い、
判事殿は、『自由の法理念』をもって闘う、
それだけのことであります。
価値とは、この言行の結びつきにこそ、
見出すべきものと存じます。
命を懸けた行動こそが、言葉を純化させるのです」
メディクスは、たじろいだ。
彼の信条に差し迫る存在が、目の前にいた。
「恐ろしい男だ、貴殿は。
貴殿にとっての絶対的価値観とは、
普遍性の追究でなく、唯一性の固執に、
生の福祉でなく、死の美学に、
制度でなく、情念にあるのか。
『一五〇〇年の人文』という大義さえあれば、
人殺しも英雄となるわけか。
一法官として、その主張を認めることはできない。
たとえ、中道を装う横暴と非難されようと、だ」
——ワダン拘置所 大階段
異次元の大穴、〈無限螂獄〉は、
凄まじい大爆発とともに崩壊した。
空がひび割れ砕け散ると、マヤの体は、
拘置所に放り戻され、混凝土の階段を転げ落ちた。
一階の床に打ちつけられた。
背が痛み、身悶えした。
敵に抉られた左肩と右足からは、出血していた。
歯を食いしばったマヤは、
よろめきながらも立ち上がり、
散弾銃を構え直して、周囲を見回した。
廊下は、暗く、静かだった。
誰の気配もしなかった。
解放軍も、占領軍も、いなかった。
カイも、ダミアヌスという青年も、いなかった。
もっとも、
目に入らなかっただけかもしれなかったが。
「父上は」
はやく、たしかめたかった。
たしかめなければならなかった。
あの面差しを。あの眼差しを。
マヤは、廊下を急いだ。
右足から尾を引く血も、一向にかまわなかった。
……ガシャンッ!
何かが壊される音が、響いた。
擲つような、撲りつけるような、
狂気を孕ませた音だった。
……ガシャンッ!
何が、壊されたのか。
何が、毀されようとしているのか。
そんなことなど、マヤの頭にはなかった。
走った。走った。走った。
やがて、廊下の先に、輝く出口を見つけられた。
————
……外には、光が溢れていた。
……光の中には、独りの男がいた。
「父上!」
……男は、振り向いた。
……陰っていた面差しが、ようやく、照らされた。
……たしかめられた。
……蝋でもなければ、石でもなかった。
……その眼差しには、生々しい血が通っていた。
「父上?」
……だが、男は、こちらには来ない。
……こちらには、来てくれない。
……境界があった。
……ふたりの間を、たしかに隔てている境界が。
……もっと見たいのに。もっと聞きたいのに。
……もっと交わしたい言葉があるのに。
……辿り着けない。
……辿り着かせてくれない。
……時空を超えた、命の境界に阻まれていた。
「父上」
……すると、男は、少女を指差した。
……境界越しに、少女を見つめた。
……命でもなく。力でもなく。誇りでもなく。
……弱さでもなく。愚かさでもなく。
……比べるでもなく。量るでもなく。
……ただ、少女だけを指差したのだった。
……少女の存在だけを、見つめたのだった。
————
それが、ふたりの最後のやりとりとなった。
◆3
……ガシャンッ! ガラガラッ!
壊れた。壊された。毀されてしまった。
光が消失した。闇が飽和した。
折れた十字剣が転がった。
マヤは、立ち尽くしてしまった。
自分にとって大切な何かを喪ってしまった。
己の弱さも、己の愚かさも、
二度と、認められない気がした。
呪いつづけるしかない気がした。
ギルは、髪を掻き毟り、顔を引っ掻き、
嗚咽し、嘔吐して、絶叫した。
「殿下! 申し訳ございません!
ぼくは、恩を仇で返してしまいました!
ぼくは、殿下に助けていただいたのに!
いやだ! いやだ! いやだ!
ぼくを殺してください!
殺してください! 殺してください!
殺してください! 殺してください!
殺してください! 殺してください!
殺してください! 殺してください!
殺してください! 殺してください!
殺してください! 殺してください!」
マヤは、瞳を黒ずませた。
煮えたぎるように熱くなった血が、
管を破り、皮を破り、
額の傷痕から、ぶくぶくと噴き出した。
遣り場のなかったはずの怒りが、
憎しみとなり、彼女を逆立たせた。
「きさま!」
激しく煌めいた、腕輪の〈灼天の紅玉〉。
凄まじい熱波が、
瓦礫と屍の山を、塵芥のごとく掃いた。
『烈火昇天、靭翼旋空、精悍ノ誉ニ不滅ヲ謳ヘ』
〈カムランの灼天竜〉、激発!
光がはじければ、
強靭な翼を広げた赫き竜が、
尖った口に灼熱の炎を湛え、
仇敵目掛けて、撃ち放った。
〈赫炎弾〉!
雷を纏った大火球は、
ギルを庇った〈シャーレイの羅森獣〉に直撃した。
爆炎と爆風が、
毛並みに覆われた体躯を燃え上がらせ、
大樹の幹のような二本の角を吹き飛ばした。
だが、〈シャーレイの羅森獣〉は撃破されなかった。
光の蔓が、頭部の欠損を包み込み、
瞬く間に再生させた。
さらに、光の蔓は、光の鞭となり、
赫き竜目掛けて、打ちつけられた。
〈樹光罰〉!
真空の連打は、
〈カムランの灼天竜〉に直撃した。
衝撃と焦熱が、
赫き鱗に覆われた体躯を凹ませ、
厳めしい棘の数本を叩き折った。
〈カムランの灼天竜〉は、再び、
尖った口に灼熱の炎を湛えた。
〈シャーレイの羅森獣〉も、再び、
光の鞭を、しなり、うなり、荒ぶらせた。
両者、銅色と金色の眼光をかち合わせた。
その時だった。
……『契リヲ違フル者ハ、誰ソ』
時間と空間を超越し、
生と死を凌駕するかのような、
荘厳な〈叫び〉が、
マヤとギルの脳髄に轟いた。
「誰だ!」
マヤは、疼きに堪えた。
「殺してください! 殺してください!」
ギルは、狂い果てていた。
〈叫び〉が追及したのは、ギルだった。
……『汝、契リヲ違フル者ナルカ』
「殺してください! 殺してください!」
……『汝、何ゾ生ヲ全ウセントスル』
……『汝、死ヲ欲スルニ非ザリキヤ』
「殺してください! 殺してください!」
……『汝、何スレゾ国王ヲ殺シタル』
……『汝、何スレゾ王女ト殺シ合フ』
……『汝、則チ逆賊ナリ』『汝、則チ逆賊ナリ』
狂おしく煌めいた、腕輪の〈羅森の翠玉〉。
〈シャーレイの羅森獣〉の光の鞭が、
毛並みに覆われた体躯が、
大樹の幹のような二本の角が、
深黒に染め上げられた。
肉体を突き破り、
また一本、また一本と、
深黒の枝が伸び、絡み合い、
深黒の幹となって、肥大化を始めた。
悍ましき〈深黒の大樹〉に、変貌した。
〈深黒の大樹〉は、肥大化しつづけ、
ワダン拘置所一帯を侵食しはじめた。
〈闇の羅森獣〉とでも呼ぶべきか。
『神秘の契り』に違反した列島の民に、
森羅万象の怒りが下ったのか。
一五〇〇年前、
ワーマニア島に形成された溶岩台地に、
鮮やかな樹林を芽吹かせた、「生命の力」。
それが、今、
「絶命の力」として暴走し、
〈羅森の翠玉〉の所有者の意思を乗っ取り、
負の感情を無尽蔵に増幅させることで、
アーコニア島の王都港湾を、
褪せた樹林の内に呑もうとしていた。
——軍事裁判所 旧陸軍大臣室
爆煙を駆け抜け、弾幕を潜り抜け、
肉壁を突き分けた先の一室で、
シグマは、血まみれの形相で立ち尽くしていた。
銃器は、撃ち尽くした。
手勢は、四人まで打ち減らされた。
窓の外には、
悍ましき〈深黒の大樹〉が、
天高く伸びていく光景があった。
『十八号作戦』が瓦解したことは、明らかだった。
ドン! ドン! ドン!
「出てこい、解放軍!」
「無駄な抵抗はやめろ!」
「投降しろ!」
銘木の扉の一枚向こうには、
すでに、若い男たちの怒号があった。
シグマは、刀を下ろした。
最後に葉巻を吹かそうと、
軍服の胸物入れをまさぐるが、
手にした一本は、血に濡れてしまっていた。
「いかんな。そうだった。血は。————」
◆4
——ワダン拘置所 南門
〈深黒の大樹〉の根元には、
鋼の装甲の軍用車が集っていた。
「撃ち方、始め!」
ババババババンッ!
ババババババンッ!
ババババババンッ!
機関銃を連射するが、
深黒の幹の前では、豆鉄砲も同然。
〈大樹〉の肥大化に圧されて、
防衛線は、じりじりと後退していた。
「まるで効いていないぞ!」
「せめて戦車中隊が健在だったら!」
「一体、どうすれば!」
狼狽える兵士たち。
迫る、〈大樹〉の侵食。
幹から、深黒の蔓が振り下ろされた。
赤煉瓦と白格子の建物に絡みついて、
次々と、倒壊させた。
さらに、
地中からは、深黒の根が振り上げられた。
軍用車の装甲や車輪に絡みついて、
次々と、圧壊した。
装甲車を棄てた兵士たちは、
やぶれかぶれで、散弾銃を構えた。
そこに、伝令が馬を駆り、到着する。
「退避だ! 退避しろ!
第三十六装甲歩兵大隊、退避しろ!」
兵士の一人が、怒鳴る。
「退避しろ、とは、何事だ!
ここで退けば、誰が食い止める!」
伝令が、怒鳴り返す。
「総司令直々のお達しだ!
これより、大規模攻撃を開始するとのことだ!
ここは危険だ! 退避しろ!」
その頃、門内では。
「……!」
カイが、意識を取り戻した。
絶望的な光景が広がっていた。
〈深黒の大樹〉の侵食が、迫っていた。
深黒の蔓が、深黒の根が、
拘置所の混凝土壁に絡みつき、破壊していた。
その霊力は、醜く歪んでしまっているが、
どうやら、
〈シャーレイの羅森獣〉のもののようだった。
カイは、震える手を地べたにつき、
傷だらけの体を起こした。
隣には、ハナがいた。
呆然と、へたり込んでいた。
〈深黒の大樹〉の影を仰いでいた。
「……マヤが」
カイは、ハナの両肩を掴んで揺さぶった。
「ハナ! しっかりしろ!
これは、どういう状況だ!
陛下は! 作戦は!」
ハナは、はっと気づいた。
瞳をじわりと潤ませ、
縋りつくようにして、叫んだ。
「……カイ! どうしよう!
マヤが、あれに取り込まれて!
助けないと!」
気を落ち着かせようと、
カイは、両肩に力を込めた。
「王女殿下が危ないんだな!
それは、わかった!
作戦は、今、どうなっている!
国王陛下はご無事なのか!」
しかし、ふたりには、
状況を整理する猶予など残されていなかった。
ズドドドドドドドンッ!
上空で、連続炸裂。
爆炎と爆風が拡散した。
硝煙が膨らんだ。弾片が撒かれた。
大気を、〈大樹〉を、大地を焦がす鉄火の波が、
頭上から、猛烈に打ち寄せた。
ハナも、カイも、身を伏せた。
「いや!」
「まさか、艦砲射撃か!」
——『戦艦ユーゲスト=ネーゲル』
第三艦橋・戦闘指揮所 展望台
ガイウスとシルヴァは、
対地砲火の経過を見定めていた。
閃光が散るとともに、
王都港湾に君臨する、
〈深黒の大樹〉が燃え上がった。
それより遅れて、
轟音が、地面から海面まで伝搬し、
展望台に立つふたりを震わせた。
「全弾命中。さすがだ、我が艦の砲術科の練度は」
「うん。さすが」
だが、〈深黒の大樹〉は撃破されなかった。
深黒の蔓が、燃える樹冠を包み込み、
瞬く間に再生させてしまった。
ガイウスは、シルヴァに向き直った。
「シルヴァ、出番だ。
占領軍総司令部からの情報によれば、
あれは、『護国三大霊獣』の一柱、
〈シャーレイの羅森獣〉の成れの果てらしい。
奴の召喚者を見つけ出し、
直接攻撃して、霊力の源を断つのだ」
シルヴァは、尋ねた。
「召喚者は、あの子じゃないの?」
ガイウスは、答えた。
「別人だ。正体は不明だが、な。
王女は、その何者かとの交戦途中、
〈シャーレイの羅森獣〉の暴走に巻き込まれ、
肥大化する霊体に取り込まれたと聞く。
解放軍の襲撃自体は予想していたが、
まさか、このような事態に発展するとは。
状況が錯綜している以上、
目標は、〈シャーレイの羅森獣〉の撃破に絞れ」
シルヴァは、首飾りの〈古の白石〉を握り締めた。
「じゃあ、行ってくるね」
「ほどほどに帰ってこい」
ガイウスの声に振り向くと、
澄んだ瞳を交わし、こくりと頷いた。
『薄明、静謐ナル神林ニ宿リシ古ノ力、顕現ス』
「来て、〈伯焔龍フォルティナ〉」
詠唱とともに、光がはじけた。
艦橋から飛び立ったのは、〈白き龍〉。
銀髪を靡かせたシルヴァを背に乗せ、
鋭く翼を引き絞り、王都港湾の戦場へ疾走した。
To Be Continued.




