↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶海の皇女マヤ -PRINCESS:ABYSS-  作者: 久坂下臈
第3章 軍事裁判
16/21

3-5 バーナリー水路橋

——王都港湾 占領軍総司令部


混凝土の廊下に、

青年の喚き声が響いていた。


「どういうことですか、ぼくが制限処分だなんて!

レオ修道士だけ、の間違いでしょう!

憲兵隊長、事情を説明させてください!

説明すれば、ご理解いただけるはずです!」


顔を真っ赤にするダミアヌスに、

口髭の准将は、億劫そうに振り向く。


「何を理解させてくれる? 教戒士くん。

説明するなら、簡潔に。わたしは忙しい」



教戒士は、鼻息を荒げ、語り出す。


「レオ修道士は、……、レオ修道士は、ですね、

上官を侮辱する発言を繰り返していたのですよ。

憲兵隊長のことも悪く言っていました。

総司令のことも、です。赦せないでしょう?

だから、ぼくが戒めなければ、と思ったのです」


「悪く言っていた、とは、どのように?」

「どのように、……、うんと、ええと、ですね、

無能だ、とか、頼りにならない、とか」

「そうか、そうか、それは残念だ。

ちなみに、わたしと総司令、

どちらがより無能で頼りない指揮官だ、と?」

「たしか、……、総司令、と」



バッサスは、彼の上官のように、

鼻で笑ってみせる。


「なるほど、よく理解できた。だが、

ガイウス提督より伺ったお話と辻褄が合わない。


貴官は、リタ修道士に粘着していたのだろう?

それを、レオ修道士に指摘され、言い争いになり、

決闘などという暴挙を提案したのだろう?


どうなのだ。説明してみるがいい」


茶の軍服に詰め寄られ、

ダミアヌスは、

唾液をごくり、また、語り出す。



「説明します。

ガイウス提督のお話は、偽りです。

彼は、ぼくを陥れようとしています。


僻んでいるのですよ。


彼が第三艦隊司令まで出世することができたのは、

ひとを騙し、脅し、傷つけ、殺してきたからです。


対し、ぼくがこの高みまで昇り詰められたのは、

尊き〈大聖神〉の御心を知ろうと、

一分一秒、努めてきたからです。


優劣は明白でしょう。だからこそ、

彼は気に入らないですよ、ぼくのことが。



ああ、納得しました。納得しました。


彼の知恵も力もハリボテだということ。

彼が上手なのは、せいぜい、

自分を取り繕うことぐらいでしょうか。


道理で、ぼくのような真の実力者を、

陥れようとするわけです。呆れますね。


攻撃性とは、脆弱性の裏返し。

〈大聖神〉が教えてくださっています」


バッサスは、長い溜息を吐いた。

彼の上官に忠告された通りの、

どうしようもないものが目の前にあった。



「本当にそんな男だったら、

とうに、総司令が失脚させているがね」

「はい?」


呟くような、吐き捨てるような非難を、

ダミアヌスは聞き取れなかった。

バッサスは続けた。


「いいや、気にするな。

それよりも、……、そうだな、

貴官に伝え忘れていたことがる。

この制限処分の裏にある、

貴官の極秘任務のことだ」


「極秘任務?」



「そうだ。極秘任務だ。


ワダン拘置所。第一級戦争犯罪容疑者の収容場所。


軍事裁判所と同様に警備が不足している。だが、

北方のフロストベリア島で緊張状態が続く今、

人員を増やすことはできない。

つまり、現有戦力を効率化するしかないのだ。

そこで、

〈奈落蝗エル=バ=ドゥ〉を従える貴官には、

ワダン拘置所内に居を構え、

二十四時間、最大戦力として常駐してもらいたい。


苛酷さは承知だが、貴官にしか頼めない任務だ。

引き受けてくれるか、……、真の実力者よ」



真の実力者。

その言葉が、ダミアヌスの顔を明るく照らした。


「ああ、納得しました! 納得しました!

ぼくの配置を内外に秘すことで、

『解放軍』の奴らに圧を掛けるのですね!

さすがは、憲兵隊長!

それとも、総司令のご意向ですか?

何にせよ、お任せくださいよ、このぼくに!」


踵を返し、意気揚々と、廊下を駆けていった。


こうして、バッサスは、

警備担当者一同を苛ませる問題児を、

体よく、拘置所に収容することに成功した。



——ザンベオルグ高地


王都港湾の警備と並行して、占領軍は、

アーコニア島に潜む敵の捜索も進めていた。


その尖兵は、黒ずくめの隠密『アンブラム』。


隠密は、

曇天の下、白樺の森を疾風のごとく駆け抜け、

小川を跳び越え、岩から岩へ、

無音を連れ立ち、茂みを突き分ける。


やがて、森の端まで到達し、

一本の白樺の陰から、

天高い連峰の威容を仰いだ。



薄陽に照りつけられた岩稜は、

鍛えられた刃物の鋭さを帯び、

たなびく灰雲を切り裂いて、

異質な来訪者を俯瞰していた。


その麓の一角に、

岩盤を削った坑道の入口があった。


迷彩色の偽装網を剥がし、入口を覗いた。


暗く、静かで、気配はしなかった。


隠密は、

もう一歩、二歩、三歩踏み入り、

坑道の中を捜索した。



中は、ひんやりとしていた。

床面には、軍用貨車の枕木が並び、

壁面には、削岩機の錐の穴が無数に空いていた。

測量の杭跡もあった。大陸の言語も刻まれていた。


足跡もあった。

複数、削り合っていた。


「拠点を移したか」


間違いなく、敵は、ここにいた。

シグマ大佐か。消息不明の王女か。

誰が身を潜めていたのか。何を企んでいたのか。

だが、真相は一足早く姿を消し、

坑道は、もぬけの殻となっていた。










◆2










統帥府地下壕を放棄し、

南下を始めてから、一時間が経っていた。


白樺の森を抜け、

峡谷の険道を下っているところだった。


断崖絶壁だった。

眼下の急流は、岩肌を削り砕いていた。

強風が、谷底から這い上がり、

小さな体を傾かせようとしていた。

それでも、

この先で待ち受けているものを思えば、

マヤにとっては、脅威でも何でもなかった。


目的地は、あの「王都港湾」なのだから。



これから、『十八号作戦』の本分に臨む。


ワダン拘置所に幽閉されている、

『森羅万象との契約主』を救出しにいく。


だが、戦力は、不完全なものとなった。


結局、ワーマニア島から渡ってきた援軍は、

五十二人のみ。

また、占領軍の斥候に迫られたことで、

統帥府地下壕の放棄を余儀なくされたことから、

本来の帰る当てもなくなった。


乾坤一擲。

命の在り処を探るような行軍だった。



他方、シグマの闘志は、衰えを知らなかった。


「今、我らにあるのは、無垢なる精神の叫びだ。


剣としての、盾としての、

臣子としての本懐を遂げられるのだ。


我らの戦いが、一億総決起の魁となるだろう」


彼の黒目には、

劣勢に傾く戦況も、組織的抵抗力の低下も、

差し迫るものではないようだった。


図太く、獰猛で、血生臭い忠義の道の先に、

オーシャニア人の勝利を見据えていた。



それは、

展望と言うには妄想的で、

狭窄と言うには自覚的だった。


『森羅万象との契約主』の名の下の戦い。


その条件を満たすこと自体が、

彼にとっての勝利あるいは救済なのではないか。


軍事も、政治も、王家も、公爵家も、

何もかもを超越した領域に、

彼が信奉する一五〇〇年の人文があるのだから。


あまりにも純粋かつ剛直な後ろ姿に、

マヤは、たじろぐしかなかった。



傍らから、ハナが囁いた。

「やっぱり恐いよね、あのひと」


いたずらっぽく微笑む彼女の頬からは、

やや血の気が引いていた。


「ハナ、顔色が」

「ううん。平気」


微笑みに、澱んだ不安を隠していた。

この先で待ち受けているものに怯えているのは、

彼女も同じなのだった。


彼女の足元にあった小石が転がり、

谷底の、白い急流の飛沫へと消えた。



マヤは、右手を差し伸べた。

「落ちると、いけない」

「……ありがとう」

ハナは、左手で握り返した。


手を繋いだまま、先導するシグマの背を追った。

後ろには、七人の兵士たちがついていた。


アーコニア島南部に到達するまでは、

この十人ずつの班で行動することとなっていた。

残る十七班、一七〇人と、

他の友軍と合流する地点は、

この峡谷の険道を下り、河川に沿って、

宿場町を三つ過ぎた先にある、

「バーナリー水路橋」に定められていた。



「水路橋に着けば、もう、戦いだ」

「怖い?」

「うん。怖い。怖いが、われが選んだ航路だ」

「航路なら、今、変えてもいいんじゃない?」


ハナの一途な瞳に、マヤも一途な瞳を交わした。


「いいや、変えない。簡単に、変えたくない。

ハナとカイと一緒に選んだ航路だ。

それに、ひとりで選ぼうと、誰かと選ぼうと、

航路を突き進まないうちに逃げ出していたら、

自分を誇ることなどできないと思う。

われは、無知で無力だが、

せめて、ひとに謗られるならば、

誇りある決断の結果を謗られたい」



ハナは、呆れ笑った。

「真面目。もっと好きにしちゃえばいいのに」


マヤは、頬を赤らめた。

「そんなに真面目だろうか」


繋がれた手に、熱が籠った。


「でも、その真面目さに救われることもあるから。

……ダンヴァラの倉庫にいた時は、ありがとう」


「ダンヴァラの倉庫? 何のことだ?」


「庇ってくれたから。

わたしが、ぶたれそうになった時」



マヤは、左手の指先で頬を掻いた。


「いいや、あの時は、

ハナが、われを助けてくれたのだろう」


「ううん。わたしが立ったのは、

わたしたちが、生き延びるためだったから。

言ったでしょう?

いざとなったら三人で脱け出そう、って。

マヤの〈カムランの灼天竜〉は、

カイとわたしにとっても大事な戦力なの。

あんな子に持っていかれたら困っちゃうから。

マヤも、譲っちゃだめだよ、絶対に」


「な」



ハナは、汗ばんだ手を握り直した。


「……でも、本当に、ありがとう。

マヤが真面目だったおかげ」


よく触れると、

ハナの手も、ざらざらしていた。

銃だこだらけで、傷痕も多かった。


マヤは、凛々しい凹凸に温もりを重ねた。


「つよくなりたい、われも。

カイみたいに。ハナみたいに。


もっと、荒波に負けないように」



そうだ。つよくなりたい。

つよくならなければならない。


見捨てられなかったものも、

守り抜けなかったものも、

胸の内で、まだ、痛みつづけている。

だからこそ、今、

傍にいてくれる存在を喪いたくなかった。


荒波に屈しない。活路を諦めない。

生きることを疑わない。

そんな彼らと共に在りたい。


そう願い突き進むこの航路が、

マヤには、誇らしかった。










◆3










——王都港湾 占領軍総司令部 最高執務室


メディクスが呼び出されたのは、

公開法廷・十日目が終わった後のことだった。


「閣下、ご用件は」


硬い面差しの白髪の老夫に、

ラッサリウスは、椅子を勧めた。


「まあ、座ってくれたまえ、判事長。

忙しいところを呼び出してしまい申し訳ない。

一つ、きみに聞いておきたかったのさ。

『アーコンプール軍事裁判』の進展についてね。

判事たちの意見が割れているそうだが」



メディクスは、椅子を引く手を止めた。

「それは」


ラッサリウスは、付け加えた。

「ああ、わかっているよ。

裁判所と裁判官の独立、だったかな。

権力者による干渉は、

『自由の法理念』に反するのだろう?

安心してくれたまえ。ただの質問さ。

ぼくがどうこうしようというものではない。

さあ、座ってくれたまえ。


メディクスは、

椅子に腰を下ろし、深く構え、

ラッサリウスと対峙した。



「では、質問は、

判事団の意見対立の要旨でよろしいですな」

「ああ、何が問題になっている?」


「まず、事後法の適用。


権力者による恣意的な処罰を防ぐために、

罪刑は、事前の法定と施行を要求されます。


『国家侵略罪』の根拠は、

三十年前に締結された『青海平和連判状』ですが、

これには、違反者を処罰する文言がなく、

これまで、違反者が処罰された事例もない以上、

その法的拘束力を、法の進化として肯定すべきか、

遡及適用として否定すべきか、審理中です。



二つ、国家行為と個人行為。


従来、戦争とは、

国家という抽象的主体の行為とされ、

賠償や謝罪、主権制限により処理されてきました。

当軍事裁判は、この伝統を覆し、

国家元首をはじめとする、

政治的、軍事的指導者個人の責任を問うものです。


革新的なものだとは言えますが、

『国家主権の尊重』という枠組みからは、

大きく逸脱するおそれがあります。

また、

国家間の戦争の違法性を個人に結びつけるには、

根拠が薄弱なままです。



三つ、罪の定義の曖昧さ。


『国家侵略罪』の構成要件、『侵略謀議』とは、

二人以上の者が、

侵略戦争をしようと合意すること、

と、解されます。


当軍事裁判においては、これを、

ランディア大陸侵攻から大青海戦争終結までの、

一貫して長期的な謀議と位置づけていますが、

軍事指揮や法制審議、世論操作など、

個別の行為を謀議の一部とみなす根拠が薄弱です。

また、執政権と統帥権とが複雑に絡み合う構造を、

果たして、一謀議として括ることは適当なのか、

疑う判事が幾人かおります。



最後に、手続の適正。


当軍事裁判の原告、検事、判事は皆、

大青海戦争の同一陣営にあります。

証拠にも偏りが見受けられます。

また、準備も十分だったとは言い難いものです。


公正かつ厳正に被告人を裁くという、

裁判の大前提は担保されているか否か、

確認を求める声が出ております。


以上が、意見対立の要旨になります」


執務室に、重苦しい沈黙。

両者、気迫を引き下げない。



先に口を開いたのは、ラッサリウスだった。


「判事長、気になるのだが、いいだろうか。

事後法が何だとか、手続の適正が何だとか、

考えるべきことが多いのはよくわかった。

だが、仮に、

当軍事裁判が不正だと判断されれば、どうなる?」


メディクスは、淡々と返してみせた。


「場合によっては、閉めることとなります」


ラッサリウスは、煙管を吹かした。

占領地の統治者としての大前提が、

老夫の信条と相反していることを再認識した。



「真面目だねえ、きみは。

まあ、そうでないと判事は務まらないか。

だが、きみが向き合うべきものは、何だい?

ぼくでもないし、きみ自身でもないだろう?

罪だよ。オーシャニアの戦争指導者どもを罰し、

流血の青海史に楔を打つことが、

『アーコンプール軍事裁判』の使命なのだよ。

侵略戦争を企てた連中を野放しにする気かい?」


メディクスは、眉をひそめた。

法の番人としての矜持が、

高慢な軍人に汚されつつあることを悟った。


「いいえ、閣下。向き合うべきは、

『自由の法理念』に反するものです。



職務外の行為と銘打った上で、

わたしからも質問をさせていただきます。

今後、オーシャニア人以外の者による、

大青海戦争の残虐行為を咎める裁判は、

開廷されますか?

勝者は、復讐の刃を隠してはおりませんか?

閣下の軍隊のよからぬ噂を耳にします。

民家や医療機関への襲撃事件、それから……」


ラッサリウスは、吹き出した。


「きみ! あんな悪趣味を、ぼくが命令した、と?

何なら、やめろ、と言っているよ! けれども、

あの低能どもは、一向にやめないのさ!」

「……はい? 低能ども?」



ラッサリウスは、続けた。


「低能な人間は嫌いだよ。

すぐにひとを撲りたがる。

拳でも、言葉でも、何でもね。

それでもって、奴らは、

あんな理由があったのだとか、

こんな事情があったのだとか、

言い訳しかしないから、会話にならない。

だが、あんな奴らでも、

誰かが世話をしてやらなければならない。

この世で一番きつい仕事さ。

きみも、やってみたらどうだい?

奴らをしつけてみたまえ。

暴力はいけないことです、とね」



メディクスは、目を細めた。


「では、閣下は、

その、低能ども、とは違うのですな」


ラッサリウスは、鼻で笑ってみせた。


「かまわないよ、判事長、

ぼくを提訴してくれても。

法に明るい友人なら幾らでもいる。


ただ、その時の訴状には、

青海艦隊総司令官の名前と、

我が国の大統領の名前も、

忘れず、書き連ねておいてくれたまえ」










◆4










——アーコニア島南部 バーナリー水路橋


早朝。『解放軍』、合流。


ザンベオルグ高地を下ってきたのは、

王女と親衛歩兵第二中隊、一八〇人。


ワーマニア島から渡ってきたのは、

水上任務特設小隊、五十二人。


そして、アーコニア島の山林に潜伏していた、

列島軍管区独立歩兵第五中隊、一二九人。


合計三六一人が、

『一八号作戦』の実動部隊として集結した。



総員、整列。

ビシッ!

緑の軍服が連なった。


靴音一つ鳴らさない。

銃剣一つ揺らさない。

決戦前の緊張がはしる。


古木に覆われた小川の岸には、

葉擦れとせせらぎだけが響いている。


兵士たちの視線の先には、

赤煉瓦の橋が架かっていた。

小川と交差し、小川を跨ぐように、

弧状の橋桁が伸びていた。



橋脚の元に、シグマが立った。

その両手には、大槌が握り締められていた。


腰を落とし、振りかぶり、体重を乗せ、ガツンッ!


大槌の頭が激突し、橋脚の表層が砕け散った。


さらに、歯を食いしばり、もう一振り、ガツンッ!


鉄骨が露わになった。


ガツンッ! ガツンッ! ガラガラッ!


ついに、赤煉瓦の壁が穿たれ、

現れたのは、真っ暗な地下道の入口だった。



シグマは、大槌を放り捨て、

整列する兵士たちに向き直った。


「諸君、この地下道は、

王宮東門御苑の噴水塔に直結している。


陸軍部は、

かつてのバーナリー上水の流路を転用し、有事に、

国王陛下を島中部にお迎え申し上げるための、

避難通路を開設していたのだ。


我らは、これを、

王都港湾への進入経路として利用する。

まさに、これこそが、

『十八号作戦』の活路なのだ」



『解放軍』の本隊は、

王宮東門御苑から地上に出た後、

ワダン拘置所に幽閉されている国王を救出し、

再び、

この地下道に潜り、帰還する。


それが、作戦の基本方針だった。


そこに、詰襟を着飾ったマヤが歩み出た。


「われとカイ特任兵の別動班は、

〈カムランの灼天竜〉に騎し、空より攻め入る。

地下道を利用した作戦実行が困難となった場合、

われらがこれを引き受ける。

それでよかったな、シグマ大佐」



シグマは、頷いた。


「いかにも、王女殿下。

我らの最大の秘策とは、

『護国三大霊獣』の御力に他なりません。


一五〇〇年の人文の霊域、王都港湾にて、

〈カムランの灼天竜〉、〈シャーレイの羅森獣〉、

この二柱が御姿を示されることそのものが、

列島の民を奮い立たせましょう。


また、小官が率いる手勢も、

第二別動班として、軍事裁判所へ攻め入り、

王都港湾の警備を撹乱するとともに、

全国民へ檄を飛ばします」



王都港湾の警備は、王都港湾憲兵隊の他、

第六遠征軍・第六十一騎兵師団が担当している。


王都港湾憲兵隊の兵数は、五〇〇〇。

第六十一騎兵師団の兵数は、一三〇〇〇。


状況は、圧倒的に不利だった。


外套をはおり十字剣を提げたカイが、一歩前に。


「王女殿下の御身は、

必ずや、小官がお守り申し上げます。

また、島内にいる他の占領軍は、

我らの友軍が、今も、引きつけているはずです。

彼らに報いるためにも、尽力する所存」



突撃銃を提げたハナも、一歩前に。


「小官らは、ギル特任兵を主力とし、

ワダン拘置所へ突入します。

必ずや、占領軍の〈聖獣兵器〉を打破し、

国王陛下を救出し奉ります」


その陰には、ギルが立っていた。


俯いていた。

彼の腕輪の〈羅森の翠玉〉を睨み、

拳をぎちぎちと握り締めていた。


陰った面差しに、また、

渦巻く負の感情を隠しているようだった。



マヤは、

彼女の腕輪の〈灼天の紅玉〉をたしかめた。


彼女の命が、力が、誇りが、

鈍く、熱く、燻ぶられていた。

闘志が、腹の奥底を疼かせてもいた。


では、それらを包括する、崇高なものとは。

答えは、この先の、大渦の底にあるのだろうか。


怖ろしかった。

怖ろしかったが、かまわなかった。


自分が選んだ航路だ。

ひたすらに、前のめりに、突き進むのだ。



「それでは、王女殿下」

シグマに黒目に、促された。


マヤは、瞼を閉じ、深呼吸をする。

じっと意志を漲らせてから、

鋭く開き、兵士たちに号令を掛けた。


「不退転の誓いを胸に、

荒くれた海を征くのみだ!

『十八号作戦』を開始せよ!」


「はっ!」

颯爽と、

本隊三二一人と、第二別働班三十八人が、

橋脚に開かれた地下道へと駆け入った。



マヤとカイは、隊列を見送った。

隊列の中には、ハナの後ろ姿があった。


ふと、振り向いたハナが、右目をぱちり。


マヤとカイが頷き返すと、

ハナは、

いたずらっぽく微笑み、また、駆けていった。


「さあ、おれたちも」

カイは、十字剣の鞘を握り締める。


「還ろう、必ず、だ」

マヤは、武骨な散弾銃を握り直す。

来たる、「王都港湾決戦」への覚悟を胸に。










To Be Continued.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。