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ついて来てくれて

「浩介、浩介は後悔とか無いのか?」

「ううん、改めて思ったけど、色々と考えたけど、僕は何も後悔してないよ。悠介と一緒に居られて、悠介のお手伝いが出来て、僕まで凄い人になった気持ちになって。子供達から僕がなんて呼ばれてるかは知ってるでしょう?でも、僕は何もしてない、ただ悠介の隣にいただけ。」

「副隊長、って言われてたな、そう言えば。……。何もしてない訳が無いだろう?俺の事をずっと支え続けてくれたのに、何もしてこなかったなんて言うな。浩介は沢山、色んな事をしてくれた、俺の我儘に付き合って、支えてくれた。俺が何をしでかしても、見放さずに見守ってくれた。だから、俺にとっては、浩介が一番の功労者だよ。」

「そういってくれるのは、悠介だけだよ。皆わかってる、本当は僕は無力だって事、僕は悠介がいなかったら、何も出来なかった事。きっと、皆それをわかってる、悠介が全ての起点になった事、悠介のおかげで生き延びれた事、全てわかってると思うんだ。」

 午後七時、浩介とだらだらしながら話をする、浩介は、自信が無いって言う顔をして、少し寂しげに笑う。

 確かに、事の始まりは俺だ、俺が言葉を発して、行動し始めて、それが始まりなのは間違いない。

 ただ、浩介が何もしてこなかった、って言うのは違う、浩介は沢山の事をしてきてくれた、俺の傍にいてくれた、それだけでも十分だったのに、副隊長として、自警団を支えてくれた。

「浩介の言葉に救われた人だって、沢山いるんだ。俺だってそうだぞ?浩介がいなかったら、きっと俺はこの自警団自体を作ってなかった。それ位、浩介は大事な存在なんだ。」

「……。でも、僕は悠介と違って行動力もないし、言葉も上手じゃないし……。」

「そんな事は些末な事なんだよ、浩介。一番大事なのは、想いだ。想いが人を助ける、想いが人を突き動かす、そうして、俺達はやってきたじゃないか。それを今更になって、俺一人の結果として認識されちゃったら、俺は悲しい。俺は、浩介がいてくれたから、ここまでやってこれたんだ。だから、そんな悲しい顔をするんじゃないよ。」

 浩介は優しい、優しすぎる位に優しい。

 だから、じゃないけど、自分を無力だと重いこんでる節がある、自分は何も出来ない、何も成せない、って思いこんでるんだ。

 そんな事はない、現に俺は、浩介に支えられ続けてきた、助けられ続けてきた、こうして浩介がいてくれたからこそ、俺は自警団をここまで大きく出来たんだ。

 それは、悠治達の力もある、与義さんのお陰でもある、ただ、事の始まり、発端は、浩介の事を守りたいから、だった。

 浩介は俺を守ってくれてた、俺を支えてくれてた、だから、そのお礼がしたかったんだ。

「なぁ浩介、俺が作家になりたいって言った時、浩介はなんていったか覚えてるか?」

「僕が言った事?うーん、覚えてないや、十年位前の話だしね。それがどうかしたの?」

「俺は今でも覚えてるよ、浩介が背中を押してくれた事。大学進学をしないで作家になる、っていって、親父達と大喧嘩して、浩介の家に飛び出して行って。その時に、浩介が言ってくれた事、俺は今でも覚えてる。」

 それは。

「悠介は、きっと正しい。きっと、間違ってなんかいない。きっと、伝えたい想いがあるんだから。浩介がそう言ってくれたから、俺は作家になる道を選んだんだ。その後だって、浩介がいてくれなかったら、俺はまともな生活を送れてなかっただろう。貧乏暇なし、って言う位、俺の小説の売れ行きは悪かったから。もしかしたら、筆を折って別の仕事をしていたかもしれない。そうせずに済んだ、俺がやりたい事をやり続けられたのは、浩介がいてくれたお陰だ。自警団だって、浩介がいなかったら、組織すらしてなかったよ。だから、自分を無価値だと思うのはよしてくれ。俺はそんな事を言われたら、悲しい。」

「悠介……。僕はただ、悠介に憧れてただけなんだよ?悠介はなんだってやって見せる、運動はちょっと苦手かもしれないけど……。でも、何だって出来る、悠介はそう言う人だと思ってた。自信に満ちてて、何時だって前を向いてて。僕はそんな悠介に憧れて、後ろをついて行ってただけなんだよ?」

「そんな事はない。浩介だって立派な人だ。じゃなかったら、俺一人だったら、与義さんは動いてくれなかっただろうな。俺達は二人で一人、そうやって、ずっと生きてきた。だから、今更俺一人の功績だ、って言われても困る。浩介だって、立派に役目を果たしたじゃないか。」

「そう、かな……。」

「あぁ、誰が何と言おうと、俺は浩介を誇りに思う。浩介がいてくれたから、俺はここまで生きてこれたんだ。」

 本心、浩介にとって耳障りのいい言葉じゃなくて、本心を話す。

 浩介は、暗い表情を明るくして、にっこりと笑って嬉しそうに頷く。

 今はここは真っ暗、って言うか、ソーラーバッテリー式の電灯だけが灯りなんだけど、浩介の表情はよくわかる、それ位わからないと、恋人失格だ。

 淡いライトに照らされた浩介の顔、それはとても嬉しそうで、少し寂しそうで。

「なぁ、浩介。」

「なあに?」

「俺の事、恨まなくて良いのか?俺は浩介の恋人として生きたんじゃなくて、自分の人生を生きた。それを、恨んだりしないのか?」

「……。そんな事を言ったら、僕だって自分の人生を生きていたよ?悠介と同じ道を歩く、それは誰でもない、僕だけの人生だから。僕が選んだ、僕だけの人生、それが、悠介の隣っを歩き続ける事だったんだよ?それは誰でもない、僕が決めた事。恨む理由が無いんだよ、僕には。だって、悠介が自分の道を歩いていたのと一緒で、僕も自分だけの道を、僕にしか歩けない道を歩いていたんだから。」

「……。そうか、それは嬉しい誤算だったな。俺に付き合って、無理をしてるんだとずっと思ってた、俺は俺の道しか生きられない、だから、浩介には無理をさせてるんだろうなって。でも、それが違ったのであれば、それは嬉しい誤算だ。」

 嬉しい誤算、とか言いながら、半分位は納得してる自分がいて、それは傲慢なんじゃないか、と思ってる。

 浩介が自分自身でこの道を選んだ事、俺の隣を歩いてくれる事、歩かせていた事、それに対して、申し訳ないと思う反面、浩介はそれを自分自身で選んだんだ、って思ってた。

 だから、半分は誤算で半分は納得がいく、そんな感情だ。

 傲慢で、厚顔不遜な考えって言われてもおかしくはない、それ位、俺は大仰な事を考えてたんだろう、ただ、浩介の事は良く知ってるつもりだ、それ位の思考は理解出来る。

「ありがとう、ずっとついてきてくれて、俺を支えてくれて。浩介がいなかったら、俺は今こうしていられなかったと思う。思うじゃないな、確定だ。俺は、浩介がいなかったら、こうして自警団のリーダーをする事も、そもそも作家になる事もなかっただろうな。……。浩介がいてくれたから、隣で支えてくれたから、俺は我を通す事が出来た。それは、皆のおかげでもある、それはそうだ、皆がいなかったら、ここまで自警団を大きく出来てなかっただろう、それはそうだ。でも、最初の最初、始まり、きっかけは、浩介がいてくれたからこそ、成し遂げられた事なんだ。」

「僕の方こそ、お礼を言わないと。悠介がいてくれたから、僕は希望を見失わずにいられた、希望を捨てずに生きていられた、だから、あるとすればお互い様、って事だね。……。僕は、ずっと悠介が羨ましかった。いつも前を向いてて、何時だって夢を追いかけて、そんな悠介の隣にいると、まるで僕までそれが出来てるみたいに思えて、眩しくてたまらなかった悠介と、同じ場所に立ててる様な気がして。だから、僕も沢山お礼をしたかった。でも、僕には何が出来るのか、なんだったら悠介にお返しが出来るのか、それがずっとわからなかった。でも、そんな事を考える必要もなかった、って事だね。ありがとう、悠介。夢を追いかけてくれて、希望を見続けてくれて、ありがとう。」

「ホントに、お互い様だな。……。お互い、遠いところまで来たな。覚えてるか?十八年前、俺達が小学四年生の頃に、浩介が告白してくれて、そこから俺達、ずっと付き合い続けてきたんだぞ?人生の半分以上を一緒に過ごして、一緒に色んな事をして、ここまでたどり着いて。……。俺は満足してる、それが終わりなんだとしても、それが若くして終わる事なんだとしても、俺は満足してる。浩介がどう思ってるかはわからない、こればっかりは俺と同じだとも思わない。ただ、俺は満足して逝ける。俺は俺のやるべき事をやり切った、それだけで、俺は満足して逝ける。ごめんな、浩介、最期まで自分勝手で。」

「自分勝手じゃないよ、悠介。それが悠介らしさだ、と思ってるから。ずっと前を向いて、僕達に希望をくれて、最期までそれを見失わない、それは素敵な事だと思ってるから。与義さんだって、松野のおじさんだって、悠治達だって、僕だって、その未来に向かっていく姿に惚れて、ついてきたんだから。だから、悠介は最期まで胸を張って、そして逝ってほしい。それが、僕達にとっては間違いじゃなかった、誰かにとっては間違いだったとしても、僕達にとっては間違いじゃなかった、って言う証になるから。僕達は弱い、とても、とても。一人じゃ生きていけない、一人じゃ決断を出来ない。ただ、僕達は、決断をしてきた。それは、悠介の言葉があったから出来た事、それはわかってる。でも、こういったら恩着せがましいかもしれないけど、悠介も、きっと独りだったら、こんな決断は出来てなかったと思う。皆がいてくれたから、こういうのは違うかもしれないけど、僕が隣にいたから、悠介は決断を出来た。それは、僕達にとっても誇らしい事なんだ。僕達が決断を出来たのは、悠介の言葉があったから。そして、悠介が決断をしてくれたのは、皆が傍にいたから。そうでしょう?」

「そうだな。俺は浩介がいなかったら、皆がいなかったら、この選択を決断してなかっただろう。全ては運命が準えた結果、かもしれないけど、俺は俺なりに運命に抗ったつもりだ。それが今日終わる事は決まってる、明日の朝には、全てが終わっている事に変わりはない、その運命だけは変えられない。ただ、ただ。それでも、俺は死の運命には抗えないんだとしても、せめて死に方くらいは自分で勝ち取りたかった。親父達が交通事故で死んで、俺は思った。死の運命すら、死の瞬間ですら、他人に握られてしまうのは、嫌だと。だから、俺は死ぬ時まで、死ぬ瞬間まで、自分の意思を貫きたいと思った、それだけは、その意思だけは、他人に握らせたくなかった。その結果が今なんだとしたら、それはそれで良いんだと思う。……。俺は、皆を守りたかった、支えたかった。でもそれと同時に、みんなに支えられて、守られて生きている事を実感して、己の無力を嘆いた。無力だから、がむしゃらにやってきた、それはそれで良かったんだろう、結果として、千人以上の人達が、俺達の馬鹿な話についてきてくれた。……。俺は、幸せ者だ。最期まで、胸を張って誇れる人達がいる、それだけでも幸せだって言うのに、こんなにも素敵な恋人と最期を迎えられるんだから、幸せ以外の何でもない。」

 浩介の頬を撫でながら、俺は幸せだと本心から考える。

 俺の人生、誰かにとってはくだらない事しかしてなかった人生、多くの人は歩まなかっただろう人生。

 作家として、自警団のリーダーとして、悠治の兄として、あの両親の息子として、春ちゃん達の仲間として、そして何より、浩介の恋人として。

 俺は幸せだった、誰よりも、かけがえのない物をたくさん持ってる、沢山、沢山。

 だから、俺は幸せ者なんだ。

「俺は幸せだった、それは誰にも覆せない事実だ。俺は幸せだった、浩介はどうだった?」「僕も幸せだったよ?悠介と一緒に居て、皆と一緒で、幸せだったよ。」

「そうか、それは良かった。」

 少し別れが寂しそうな浩介をハグしながら、俺は満足してた。

 浩介の悩み、もう少しでも良いから、皆と一緒に居たい、って言う気持ちは痛い程わかる。

 ただ、それでも。

 俺は満足してた、俺はそれで良かった、俺は俺で在れて良かった。

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