ご馳走
「マーケットの人達が残してたご馳走ッて、これだったのか。」
午後六時、食堂に着いて、夕食を受け取って驚く。
サイズ的にはそこまで大きくない、ちょっとした小鉢程度のものだけど、ステーキがついてるんだから驚きだ。
とっておきを残してある、とは言ってたけど、こんなに贅沢なものを残してくれるとは、って驚く。
「悠介ー、待った?」
「今座った所だよ。浩介もお勤めご苦労様。これで、最期の役割は果たしたな。」
「うん、これで良かったんだよね。」
ご飯を受け取って待ってると、定位置に浩介が来る。
食堂の端っこ、そこが俺達が普段から飯を食ってる場所で、あんまり目立ったりしない様に、って言って、端っこを選んで席に座ってたら、いつの間にかそこが定位置になってた。
浩介は調理班、俺は食料調達班、それぞれ、発起人だからって言う所に胡坐をかきたくなくて、請け負ってた役目だ。
それも終わり、俺が先に役割を終えて、浩介も最終的な飯の準備を終えて、俺達のここでの役割は終わった。
それで良いんだ、それで良い、それぞれが役割を終えて、それぞれの最期の日があって、それで良い。
「でも、ステーキだなんて、出してくれるとは思わなかったね。」
「そうだな、あの人達が最期まで守り抜いた食材って言うのが、これっていうのはびっくりだな。でも、なんとなく言いたい事はわかる気がするな。自分達だって食べたかっただろうに、最期まで俺達の為に遺してくれて……。マーケットの自衛隊の人達、自分達ハレーションか缶詰しか食べてなかったのにな。」
「それがあの人達の矜持だったのかもね。人々の為に、国の為に、っていう人達だから、自分の事よりも僕達の事を優先してくれたんじゃないかな。」
「そうかもな。」
ステーキは少しぼそぼそしてて、冷凍焼けしてるっちゃしてるんだけど、久しくそんな食材食べてなかったから、塩胡椒で味付けされたそれは、えらい美味く感じる。
肉は食べてたけど、牛肉って手に入りにくかったし、そもそも国が崩壊してからは保存食が基本だったから、冷凍してたって言っても、こんなステーキを残そうとは俺達では思わなかっただろうし。
隊の人達は缶詰なんかを食べてるって言うに、少し気が引けてくる様な気もする。
「美味しいな。」
「うん、美味しい。」
ステーキを食べながら、これが最期か、って改めて実感する。
隕石の衝突が言われて、それが現実になると言われてから一年、政府が崩壊して、自警団作らないと生きていけない、ってなってから数か月、自衛隊が崩壊したのも、その頃の話だったはずだ。
ここにも自衛隊の隊員の人はいる、警備の役割をやってくれてて、基本的に三人、一人八時間ごとの交代制でやってくれてた。
それも、今日の朝になって役割を終えてもらった、今更ここを襲撃しよう、なんていう輩もいないだろう、いるとしたら、最期の日位は人間らしく在りたいと願う人だけだろう、って話をして、警備の任を解いた。
後は、三百人が一気に食事を取れるだけのスペースではないから、それも交代制で、俺達の方が遅くて、子供やその親達に先に飯を食べてもらってる。
「……。」
「悠介、どうかした?」
「……。皆、泣かないんだなって。泣いたり、取り乱したりしないんだなって、そう言う事を考えてた。」
「そうだね、それはそうだよ、悠介が組織して、育ててきた人達なんだから、最後の一日を有意義に使いたい、って思ってるんだと思うよ。少なくとも、料理班の皆は、そう言ってた。」
「そっか。」
それは良かった、俺のやってきた事に意味があった、最期を嘆くよりも、今を生きたいと願った俺達の想いが、ちゃんと伝わってたのは有難い。
もしかしたら、まだ実感が湧いてないだけかもしれない、現実味を帯びてないだけかもしれないけど、でも、それでも。
最期まで、前を向いて歩けた事、それに皆がついてきてくれた事、それは有難いし、嬉しい事だ。
「ご馳走様でした。」
「美味しかったね。」
「そうだな。」
夕飯を食べ終わって、部屋にしてる教室に戻る。
この後は午後十一時に悠治達と通信をする、それが最期の最期、今は午後六時半、四時間位は時間が余ってる事になる。
さて、何をして過ごそうか、なんて考えながら、食器を下げて居室に戻る。




