ラジオ
「ふー……。」
午後五時半、そろそろ日が暮れる、もう少ししたら、飯の時間だ。
食堂に行かなきゃな、なんて思いながら、
残り少ないハイライトを吸って、深呼吸をする。
校庭に残ってる人間はいない、俺は校庭の壇上に座って、夕日を眺めながら煙草を吸ってる。
こんな所を誰かに見られたら、咎められてもおかしくはないと思うけど、幸いな事に誰も来ない、黄昏れるには丁度良い。
空を見る、まだ隕石は宙を漂ってる、っていうか、まだ地球の重力圏には入ってきてない、そうなってから衝突するまでは、約一分程度だろう、という専門家の話があった覚えがある、だから、俺達がそれを見る事はないんだろう。
それで良いんだ、それで、怖がる必要が亡くなったから。
「ふー……。」
煙を吐く、白い煙が、空へと昇っていく。
この光景を見るのもこれで最後、胸に刻み込もう、心に刻もう、この光景を、風景を、情景を。
来世なんてものがあって、未来があるのであれば、きっとこの風景を思い出そう。
雲間から見える富士山、その方向に落ちていく太陽、青と藍色とオレンジ色のコントラストが美しい空、それを覚えておこう。
「……。」
最後の一本に火を点ける、これを吸い終わる頃に、恐らく飯になるだろう。
最後の晩餐、それにふさわしい材料を、マーケットの人達は残してくれてた、って言う話だけは聞いてて、内容物に関しては俺も何も知らないから、それが楽しみだ。
って言っても、大した食料が残ってるとは思ってない、それだけ一年間緊迫した状況だったんだ、だから、多少なりと贅沢が出来る程度、だろうなって。
「まったく……。」
ここにいる皆は、役割を果たしてくれた。
俺も、役割を果たしたと思う、それはきっと、終わるんだろう。
「そうだ。」
まだ通信が生きてるラジオを使って、ニュースでも聴こうか、なんて思ってポケットサイズのラジオを取り出す。
周波数を合わせて、まだやってるテレビ局やラジオ局を探す。
ジー
暫く砂嵐の音がする、ノイズがなり続けて、もうやってる所は無いのかな、なんてちょっと感傷に浸る。
「……ですが……」
「ん、やってる。」
「明日、世界が滅ぶ事は確定していますが、ゲストの皆さんは今後どう過ごされるご予定ですか?」
ラジオパーソナリティの声が聞こえる、誰かをゲストに呼んで、って言う事をしてるらしい。
暫くボーっと煙草を吸いながら、ラジオを聞いて色んな人の終末を感じる。
ラジオは今日の午後十時までやるらしい、それが最後の放送になって、その後は関係者も家族と過ごす、って言う話だ。
隕石が落ちてくる予定、って言うか、予測が午前六時だから、最後の六時間位は家族と過ごしたい、って言う事なんだろうな。
まったく、この人達も大概って言うか、俺が言える事じゃないんだけど、最期まで平静を保とうとして、やるべき事をやって、凄い人達だ。
世間がどんどんおかしくなっていくのを目の当たりにして、その上で報道やラジオの放送を続けたんだから、胆力があるって言うか、肝が据わってるって言うか、なんていえば良いんだろうな。
「ふー……。」
知らない声、俺が元々テレビを見ないタイプだから、って言うのもあるけど、知らない声だ。
ラジオで音質が変わってるって言っても、元の声はあるんだろうし、名前を言われてるけど、俺は聞いた覚えが無い人達だ。
何やら流行りの芸人さんらしい、ってところまでは分かったけど、それ以上の事が情報として入ってこない。
「ふー……。」
煙草を吸い終える、そろそろ日も沈む。
明日の朝、日が昇る頃には人間は滅んでる、だから、俺達からしたら、これが最後に見る太陽だ。
「……。」
夕景って、こんなに美しかったっけ。
終末の夕景、それがこんなにも美しいものなら、それを記録する者がいても良かったのに、なんて思う。
宇宙にいる人達も、物資が届かなくなって餓死する前に地球に戻ってきてる、だから、この夕景を記録する人間がいない、それは寂しい。
ただ、仕方がないのかもしれない、こればっかりは、言っても我儘になるだけなんだろうなって。
「……。」
刻み付ける、この夕景を、この人生を、この生涯を。
魂に刻み付ける、いつか転生して、来世に生きる自分に向けて。
「行くか。」
校庭を離れる、眺めている間にだいぶ夜更けが近づいてきた、今日は冷えるだろうな。




