教え子として
「やれやれ、ちょっと暇だな……。」
午後四時半、松野さんと通信を終えて暫く、与義さんに渡されたハイライトを吸ってたんだけど、如何せん暇だ。
今、浩介達は夕飯を作ってる、最後の晩餐って事で、マーケットから多少豪華な食料を受け取ったから、それを料理してる時間だろう。
「さて、どうしたもんか。」
って言って、やる事が本当にない、普段なら、学校の音声設備を使って校外に訴えかけたり、周りに誰かがいないかとか、新しい入隊希望者がいないか、なんて探す日々だったけど、この時間って言うのは、それが終わって、夕飯を待つ時間だ。
「悠介隊長!」
「あそぼぉ!」
「あら、浩ちゃんに悠ちゃん。お母さんには許してもらってきたのかな?」
「うん!隊長と遊んでくる!って言ったらね!最期だから楽しんでらっしゃい、って言ってくれたんだ!」
通信室を出て、少しふらふらと校舎の中を歩いていると、ばたばたと走ってくる二人の子供が。
この子達は、自警団を始めた頃からずっといる家族の子供達で、お母さんは確か、今は給食班にいて、今の時間は浩介達と一緒に食事を作ってるだろう。
子供達は、最期まで遊んでいたいって言う願望が強かったのか、校庭に集まって遊んでるみたいだ。
「みんな隊長と遊びたいって!」
「ねぇ!」
浩ちゃんと悠ちゃん、浩希君と悠介君、俺と同じ名前と、浩介と似た名前の兄弟、上の浩希君が今小学三年生で、悠介君は小学一年生だったはずだ。
って言っても、悠介君が小学校に上がる前には、学校なんてのも崩壊してたから、便宜上小学一年生、ってだけだけど。
「隊長!あそぼ!」
「良いよぉ?丁度隊長も暇しててな。皆は校庭かな?」
「そうだよぉ!」
浩ちゃんと悠ちゃんと手を繋いで、子供達が集まってる校庭に向かう。
子供がいるって言っても、十五人の小学生と、二十人の中学生、高校生以上は大人って言う風に数えてたから、それ以降は把握してない。
ただ、確か高校生って言ってた子達が二十人位いた気がする、その子達は、有難い事に大人に混じって役割をこなしてくれてる、子供じゃいられないから、って言って、自分達から率先して役割をこなし始めた時には、少し驚いた覚えもある。
「皆で何するかな?」
「今ね!ケイドロしてるの!隊長は審判さんして欲しいなって!」
「オッケー、わかったよ。」
隊長、って言われてるのは、小学生組からだ。
隊長さん、隊長、なんて呼ばれてて、中学生にもなってくると、悠介さんって言われる様になって。
なんて言えば良いのかわからないけど、不思議と昔から苗字で呼ばれる事はなかった、普段から誰にでも名前で呼ばれる人だったから、坂入さん、って言われると少し違和感がある位だ。
それ位、悠介呼びに馴染みがあって、苗字で呼ばれる事に馴染みが無い、親しみやすくて結構だけど、時々自分の苗字を忘れそうになる。
「隊長呼んできたよー!」
「よぉ!」
午後四時四十五分、日が暮れるまではまだ少し時間がある、夕飯までにもまだ時間がある所で、子供達がケイドロをやってるのを眺めながら、中学生組はどうしてるのかな、なんて考える。
小学生十五人はここに集合してる、皆で揃って、最期の日を楽しもうとしてる、なら、中学生組は何をしてるのかな、なんて。
「隊長!そっちみてー!」
「はいはい。」
ケイドロをしてる小学生組を眺めながら、この子達の未来を考える。
世界終末、なんて話が無かったら、この子達にも、もっと沢山の未来があったはずだ、それを失ったのは誰のせいでもない、強いていうのであれば、衝突してくる隕石が悪いわけだけど、それでも、この子達の未来が閉ざされてしまった事、に関しては悲しいと思う。
悲しい現実、それをこの子達はどう思ってるんだろうか、懸命に生きて、そして死んでいく、それを小さい子供達がどう感じてて、どう考えていて、どう受け止めてるのか。
そんな事を考えると、胸が痛くなってくる。
「隊長、どうかしたの?」
「ん?……。そうだな、皆が可愛くて、楽しそうで嬉しいんだよ。」
「そうなの?でも、今日でお終いだ、って隊長言ってたよね?お終いって、なんでなのかなってかあちゃに聞いたらね?隊長が教えてくれるよ、って言ってたの!」
「……。皆、授業をしようか。最期の授業、これでお終いだっていう授業をしようか。」
ふと、浩ちゃんに話しかけられて、そんな事を言われたもんだから、これは応えるしかないな、と思って、十五人を集めて、校庭で授業をする。
「今日の授業、最期の授業はね、死んでしまうとは、どういう事なのか、終わりって言うのは、どういう事なのか、そう言う事を話して行こうと思う。」
「「はーい!」」
「いい返事だ。さて、上級生の子達はわかってるかもしれないけど、明日の朝、この星に隕石が落ちてくる。それは、地球というこの星を滅ぼすだけの大きさを持ってる、滅ぼすって言うのは、全てを終わらせてしまうだけの力、と言う事だね。だから、俺達は死ぬ、それは避けられない事だ。死ぬ、それは、この世とさよならをして、天国や地獄に行く事、って言っても良いかもしれないね。仏教、って言う教えだと、極楽浄土って言う場所があって、人が死んだ後に行くんだとか。とにかく、俺達は死ぬ、それだけは変わらない事実だ。」
「はい!死んじゃった後、みんなはどうなるの?天国に行って、楽しく遊べるの?」
「どうだろうね。天国や地獄から戻ってきた事がある人はいない、だから、どうなるかはわからないんだ。天国や地獄がある、って言われているだけで、それが本当かどうかもわからない。ただ、たとえ話をするのであれば、そうだな……。俺達は、また生まれ変わる事になるんだと思う。例えばお犬さんになったり、人間だったり、何になるかはわからない、宇宙人になるのかもしれない。ただ、生まれ変わって、また生きて、幸せになって、それを繰り返して行くんだと思ってるよ。俺は、そう信じてる、いつか、また皆と出会える日が来る、って信じてる。輪廻転生って言う難しい言葉があるけれどね、それは、生まれ変わった先の話なんだよ。人類って言うのは、生命って言うのは、何度も何度も生まれては死んで、それを繰り返してる、って言う事だね。そして、また皆で出会う、そう俺は信じてるんだ。それが天文学的な数字の果てだったとしても、それでも俺は信じてる。」
「天文学的な数字、ってなあに?」
「そうだな……。限りなく低い確率の事、お星さまの数と同じ位、沢山の可能性があって、その中の一つを掴みとる事、って言えば良いのかな。お星さまは沢山ある、俺達が見てる
お星さまだけじゃなくて、それ以外にも、沢山沢山お星さまは存在してる。そんな中で、もう一度出会うって言うのは、凄く難しい事、っていう意味だな。」
そろそろ日が暮れてくる、日暮れまでには、一度子供達を親御さん達の所に戻そうと思ってるから、講義もあまり時間を取れない。
「さ、今日の授業はここまで。皆、それぞれ家族と過ごす時間が必要だ。皆にとって、お父さんお母さん達がどんな人なのか、それは俺にはわからない。怒ってくる事があれば、叩かれる事があるかもしれない。でもね、皆。それでも、皆のお父さんとお母さんは、皆を愛してる。だからこそ、ここまで生きてこれたんだ。じゃなかったら、今頃皆はほっとかれて死んじゃってただろうからね。お父さん達、お兄ちゃんやお姉ちゃん達に、ぎゅーってハグをしてあげるんだ。愛してる事、愛し合ってる事、それを最期に確認する事、それは間違いなんかじゃないから。……。それでは、授業を終わります。それぞれ、帰り道に気を付けて帰りなさいね。」
「「はーい!」」
子供達を解散させて、夕日を眺めながら見送る。
子供達は教室に戻って、それぞれが両親や兄弟と話をするんだろう、それが終わりの話だったとしても、死ぬための準備だったとしても、最期位、一緒に居てほしい、そう願った。
「とうちゃ!ただいま!」
「ただいまぁ!」
「お帰り。二人とも、皆との挨拶はしてきたいのかな?」
浩希と悠介は、父元信の元に帰ってきた、元信は食料運搬班だった為、今の時間は教室でゆっくりしている、それが通例だった。
母の明美は、今は浩介達と共に夕食を作っているだろう、元信は、最期まで明美と一緒に居られてよかった、この子達と一緒に居られてよかった、と安心していた。
「隊長から、お話は聴けたかい?」
「うん!死んじゃうっていうのは、お別れだって……。でも、また会えるよって言ってた!また一緒に会って、一緒に遊べるよって!」
「そうかそうか。隊長が言ってるのなら、きっとそうなのかもしれないね。」
「うん!」
無邪気な子供達、こんな子供達に、滅びの話をするのは辛い、と思っていた元信は、悠介に説明を任せてしまった事、それに関しては申し訳ないと感じていた。
というのも、悠介は二十八歳、元信は三十三歳、年齢としては元信と妻の明美の方が高い、ただ、考え方や話し方、そう言った諸々を考えた時に、そう言った話に関しては悠介の方がいくらでも上だろう、と感じてた、それはあながち間違いでもなかったのだろう。
死という概念でさえ、前向きに捉えられる人間はそうそういない、悠介の様に、死を悲観的な概念ではなく、一つの道として考えられる人間は多くない、と元信は考えていた、それも間違いではないのだろう。
悠介は、本気で死を一つの道として考えていた、それは歩まなければならない道なのかもしれない、生命体である以上、必ず通る道なのかもしれない、ただ、それに至るまでの道、それはそれぞれが決める事だ、と。
年下である悠介から学んだ事は沢山あった、この自警団が興ってからすぐに加入した元信達一家だったが、悠介と浩介の在り方、には勉強させられた、と感じていた。
「とうちゃ、ぎゅー!」
「ぎゅー!」
「はいはい。」
浩希と悠介が、元信にハグをする。
こうして親子の触れ合い出来るのも、今日でお終い、今日が最期の日だ。
それはわかっている、心の中で整理をつけてきたつもりだ、それは、もう変えられない事だ、それもわかっていた。
ただ、それでも、涙が出てきてしまう、涙を零してしまう、子供達の成長を見守りたかった、いつか、結婚相手を連れてきて、そして自分達もおじいちゃんと呼ばれる存在になって、孫を見て、遊んで。
そんな未来を夢見ていた、しかし、それは叶わない願いなのだ。
「とうちゃ、どうしたの?」
「……。何でもないんだ。こうして、二人と一緒に居られて幸せだったよ。それは、とうちゃもかあちゃも変わらない。ずっとずっと、愛してるよ。」
「僕達も、とうちゃが大好きだよぉ!」
「ありがとう、ありがとうね、二人とも……。」
元信は、涙を止められずにいた、二人を抱きしめて、何かから守る様に抱きしめて、泣いていた。
そんな元信の頭を撫でながら、二人は考える、死んでしまうという事の意味、その辛さを、子供である自分達はわからない、と心のどこかで考えながら、元信を慰めようとする。
元信は、その手の暖かさを感じて、更に涙が流れてしまう、それは、父として間違った姿なのかもしれない、父親として、最期まで凛としていなければならなかったのかもしれない、ただ、それは出来なかった。
この子達だけでも生き延びてほしい、親とは、そういうものなのだ、と。




