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演説

「浩介、戻ったよ。」

「あ、悠介。与義さんに挨拶は出来た?」

「そうだな、最期のお礼、皆の分も言ってきたよ。」

「そっか。」

 車を校舎の横につけて、自警団の活動場所である学校跡の教室の一室に戻る。

 ここで俺と浩介は生活をしてた、自警団の長って事で、二人で一つの教室を使わせてもらってて、基本的に夜寝る時は、ここで寝てる。

 そんな教室に浩介を迎えに行く、浩介はこの時間はここにいると思ったから、当たってた。

 現在時刻は午後三時、いつもなら点呼の時間だ。

 最期までそれをしよう、と思ってた俺達は、体育館に向かう。

 体育館は電気も通ってて、一応夏場なんかは少し涼める程度の機能はあった、冬場も大きな電気ストーブを使ってて、そこだけは暖かな空気になって、そう言う場所だ。

 拠り所って言えば良いのかな、毎日午後三時に、皆で点呼をし合って、今日も無事だった事を喜んで、そう言う事をする時間だった。

 でも、今日は違う、昨日のうちにそれは伝えてある、だから、参加するもしないも自由、なんなら、最期の一日なんだから、元の自宅で過ごしても良い、っていう風に話をしてたから、どれ位の人が集まってくれるのやらだ。

「皆、お家に戻ってたりするのかな。」

「さあ、な。でも、俺は残った人達の為にもやる意味はあると思うよ。」

「そうだね、最期まで、僕達を信じてくれた人達だからね。」

 体育館の扉を開ける、大体の人は集まってたのか、視線がこっちに集まる。

 体育館にずらっと並んだ、三百人の人達、顔を見る限り、殆どの人は残ったみたいだ。

 与義さんみたいに家に戻る人の方が珍しかったのか、それともここで最後を迎えるって言う、俺達の言葉に従ってくれたのか、それはわからないけど、予想以上の人間が残ってた。

 俺達は視線を感じながら、壇上に向かう、壇上にマイクがあって、それに用事があった。

「あー、あー。聞こえてますか?」

 壇上に上がって、マイクに向かって声を出す、体育館に響くその声は、がやがやとしてた皆を静かにさせる。

 視線が集中する、ここにいる、一人一人と対話をして、ここにいる事を決めた人達、ここに残って、人間らしい最期を迎えようとした人達が、こっちを見てる。

「……。今日で最期、って言っても、なんて言ったら良いのやら……。ここにいる全員に、謝辞を。皆のおかげで、俺達は人間らしい最期を迎えられる。それは、滅びへの道なのかもしれない、抗えない消滅の道なのかもしれない、ただ、それでも俺達は、最期まで人間として生きていたかった。そんな妄言に付き合ってくれて、ありがとう。……。俺達は、幸せだった。きっと、幸せだった。最期かもしれない、ただ、最期まで人間らしくあれた事、それは幸せなんだと思う。マーケットに向かう時、荒廃した街を見て、ここに住んでる人達は、どう足搔いても人間らしい生活を送れてない、だから、もっとここの活動を大きくしたかった、でも、それは出来なかった。だから、ここにいる三百人は、最期まで人間らしく在ろうとした、幸せな人達なんだと思う。滅びは避けられない、それは明日、必ず来る。でも、それでも構わない。俺達は、人間らしく生きて、人間らしく死んでいく。それだけが出来れば、今のこの世界では万々歳だから。本当に、ありがとう。こんな話に付き合ってくれて、感謝してる。」

「僕からも、感謝してます。皆がついてきてくれたから、僕達はこうして最期まで人間らしくあれた、だから、皆には感謝してもしきれません。今日でお終いっていうのは、寂しいけれど……。でも、それでも、皆と出会えて良かった。」

 拍手、ひとつの拍手が、やがて大きな波を起こして、拍手が大きくなる。

 ちょっと恥かしい、でも、俺達のやってきた事は間違いじゃない、そう思わせてくれる拍手、それを聞いて、少しホッとしてた。

 こんなバカな話に付き合わされて、怒る人がいたっておかしくはないだろう、呆れる人がいてもおかしくはないだろう、そんな中で、ここにいる皆は、ついてきてくれた。

 だから、俺達はきっと幸せなんだ。

 誰が何と言っても、未来の文明社会が、地球の滅びを観測して、それを悲劇だといったとしても、俺達の行動が愚かに見えたとしても、それでも。

 俺達は間違ってない、最期まで人間らしくあろうとした俺達は、きっと間違ってない。

「これで解散だ、最期の一日、どう過ごすかは皆次第だ。与義さんは家に戻ってる、独りで過ごしてるのか、それはわからないけど。でも、今日位自由にやっても良いだろう。何をしたとて、咎める事もない。ただ、ここのルールだけは守ってくれ。最期まで、最期の瞬間まで、人間らしく、犯罪に手を染めずに生きる、それだけ守ってくれれば、後は自由にしよう。そうだ、マーケットの人達から伝言を預かってるから、それも伝えないとな。……。お互い、長い道のりでした、お互い、苦しい道のりでした。しかし、皆さんと共に生きられた事を、光栄に思います、敬礼。だそうだ。……。皆の想いも、ちゃんと伝えてきた、手紙を渡して、ただ、読んでくれるかどうかは任せてきた。ただ、読んでくれてると思うよ。皆の想い、それは伝わってると思う。あの人達も、与義さんの声で集まった人達だから、きっと俺達の想いは届いてる。だから、安心して欲しい。」

 一旦静かになって、そして言葉を告げる。

 皆で手紙を書いた、って言っても、代表者が五人、手紙を認めて、マーケットを運営してくれていた自衛隊の人達に手紙を送った。

 それを読むかどうかは任せてる、ただ、読んでくれてる気はしてる、それ位の絆は、俺達にだってあるはずだ、って。

「それじゃ、今度こそ解散だ。何か月かの関係だったけど、俺達には絆があった、確かにあったんだ。その絆が、きっと来世まで続きます様に。」

 それだけ言って、拍手の中壇上から降りる。

 それに合わせて、各々が各自割り当てられた教室に戻っていく、その後ろ姿を見て、少し寂しさを感じる。

 もしかしたら、この縁は、他の運命だったとしたら、世界の終末って言う事が無かったら、結ばれなかった縁かもしれない。

 ただ、一度結ばれた縁には意味がある、そう俺は信じてるから、ここにいる人達との縁も、きっと意味がある。

 来世があって、人間に生まれるんだとしたら、また縁が結べると良いな、なんて考える。

「じゃあ、浩介は夕飯作りに行くのか。」

「うん、最期まで役割は果たそうと思って。悠介はどうするの?夜ご飯まで、まだ時間あるよ?」

「そうだな、通信室にいるよ。」

「わかった。」

 三時半から約束がある、だから通信室に向かう。

 浩介は、今日の晩飯を作りに家庭科室に向かう、一旦お別れだけど、また夜には一緒になる。

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