それぞれの拠点長
「あーあー、こちら坂入。皆、聞こえるか?」
午後十一時、浩介が通信室に入ってきたのと同時に、俺は通信を試みる、まだ砂嵐の音が聞こえるだけだけど、それぞれどうしてるのやらだ。
「皆、聞こえるー?」
「あー、こちら坂崎、聞こえてるよー。」
「こちら国枝、聞こえてなかったら返事してないよ?」
「こちら前野、聞こえてるよ、大丈夫。」
それぞれから応答が返ってくる、安心した、最期に皆の声が聴けて、俺は安心した。
それは浩介も一緒だろう、俺が先に通信室に来たけど、浩介は教室を回ってた、って言う話で、尾高さんや赤羽さん達とお別れをいってきたらしい。
俺はそれが出来ない、俺の立場上、個人に声をかけて、別れを告げるって言うのは出来ない、しちゃいけないと思う、だから、浩介が個人的に別れを告げて来た事については、何も言うまい。
「……。これで、本当に最後なんだな。信じられないって言うか、明日の朝には全てが終わってる事が信じられないよ。……。でも、俺達はやりきった、俺達は、俺達の正しさを証明し続けた。皆、こんな話についてきてくれてありがとう。俺と浩介だけじゃ、ここまでは出来なかったよ。」
「そうだね。皆がいてくれたから、自警団を大きく出来た。僕達にとって、大きさは関係ないと思っていたけれど、一人でも多くの人を助けたい、と思ってたから、それは僥倖だったね。」
浩介と一緒に、改めてお礼を言う。
何度お礼を言っても良いと思ってる、何度お礼を言っても、言い足りない位だ。
皆、怖かっただろう、心細かっただろう、自衛隊の中でも、仲が良かった人達と一緒に向かった、って言っても、新天地に拠点を探して、それを構築して、そして大きくする、って言う事をやってくれた皆は、怖かったと思う。
それは、人間に対する恐怖であって、隕石に対する恐怖であって。
色んな怖さがあって、それでもやってくれた、そんな子達なんだ。
「お礼を言われる様な事はしてないよ、悠にぃ。僕達は、そうだな……。僕達は、ついて行きたいと願ったから、ついて行っただけ。悠にぃと浩にぃの意思、想い、そういう諸々に対して、感動すらしたから、ついて行っただけ。自警団を作りあげた立派な人達がお兄ちゃんだなんて、僕は誇らしい。それに乗っかって、一緒に何かが出来た事、それも誇らしい。だから、僕達はお礼を言われる様な事はしてない、僕達は、やりたくてやってただけなんだから。」
「そうだよ。悠介と浩介の想いに惹かれて、私達を突き動かす原動力を貰って、それで私達は動いてきただけ。拠点長になったのだって、二人にお礼がしたかったから、そうじゃなかったら、私達もとっくのとうに死んでただろうから、それに対するお礼。だから、二人にお礼をいう事はあっても、謝られたり、お礼を言われる様な事はして無いんだよ?」
「うん。僕達は悠介先輩と浩介先輩に救われて、ここまで生きてきたんだ。だから、そのお返しだと思ってくれれば良い。そうじゃなかったら、ここまでやってはいないよ。」
それぞれ、想いを最期まで持ってくれてる、それは嬉しい。
ただ、最期まで本心を語らずに逝ってしまうのは、悲しい。
「……。今ここには、俺達しかいない。誰も通信を聞いてない、誰も。だから、最期位本心を言ってくれても良いんだぞ?怖かったら怖いって、俺を恨んでるなら恨んでるって、言ってくれたって誰も咎めやしないぞ?」
「恨んでる?なんで?悠にぃを恨む理由がどこにあるの?確かに怖いよ?怖いけど、それでも生きようって決めたのは自分自身なんだよ?それを、悠にぃのせいにしようだなんて、誰も考えないよ?」
恨んだっていいのに、兄弟を引き離した事、それを恨んだって構わないって言うのに、悠治は本当にお人良しだな。
浩介じゃなくて悠治を拠点長にした事、恨んだって良いのに。
「そうだよ。確かに怖いよ?明日の朝には、全てが滅んでしまうなんて、今でも信じられない位、怖い。ただ、悠介を恨むって言う理由は、私もわかんないよ。悠介は、私達の希望、私達の指標、そう言う人だと思ってるから。だから恨む理由なんて、何処にもないよ?」
「うん。悠介先輩も、浩介先輩も、二人とも、ずっと頑張ってきたんだよ。僕達は、それに付き従って、自分達の意思でついて行ったんだ。恨む事なんてないよ、だって、僕達は救われたんだから。」
「……。皆、ホントに……。そうか、そう言ってくれるのであれば、俺達が何かをいう必要はないな。ありがとう、俺達についてきてくれて。本当に助かった、皆がいてくれたから、ここまでの規模の自警団を作り上げる事が出来たんだ。」
皆お人よしが過ぎる、それ位、優しい子達だ。
だからこそ拠点長を任せられた、それはあるけれど、でも、終末の日に、恨み言一つ言わない子達だ、とまでは想像が出来なかった。
それは、悲しい現実でもあるんだろう、個人としての感情よりも、拠点長としての心意気を表に出して、怖いっていう感情を押し殺して。
怖かろう、恐ろしかろうに、それを黙って受け入れて、それで拠点長としての役割を果たしてくれて。
感謝してる、感謝は勿論してるんだけど、悲しい現実でもある、とも思う。、
「……。俺は怖い、全てが終わってしまう事が、じゃなくて、皆と会えなくなる事が、怖い。最期でも良かった、破滅願望があるわけでもないけど、これが最期でも俺は構わなかった。ただ……。ただ、皆ともう会えない事、それが辛い。最期位、酒でも飲みながら、語らいたかった。直接会って、お互い讃え合って、俺達は間違ってなかったんだなって、一緒に話をしたかった。でも、それを皆は是としなかっただろう、拠点長として、皆は立派に役割を果たしてくれた、だからこそ、俺は最期に会って語りたかった。それは叶わない願い、望んではいけない希望、それはわかってる。ただ……。ただ、最期位、皆と顔を合わせてお礼が言いたかった。」
「悠介……。」
「だから、俺は怖いんだ。それは滅びに対する事じゃない、皆と会えない事に関する事だけどな。」
俺は怖い、って言う感情が無いわけじゃない、滅びは受け入れてる、それは足搔いた所でどうしようもない事だ。
ただ、皆と最期を過ごせない事、それが怖い。
怖いって言うか、後悔って言うか。
「悠にぃ……。僕達は、本当に怖く無いんだよ。滅びが確定したあの日から、自警団を作るって言われて、そこに入ったその日から、自警団の拠点長をして欲しい、って言われたその日から。僕達は、怖がる必要なんて無いんだ、怖がって、怯える必要なんて無いんだ、って。悠にぃが、それを教えてくれたんだよ。僕達は怖がる必要はない、怯える必要もないただ、堂々と生きていればいいんだ、って悠にぃが教えてくれたんだ。そんな事は当たり前だって、そんな事は普通なんだ、て。それが、世界の終末へのカウントダウンが始まっていたとしても、それは変わる必要がない事なんだ、って。だから……。だから、僕達は勇気をもらえたんだ。悠にぃから、浩にぃから。そんなすごい人が、怖がってても良いんだ、って言っても、説得力がないよ。」
「悠治……。ホントにそれで良いのか?これが最期の通信、本音を話したって誰も怒ったりしないんだぞ?言っておきたい事とか、無いのか?」
「本音……。そうだね、一つだけあるとしたら、そうだね。僕は……。僕は、悠にぃに恋をしてた。叶わない恋、望んではいけない願望、それはわかってる、それに、綾ちゃんと結婚した身でこんな事をいうのは間違ってる、それもわかってる。それに……。悠にぃに恋をしてるのは、僕だけじゃない。春ちゃん先輩も、良太も、きっと悠にぃに恋心を抱いてる。きっと、皆が悠にぃの事を好きで、本当なら取り合ってたかもしれない、喧嘩をしていたかもしれない。ただ、それをしなかったのは、偏に浩にぃには敵わないと思ってたから、浩にぃ程、悠にぃを愛せる人はいない、って理解していたから。だから、僕達は身を引く決断をしたんだ。そうでしょう?」
「……。そうじゃない、って思いたかった時期もあったけどね。ただ、私はの話だけど、どうしようもなく悠介が好きなんだ、とは思ってたよ。どうしようもなく好きで、浩介は恋敵で、でも、浩介の事も好きで。だからこそ、拠点長を受けるって決めたんだもん。……。それが間違いだったとしたら、私の人生は最期まで間違ってたのかもしれない。でも、私はそうは思わない。恋が叶わなかったとしても、友達として接されていたんだとしても、この恋心は、間違ってなんかいない、そう信じてる。それを信じさせてくれたのは、ほかの誰でもない、悠介だから。私は、恋してた。悠介に、浩介に、恋をしてた。だから、そんな二人の為に頑張れた事、胸を張れる。だからね、悠介。君は、証明し続けなきゃいけないと思うんだ。私達の正しさ、私達の恋心の、想いの正しいを、最期まで証明してくれなきゃ、怒っちゃうよ?君が見せてくれた、終末だろうと自分は自分らしく、人間として生きて、人間として死にたい、その感情が正しかった事、その言葉が正しかった事、その想いが正しかった事、それを最期まで、証明して貰わないと。私達はね、自分の意思で、君の後ろをついていった。本当は、隣を歩きたかったけど、それは浩介の役目、浩介にしか成し得ない事、それがわかってたから、せめて後ろを歩きたい、そう願った。それが間違いじゃない事、それを証明できるのは、最期まで君だけなんだよ?」
「悠介先輩からの愛情、それは友愛だったのかもしれない、僕達には、恋愛感情を抱いてはいないんだろうな、それはわかってた。ただ、僕達は……。僕達はね、先輩。二人が好きで、大好きでたまらなくて、だからこそ、最期でも良いから、何かをしたいと願ったんだ。それが最期だったとしても、それが終わりなんだとしても、それでも。それでもいいからと、願っていたんだ。それは別れの言葉なのかもしれない、それは、最期の餞別なのかもしれない。ただ、最期に一言、欲しいな。悠介先輩だからこそ言える事、浩介先輩だからこそ言える事、この一年間、自警団のリーダーとして、頑張ってきた二人の言葉。ううん、最期なんだから、悠介先輩の本心が聞きたい。」
三人とも、強くなったもんだ。
最初、まだ拠点を分けるなんて話が無かった頃、悠治達は泣いて暮らしていた。
悠治達だけじゃない、皆が、終末への絶望で泣き暮らしていた、それは間違いではなかったんだと思う、ただ、俺は涙を流す事よりも、自分らしい最期を迎えたい、って言う気持ちが強かったから、泣かなかっただけだ。
それが、拠点を分けて活動する、ってなった頃には、皆は泣く事を辞めていた、泣かずに、涙をしまって、そして拠点長として旅だって行った。
涙はここにおいていくんだ、とはいったけど、その通りに泣かずにここまでやってきてくれた事、それは感謝してる。
ただ、思ったよりも強くなった、拠点長を任せる様になってから、三人とも、強くなった。
俺はそれが嬉しくて、少しだけ寂しくて。
「……。皆、ホントにありがとう。俺達だけじゃ、ここまでやってこれなかった。きっと、俺達も死んでいただろう、野垂れ死んでただろう、その未来を変えてくれたのは、、誰でもない自警団の皆で、ここにいる四人で。……。あの頃、泣いていた三人が、ここまで心が強くなるとは、俺も思えなかったな。それだけは、想像が出来なかった、それは負け惜しみにしておこうか。でも、それでも。俺達は間違ってなんかいなかった、俺達は人間らしく生きて、人間として死んでいく。それで良い、それでこそ、人間は美しい。色んな人が、色んな終わり方をする、それが一斉に来たってだけで、それは人類が、生命が営んできた歴史だ。その中で、俺達は俺達らしくあれた、それは幸運だったんだろう。運が良かった、ただそれだけで、俺達は生き延びる事が出来たんだと思う。勿論、皆の力がなかったら、もっと早くに死んでただろうけどな。……。皆のおかげで、多くではない、小さな力だったのかもしれないけど、千人という、多くの人達が、人間らしく最期を迎えられる事になった。それは、他の誰でもない皆の力だ。俺一人でも、浩介と二人でも成し遂げられなかった事、与義さんの力を、松野さん達の力を、そして皆の力を借りて、初めて成し遂げられた事。それを俺は、誇りに思う。終わりだったとしても構わない、これで終わりなら、それまでの人生だったんだろう。ただ……。ただ、俺は最期まで生き抜いた事を、後悔はしてない。それを、俺は誇らしく思う。皆と一緒に歩けた事、同じ道を歩けた事、それを誇らしく思うよ。」
これで最後、最期の通信だって事はよくわかってる、だから、俺は最期まで感謝を伝えたい、最期の最期まで、今際の際まで、感謝を伝えたい。
本当は、心から祝福をしたかった、一緒にに酒でも飲んで、俺は飲めない人だけど、こういう時位は飲んで、語らう事を夢見た、それだけは叶わない願いだけれど、それでも良かった。
俺達は、俺達の道を歩いてきた。
それは、他の誰でもない、俺達だけの道、俺達だけにしか歩けなかった道、俺達だけが歩けた道。
「では、これにて通信を終了とする。皆がいてくれたから、俺達はここまでやってこれた。それだけは、忘れないで欲しいな。」
通信を切る、時間は午後十一時半、世界の終末まで、あと六時間位。
「さ、戻るか。」
「良かったの?最期の瞬間まで繋いでおかなくて。」
「……。皆、それぞれの終わり方があるだろう、それを俺の我儘で潰すのは、本望じゃないんだよ。」
「そっか。」
浩介は納得してくれたみたいだ、最期まで浩介とは一緒なんだろう、最期の瞬間は、浩介と過ごす事になるんだろう。
それで良い、俺はそれで良い。
そう思いながら、通信室を出た。




