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人を異世界へ飛ばす大型トラック美女運転手、今日も元気に残業中!  作者: 酣睡


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奪うのが好きなら全部あげる、良いのも悪いのも遠慮なく持っていきなさい

小雨がしめやかに、ルーフの鋼鉄装甲を優しく叩いていた。


朝の山林には白い靄が立ち込めており、白石こころは冷気を帯びた空気の中でゆっくりと瞳を開けた。


昨夜からステアリングに突っ伏したままの不自然な体勢を崩しておらず、首筋と腰椎には針で刺されたような鈍い痛みが走っている。


昨夜の引退勇者との壮絶な死闘。その土壇場において、彼女は「成仏号」との深層共鳴を無理やり引き起こし、十トントラックを一気にマッハ三の極限速度へと叩き込んだ。


魔女時間ウィッチタイム」によって無限に引き伸ばされた思考の中では、勇者を岩壁に縫い留めて引き摺ったあの時間は、果てしなく長いプロセスのようにも思えた。


だが現実において、数百メートルを貫いたあの激突は、ほんのコンマ数秒の刹那に過ぎない。


しかし、そのたったコンマ数秒であっても。常理を超えた負荷と魔導の反動は、凡人の身である彼女の肉体をあわや内側から粉砕しかけた。


人間の神経や内臓はあまりにも脆弱であり、成仏号の自己治癒フィールドが陰ながら保護してくれていたとはいえ、体内には未だ千の刃で刻まれるような鈍痛がくすぶっている。


白石こころは血の気のない下唇を噛み締め、鉛のように重い身体を引きずりながら、魔導空間によって拡張された後方の温かな居室へと戻り、力尽きたように柔らかなベッドへと倒れ込んだ。


あの戦いはあまりにも危険すぎた。


心身ともに底をついてはいるものの、あの異常な打たれ強さで、岩壁にめり込みながらも中指を突き立てて喚いていた肉盾勇者を思い出すと、口元には冷たい嘲笑が浮かんだ——異世界の「勇者」と称される連中に、やはり一筋縄でいくような甘い相手はいない。


枕元のスマートフォンが震え、画面には柴犬課長の岡田から届いた緊急の業務連絡が灯った。全文が有無を言わせぬ厳しい口調で綴られており、彼女に二週間の有給休暇を強制的に命じる内容だった。


岡田は、この可憐な風貌の少女が骨の髄までどれほど偏執的であるかを熟知している。


ストレス発散と称して街中で無理にトラックを走らせ、人を撥ね飛ばしに行きかねないことを危惧し、出車権限を直接凍結して人間界で静養させようという腹づもりだった。


白石こころは天井を見上げ、指先で微かに痛む胸元を軽く押さえた。


激しい反動のせいで、呼吸を一つするたびに刺すような痛みが走る。だがその瞬間、彼女の脳裏に大胆かつ奇妙な着想が閃いた。


岡田課長とレベッカ主管の事前の機密分析によれば、一之瀬萌乃が持つあの奇怪な「運の強奪」は、一度きりの永久的な剥奪ではない。


人間の気運や因果には自己修復の機能が備わっており、萌乃は寄生虫のごとく定期的に吸い上げ続けなければ、万人に愛されるあの「魅惑のカリスマオーラ」を維持できないのだ。


ここ最近、萌乃が自分につきまとってこなかったのは、単に前回奪った気運がまだ保たれており、白石家で長男の白石宗一郎や長女の白石絢香から甘い蜜を吸い上げるのに忙しかったからに過ぎない。


ならば、萌乃が「略奪」に依存しているというのなら……。


もし白石こころが心の底から、この「神経を引き裂く激しい反動と骨肉の激痛」を、肉体を鍛え上げて脱皮するための「至上の神聖なる恩寵」であると主観的に認識したなら。


あの貪欲な萌乃は……血の匂いを嗅ぎつけたハイエナのように、この「千載一遇の好機」を嬉々として丸呑みするのではないだろうか?


優れた狩人ほど、獲物の姿を装って現れるものだ。


白石こころに躊躇はなかった。唇に冷徹で意味深な弧を描き、身を翻してスマートフォンを手に取ると、一之瀬萌乃の番号をダイヤルした。


コール音が三度鳴るか鳴らないかのうちに電話は繋がり、受話器の向こうから、甘ったるく、それでいて絶妙な焦りを滲ませた女の声が即座に響いた。


「こころお姉ちゃん?! うそ……本当にこころお姉ちゃんなの?! ここ数日どこに行ってたのよ、電話も全然繋がらないし、陸お兄ちゃんとすごく心配してたんだから!」


白石こころは声も立てずに冷笑した。


ここ数日、電波が途切れたことなど一度もないし、着信履歴は白紙のように綺麗だった。この女の口から出る「心配」など、路傍の雑草よりも薄っぺらい。


しかし白石こころが口を開いたとき、その声は真に迫る激しい震えと衰弱を帯びており、追い詰められた末の戸惑いを含ませ、呼吸すら押し殺すように弱々しかった。


「萌乃……私よ」


何か重大な秘密を必死に隠しているかのように数秒の間を置き、懇願するような蚊の鳴く声で言葉を紡ぐ。


「最近ね……ちょっと変なことがあって。身体がおかしくなっちゃったの。骨の中で、なんだか言葉にできない熱い力が暴れ回ってるみたいで……すごく怖くて、仕事もお休みしちゃった。誰を頼ればいいか分からなくて……陸たちも冷たいし……私には、萌乃しか思い浮かばなかったの。今日の午後……お茶に付き合ってくれないかな?」


語尾を細らせ、見捨てられることを極度に恐れるような卑屈さと脆さを演出する。


受話器の向こうの息遣いが、「熱い力」という言葉を耳にした瞬間、コンマ数秒ほど止まった。


萌乃の声のトーンが露骨に跳ね上がった。普段通りの健気で優しい親友の口調を取り繕ってはいるものの、隠しきれない興奮と強欲が、すでに電波越しに漏れ出していた。


略奪の常習犯である彼女には、その現象が何を意味するのか痛いほど理解できた——白石こころの身に、またしても未知の並外れた機縁が覚醒したのだ!


「こころお姉ちゃん、何言ってるのよ! 私たち、一番の親友じゃない! お姉ちゃんが怯えてる時に私が傍にいなくてどうするの?」


萌乃の声は弾んでいた。


「今どこにいるの? 陸お兄ちゃんとの午後の約束なんてすぐキャンセルするから、すぐにお姉ちゃんのところへ行くね!」


「待って……陸には言わないで。それに、お兄ちゃんやお姉ちゃんにも」


白石こころは家族から疎外された者の病的な過敏さと依存心を完璧に演じきり、神経質な警戒を込めて囁いた。


「最近、みんなの目がすごく変なの。まるで私が消えてしまえばいいって思ってるみたい。会いたくないの……私、もう萌乃のことしか信じられない」


その一言は、萌乃の思惑に完璧に合致した。


ここ最近、時の経過とともに白石宗一郎や白石絢香の瞳には時折、抗うような理性の光が戻りかけ、幼い頃のこころの話を口にすることすらあった。それが萌乃を密かに苛立たせていたのだ。


もし白石こころが二人きりでの密会を望み、精神支配から抜け出しかけている兄姉を遠ざけてくれるのなら、綺麗に洗った子羊が自ら狼の口へ飛び込んでくるようなものだった。


「わかった! お姉ちゃんの言う通りにする。これは私たち二人だけの秘密ね」


萌乃は甘やかに笑い、言い聞かせるように言葉を重ねた。


「午後の二時、いつものプライベートガーデン・ティールームの個室を取っておくから。絶対に待ってるからね」


「うん……ありがとう、萌乃。本当に優しいのね」


通話を切ると、画面が暗転した。


柔らかなベッドに身を預けた白石こころの瞳から、それまでの弱々しさと戸惑いは一瞬で霧散し、深淵の底のように冷徹な琥珀色の輝きが宿った。


彼女はまだ痛みの残る手首を軽く回し、体内で暴れ狂う反動の熱気を感じ取りながら、優雅でありながらも底知れぬ凄惨さを秘めた笑みを浮かべた。


「可愛い萌乃……これはね、引退勇者を骨ごと岩壁に叩き潰したほどの『恩恵』なのよ」


「私のものを奪うのがそんなに好きなら——このマッハ三の代償、一滴も残さず存分に味わいなさい」


白石こころは重く軋む両足を引きずってバスルームへと向かった。


立ち上る湯気の中、彼女は魂の同調を通じて車体へ思念を送り、成仏号を萌乃と待ち合わせているティールームの近辺へ先行して待機させた。


威容を誇る十トンの巨大トラックは、忠実な大型犬のように従順に漆黒のタイヤを転がし、市街地へと向けて静かに走り出した。


普段は狂暴極まりない深淵の魔物が、車内のバスルームにいる少女が落ち着いて湯を浴びられるよう、下り坂の速度を意図的に緩め、魔導サスペンションを極限まで柔らかく調律していた。


温かな湯が白い肌を伝い落ち、血の跡と疲労を洗い流していく。額に湯を浴びながら瞼を伏せると、脳裏にはふと妹の白石花しらいし はなの顔が浮かんだ。


少し前、花がこっそり電話をかけてきたことがあった。


その声には気遣いと切なさが滲んでおり、兄や姉が向けてくるような冷淡さと嫌悪は微塵も感じられなかった。まさか……妹は萌乃に完全には洗脳されていないのだろうか?


「勇者……なのかな」


指先で鏡の曇りをぬぐい去ると、映し出された琥珀色の双眸はどこまでも澄み切っていた。


奇妙でありながら極めて整合性の取れた推論が、彼女の思考に形を成す——私たち白石の血筋は、もとより特異なものなのかもしれない。


一之瀬萌乃に運と才能を奪われる前、自分はどんな分野に触れても短期間で極めることができた。


そして同じ血を分けた兄や姉、妹もまた、化け物じみた美貌と才能を兼ね備えている。


もし異世界転生会社の大規模データが、魂の資質と潜在能力に基づいて救世主を選定しているのだとすれば、常軌を逸した才能を持つ白石家の人間が「勇者や聖女の適格者」としてフラグを立てられる確率は、常人の数十倍に達するはずだ。


いずれ肉親を標的として追い詰める日が来るかもしれないと腹を括った瞬間、白石こころの乱れていた心は、かえって凪のように静まり返っていった。


所詮、自分が行っているのは命を奪う虐殺ではなく、法と規則に則った正当な異世界への救済派遣なのだ。


異世界へ天命の器を届けるというのなら、たとえ標的が血の繋がった家族であろうと、自分は迷わずアクセルを踏み抜くことができる。


ただ、鏡の中に映る兄や姉と瓜二つの黒髪と琥珀色の瞳を見つめていると、胸の奥にわずかな酸味が滲んだ。


街を歩けば誰もが一目で家族だと分かるほど似通っているのに、奪い去られた不条理な現実の前では、濃密な血の繋がりすら脆く崩れ去ってしまう。


バスルームを出て髪を乾かすと、白石こころはベッドの端に腰を下ろした。スマートフォンを手に取り、画面に指を走らせ、柴犬課長の岡田へ短く静かなメッセージを送信した。


『もし将来、私の家族が異世界転生のリストに入ったら、その案件は私に回してください。私の手で、見送りたいので』


送信を終えると、彼女は脱力したようにベッドへ倒れ込み、天井の暖白色のダウンライトをぼんやりと見つめた。


自分の手で出車したいと願ったのは、純粋な恨みからだけではない。胸の奥深くに、何年ものあいだ解けない執念が横たわっているからだ——姉さんに、一度でいいから勝ちたい。


幼い頃の記憶が、断片的な光となって蘇る。あの頃の自分は、兄と姉の後ろを追いかける小さなしっぽのような存在で、短い足でついて回りながらあれこれと質問を投げかけていた。


そしてあの二人は、いつも自分を優しく抱き上げ、どんな他愛のない疑問にも根気よく答えてくれたのだ。


兄の白石宗一郎は博覧強記で、その知識の広大さは歩く図書館のようだった。


どれほどマイナーで難解なトリビアを振っても、淀みなく答えてみせた。


そして姉の白石絢香に至っては、神の寵愛を一身に受けた完璧の具現のようだった。


世界規模の大会で金メダルをかっさらうことから、鉄の腕で巨大財閥の舵を取ることまで。


小さな手作りクッキーを焼くことから、政財界のパワーバランスを揺るがすことまで、この世に彼女がこなせない事柄など存在しないように思えた。


高嶺の峰のように聳え立つ姉の背中は、幼いこころが必死に見上げ、がむしゃらに追いすがろうとした憧れの終着点だった。


「一度でいいから、姉さんに勝ちたいな……」


白石こころは小さく呟いた。その瞳の奥には、冷たく研ぎ澄まされた光が宿っている。


家族の食卓で寵愛を競うのでもなければ、世俗の評価軸で張り合うのでもない。


雷雨の吹き荒れる断崖の傍らで、一歩間違えれば粉骨砕身となる死のコーナーにおいて、十トントラックで白石絢香と正真正銘の峠の死闘を繰り広げるのだ。


ゴールラインの手前で、あの完璧な女を限界まで追い詰め、その傲慢をその手で打ち砕くことができたなら。その時こそ、この裏切られた人生に、思い残すことのない真の終止符が打たれるのだから。


「成仏号」がビジネス街の路地裏の木陰に音もなく停車すると、白石こころは体内に残る重みと痛みを押し殺し、シンプルで清楚な淡い色の普段着に着替えて重いドアを開け、外へと歩み出た。


通りの角を曲がると、遠くのオープンカフェのテラス席に、あまりにも目障りな光景が目に入った——一之瀬萌乃がまるで星々に傅かれる月のように中央に座し、その周囲には身なりの良い取り巻きの男たちや、媚びへつらう令嬢たちが群がり、誰もが狂信的な笑みを浮かべていた。


白石こころから本来の気運を奪い取って以来、この女は現世の社交界で魚のように水を得ていたのだ。


貼り付けたような甘い笑みを浮かべる端正な顔立ちを見つめ、白石こころの瞳が細められた。その胸の内に、極めて悪趣味で冷え切った企みが持ち上がる。


彼女はすぐには歩み寄らず、踵を返して路傍の目立たない薬局へと入っていった。迷うことなく、効果が極めて強烈でタイムリリース型の強力な下剤を購入する。


パッケージを破り、白石こころは顔色一つ変えずに錠剤を一気に口へ放り込むと、顎を上げて飲み干した。


飲み込んだその刹那、彼女は自身の脳内認知を徹底的に騙し切った——これは下剤などではない。骨の髄まで洗い清め、身体に溜まったあらゆる俗世の不純物と毒素を排出してくれる「究極のデトックス秘薬」なのだ、と。


下準備を終え、彼女はわざと足取りをおぼつかせながら通りの角へと戻り、群衆の外側から一之瀬萌乃へ向けて控えめに手を振った。


「こころお姉ちゃん?!」


目ざとい一之瀬萌乃は、真っ先にその華奢な姿を捉えた。


その双眸に抑えきれない貪欲と歓喜が走り、即座にあのトレードマークである心配げな表情を作り上げると、ヒールを鳴らして群衆を強引に押し分け、飛び立つ小鳥のように駆け寄って白石こころを力任せに抱きしめた。


「こころお姉ちゃん、やっと来てくれた! 私、心配で気が狂いそうだったんだから!」


二人の肌が触れ合い、抱擁が完成したその瞬間——。

キィン、と。


白石こころの体内で暴れ狂い、骨という骨を引き裂かんばかりだった「マッハ三の反動痛」が、引く潮のようにコンマ数秒で綺麗さっぱり消え失せた。


代わりに訪れたのは、かつてないほどの軽やかさと爽快感。


先ほど腹に収めたばかりの下剤がもたらすはずの微かな腹痛すらも、目に見えぬ力によって一瞬で根こそぎ吸い上げられていく。


やっぱりね。伏せられた白石こころの睫毛の奥で、底冷えのする嘲弄が光った。


彼女は一之瀬萌乃の能力の致命的なロジックの穴を完全に看破していた——この女の「略奪」は、自律制御の利かない受動的な暴食なのだ。


萌乃はどれが真の福澤であるかを精査することなどできない。彼女の能力の判定基準は、白石こころ本人の「主観的認識」に完全に依存している。


白石こころが心の底から何かを「素晴らしいもの」「尊ぶべき機縁や恩恵」と定めさえすれば、萌乃に巣食う見えない因果の糸は、飢えた寄生虫のように見境なくすべてを強奪してしまうのだ!


他人の健康そのものを奪うことはできないが、奪われる側が「途轍もない滋養を摂取した」「この激痛こそが生まれ変わるための恩寵なのだ」と信じ込んでいれば、判定は即座に発動し、機縁に擬態した猛毒を胃袋へと丸呑みすることになる。


かつての白石こころは無知ゆえに、大切に思うものから順に奪い去られ、最後にはすべてを失った。


だが今や、ルールは逆転したのだ。


他人のものを奪うのがそんなに好きなら、全部持っていけばいい。


本来なら自分のものだったはずの莫大な財運も、見目麗しい容姿も、華々しい人脈も。


自分を蔑ろにした節穴の家族や、薄情な元婚約者すらも……そんな俗世のゴミなど、深淵の魔物トラックのドライバーとなった今の彼女にとっては、道端の塵芥に等しい。


けれど、返礼として——。


白石こころは痛みが抜け落ちた自身の身体を感じながら、萌乃の背中を優しくポンポンと叩いた。


その口元には、深淵の悪魔のように純粋で、柔らかな残虐の笑みが浮かんでいた。


「すごく会いたかった……そういえば萌乃、今夜は大きなライブがあるんじゃなかった? 今こうして私のために時間を使って、本当に大丈夫なの?」


白石こころは眼底の嘲笑を完璧に隠し、申し訳なさと不安に満ちた弱々しい声で尋ねた。


「平気だよ、リハーサルはもう終わってるし、このくらいの時間なら全然平気!」


一之瀬萌乃は親密そうに彼女の腕に抱きつき、非の打ち所のない整った顔を上目遣いに向けた。目尻を少し下げ、姉妹の情を何よりも重んじるいじらしい少女の仮面を貼り付ける。


「萌乃にとっては、こころお姉ちゃんがいつだって一番なんだから。お仕事なんかより、お姉ちゃんのほうがずっと大切だよ?」


耳元に届く甘ったるく、完璧に計算された台詞に、白石こころは内心で冷笑した。


時間を逆算すれば、薬局で買った医療用の強力下剤は、すでに胃腸の中で溶け始めているはずだ。


彼女は今から、今夜の生中継される大舞台が楽しみで仕方がなかった——その時になれば、スポットライトの真下で薬効は確実に炸裂する。


たとえこの女が奪い取った無敵の運気とファンのフィルターによって、ステージ上で漏らして無惨な醜態を晒そうとも、盲目的なファンたちは弾幕で必死に擁護するのかもしれない。


「あぁぁ、萌乃ちゃん泣きながらお漏らししちゃうなんて、隙があって可愛すぎる」


「これはきっと天使のデトックスに違いない」……と。


だが、一之瀬萌乃自身のあの肥大化した自尊心と、命よりも重い虚栄心が、そんな究極の社会死の打撃に耐え切れるかどうかは——まったく別の話だった。

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