決意
「そうだ聞きたいことがあったんだ」
「なんですか?」
「結局虹花戦争の勝者というのはどのように決まるんだ?」
参加者が全員そろってから数日。
小森は聞いていなかったことをふと思い出し、【薬】に問う。
「そういえば正確な説明はまだでしたね。簡単に言うと、虹色の花を手に入れた人が勝者です。しかし、手に入れる時点で他の参加者がいないことが条件なんです」
「他の参加者がいないこと……それってまさか……」
小森はその瞬間、嫌な考えが頭をよぎった。
それは彼にとって最も想像したくないものだった。
「きっと主が考えていることで合っていますよ。この戦いは思っているより残酷なものですから」
【薬】がそう言って苦笑する。
残酷なもの。それを聞き小森は、間違いであってほしいと願ったものが当たってしまったのだと思った。
他の参加者がいないというのは消滅してしまった場合のことなのではないかと小森は考えたのだ。
小森にとって人がいなくなる、というのはとても重いことである。
「どうしてそんな戦いに参加しようってなったんだ……」
小森は理解不能だという視線を【薬】に向ける。
そんな戦いにすでに関わってしまっていることにも後悔し始めてきていた。
「なぜって言われましても、願いがあったからですね。なんでも得られるものに代償があるなんてわかりきっていたものですし。そういう運命なのだと思うしかないです」
「そう割り切れるものなのか?」
「わたしはそう考えているだけです。ですが、そういった重要な情報も与えないままに主にわたしとの契約を結ばせてしまった。無理やりで、なんとも我儘でした。本当に申し訳ございません」
【薬】は小森に向かって頭を下げる。
どうにか逃げ切りたかった先にいて、ちゃんとした説明をする暇もなかったのだ。
いくら運命を感じたとはいえ強引だったと。
「緊急事態だったからしょうがないだろう。そして、もしや君が出会った時に攻撃されそうになっていたのはそういうことだったのか?」
「そうですね。先に排除しようとしていたんでしょう。まだ契約していない時に戦っても意味がないのに」
「そうなのか?」
「はい。虹花戦争は戦華乙女と契約者が揃わないと始まりませんから。それを知っているはずなのに襲ってくるものだから驚きましたよ」
虹花戦争におけるルールは事前に決まっている。
それを無視して【薬】を追いかけていたのが最初に出会ったものだった。
「もしそこで倒されたとしていたとしたらどうなっていたんだ?」
「その時はもうわたしは消滅していましたよ。だからわたしはあなたに会った時、奇跡だと思ったんです。まだ諦めなくていいんだって、そう思えたんです」
「君は奇跡や運命という言葉をよく使うんだな」
「そうですね。この世には奇跡、偶然、運命。そういった言葉があると教えてもらいましたから」
「そうか。なあドクダミ、一つだけ約束してくれるか?」
小森はわざと名を呼んだ。
【薬】。普段はそう呼んでいたが、この時はなぜかそう呼んだ方がいいのではないかという気持ちになったのだ。
「なんですか?」
「俺の前からいなくならないでくれ。ただそれだけだ」
「主、それは命令ですか?」
「いや、お願いだ」
「主は優しいですね。命令だと言ってしまえばわたしはそれに逆らえなくなるというのに」
契約したら戦華乙女は主に逆らえなくなる。
命令と言われれば必ず成し遂げなければならない。
だが、小森はあくまでお願いだと言った。
強い言葉は使いたくない。それが彼の思ったことであった。
「約束してくれるならそれでかまわないからな」
「そんなのお安い御用ですよ。わたしはあなたの前から勝手にいなくなることはないですし、あなた自身を傷つけさせないことにも尽力しますから」
「それなら俺も安心しよう。頑張ろうと言ったのだからな」
「やっぱり優しいですよ主は」
【薬】は肩の力が抜けたように笑った。
「一度言ったことを撤回したくない。ただそれだけだ」
小森は【薬】をまっすぐ見る。
後になどもう戻れないと知った。
だから彼は進むことにした。自分のトラウマも抱えながら。
それは【薬】なら大丈夫だろうという信頼を持ったからだ。
この戦いを勝ち抜くには互いに心を通わせる必要がある。
単純に力が強いものが勝つかどうかなんて分からない。
だからこそこの虹花戦争の結末など誰にも分からないのだ。
……ただ一人を除いては。




