舞台の幕開け
「こんな夜更けにどんな御用なのかな」
「お前らこそ、こんな時間に若い女が二人だけでうろつくなんざ不用心じゃないのか?」
「オレがいるから大丈夫なんだ」
「んなほっせえ腕で何するって?」
男がタンポポの腕をつかむ。
タンポポはその男の腕をつかみ返し背負い投げをした。
「誰の腕が細くて弱そうだって??あ??もっぺん言ってみろよ?なあ??」
タンポポが男を睨む。
どうやら彼女の地雷を踏んでしまったようである。
タンポポは自分が小柄であることを気にしているのだ。
そのため、彼女に身体についてのことを何か言ったらその瞬間に豹変する。
「ひ!すんませんしたあ!!」
男は颯爽と去っていった。
その過ぎていく背中を見てタンポポは舌打ちをする。
「すぐ逃げやがって......根性ねえなあ」
「タンポポ、戻ってきなさい」
「......申し訳ない主。また変わってしまっていただろうか」
「ええ。そういうあなたも興味深いけれどね」
「彼も急に変化する人だったんだよ」
タンポポは思い返すように空を見上げる。
「前の主ってどういう人だったの?」
「主がそんなことを聞いてくるのは珍しいね」
「別に。ただの興味よ」
「そうだなあ、じゃあ話をさせてもらおう。前の主は、組織のボスだった。彼はボスということを嫌がっていたのだけれどね。そんな彼が願っていたのは自分の大切な人たちが危険な目に合わず笑っていられる世界だった。でも、そんな彼の願いは叶わなかった」
「なぜ?」
なぜと問われたタンポポは笑った。
「何を当たり前のことを言っているのかな。途中で息絶えた人間が願いを叶えられるわけがないんだよ。まあ、彼は自分の最後に不満なんて一切なかったようだけれどね。自身が守りたかった大事なファミリーを守ることができたのだから」
少々顔をうつ向かせながらタンポポが言う。
前の主の最後を思い返しているのだ。
戦いに負けたというのに笑っていた彼のことを。
最後の瞬間まで大切なものを守り続けた主のことを。
「とりあえず分かったからいいわ」
「オレのさっきので分かったのかい?」
「ええ、あなたがいかにその主のことが好きだったのかがね」
「好き、か。まあ好きだったよ。それに彼は大切に思い続けていたファミリー全員に愛されていたからね。彼はとても人に好かれる人だったんだ」
「そう、そんな人がいなくなったとあればさぞ騒がしくなったでしょうね」
「ああ、混乱していたよ。オレはその現場も見ていたのだが、ほとんどの者が泣き続けていた。それでも、彼から事前に頼まれていた者たちがなんとか動いていたね。そのあとのことはオレも記憶がないので何とも言えない」
タンポポは前主のことを話しきった。
話を聞いた今の主はこう言った。
「私はあなたの前の主のようにはなれないし、なろうとすら思わないわ。それでもいいのね?」
「今更何を言っているんだい。あなたがいいと思ったから契約したというのに」
「そう......タンポポ、これからも頼んだわよ」
「もちろんだ主」
「主って言い方もいいけど、私の名前は桜庭日奈子よ。覚えておいてね」
「忘れることはないが、時々呼ぶことで覚えておくとするよ」
こうして彼女たちは進むことになるのだった。
虹花戦争の開幕。
それぞれが願いを抱く中、それは始まる。
物語の歯車は今回り出したばかり。
終着点がどこに行くのかなどまだ誰にも分かるはずがない。
最後の瞬間立っているのはいったい誰なのか。
どうか見届けてもらおう。
強くたくましく生きる彼女たち華の物語を……




