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第九話「ダンジョン撲滅運動、始めちゃいました。」①

「だ、だまされた……。」


 氷結ダンジョンの第一歩を踏み入れた瞬間に、そんな呟きが漏れる。

 

 氷の壁で構成された迷宮……凍てついた空気、息をするたびにそれは白い煙となって、たなびいていく……。

 

 ひたすら寒い……寒い、寒い、寒い! 私の思考はもはや、寒いの一言で埋め尽くされていた。

 何故なら、寒いから……ひたすらに寒いから。

 

「……んと、ロゼっち……大丈夫? 入って早々に唇とか紫になってんだけど。」


 なんかモコモコのコートで、膨れ上がったエストが隣で心配そうに、覗き込む。

 

 私は……いつも通りのメイド服。


 布切れ一枚のとこなんか、冷たい風が吹くたびに冷気が素肌に浴びせられるかのように、容赦なく体温を奪っていく。

 生足な足元とか、もはや感覚がなくなりつつある……入って、五分もしないでこれである……寒い。

 

「あの……一応、ボクは警告しましたよね? ちゃんと防寒装備した方がいいですよって。」


「そうじゃなぁ……ワシは魔力による環境フィールドくらい形成できるから、この程度問題にならんが……。てっきり、ロゼ殿も使えるもんだと思っておったぞ。」

 

「……エア・プロテクション。」


 ルスカが私にそっと触れて、魔術を施してくれると体の周りにフワッとした膜みたいなのが形成されて、風だけは止まる。


 ……寒いのは変わりないけど、多少マシになった気がする。

 

「ありがと! あ、そうか……火よっ! 火があれば、少しは暖かくなるわ!」


 そう言って、バーニングフレアソードを発動! 燃え盛るダガーの炎の熱が凍てついた身体を温めていく……。

 

「ふぅ……これでちょっとはマシになったわ!」


「……ルスカ、ごめんねぇ……私達に付き合ってもらちゃった上に、いきなりこんなグダグダで……。」


 エストへニコリと笑って、首を横に振るルスカ。

 

 ……エルフの冒険者、ディードリーさん達とは、ダンジョン攻略の途中だったんだけど。

 急遽、氷結ダンジョン攻略という事になったので、そのへんの事情を色々ボカシながらも説明した。

 

 ちょうどディードリーさん達も、一度エルフの森へ報告のため、里帰りする事になってて……その間、ルスカを仲間として面倒見てやってほしいと逆に頼まれてしまい、今回の氷結ダンジョン攻略にも同行してもらう事になった。

 

 ダンジョン攻略パーティは、どのダンジョンでも6人編成が最大らしいのだけど、うちもようやっと6人……フルメンバーが揃うことになってちょうど良かった。


 何より、ルスカはスカウトとしての探索スキル持ちで、私達に欠けていた部分を補う逸材。

 

 おまけに、私達の誰ひとりとして適正を持ってなかった風属性の適正持ちで風魔法の使い手でもあった。

 ルスカ有能ッ!


 ちなみに、このエア・プロテクションは元々、矢とか投石みたいな飛翔物対策の魔法なのだけど……こう言う使い方も出来る汎用性の高い魔法だった。


 物理攻撃の衝撃緩和作用もあるそうなので、打撃系攻撃のみならず、うっかり転んだり、高いところから落ちた時とかにも効果的。


 壊れ物の輸送なんかにも使われてるんだって……便利っ!

 

 ルスカって基本、無口なんだけど、慣れてくると表情の変化やジェスチャーで言いたいことも解るようになってきた。


 一緒にご飯食べたり、お風呂行ったりしてるうちにすっかり打ち解けたし!

 

 最近では、抱枕二号としてベッドの中だって一緒の仲なのさ! 

  

 と言うか……実は懐かれた……それも、もの凄く。

 今も温めますと言わんばかりに、私の腕に体を押し付けてくる。

 

 でも、そうなると……。

 

「ロゼさん、寒いなら私と手をつなぎましょう!」


 負けじとリアンが私の腕に手を絡めてくる……なんだろね? これ。

 

 両手に花? まぁ、どっちも可愛いから良いんだけど!

 

「ロゼっち、モテモテですなぁ……うひひ。」


 エストにからかわれる……でも、暖かいのは確か。

 と言うか、やっぱり足元が寒い……何故なら私は生足だからっ!

 

 ……でも、思い切り後悔中。

 

 ジャージ履いてメイド服は絶望的にダサいと、ダメ出しされてしまったのだけど。

 

 重鎧の上に、もこもこコートにマントなんて重装備で、メタボ状態のエストを見ていると、寒さの前には多少ダサくても許容するのが正解だと思い知る。


 けどねっ! 敢えて生足でやせ我慢をしてこそ女子力ってもんだと思うのっ! でも、寒いんだけど。

 

 リアンは元々軽装だから、防寒装備と言っても厚手のコートと手袋、ズボンスタイルと無難にまとめたようで、ルスカも濃緑色のスボンに長袖にマフラーとそれなりの格好をしていた。


 ちなみに、顔に巻いた布は被視認性を下げるためのカモフラージュもあるけど、暑さ寒さを緩和するためでもあるそうな……すっごーい!


 ちなみに、水耐性持ちのルーシュは寒さ耐性も同時に得たとのことで、薄手の紫のローブ姿でケロッとしてる。

 この紫のローブは魔王様とのお揃い……そんなルーシュはすっかり魔王様の信奉者。

 

 ルーシュって……ラピュカ皇国の皇位継承権第一位……だったよね? こんな調子でいいのかなー。

 

 ……ラピュカ皇国の未来は、色々あれな感じなんだけど……まぁ、皇族の人達も魔王様に心酔しちゃって、魔王国の内政長官とかやってるから、問題……ないのかな。


 うん、やっぱ寒いな……次はもっと温かいところがいい。


 海辺とか砂浜なんかもいいなぁ……良く解らないけど、海に行ったら露出度の高い水着ってのを着て、砂浜を駆け回ったり、泳いだりするらしい……魔王様が言ってた。


 水着かぁ……本で見たけど、超可愛かった……私も着てみたい。

 でも、寒そうだな……やっぱ寒いよ……寒い……寒い。

 

「それにしても、ダンジョン同士を亜空間経由で繋げてるってのも凄い話だわぁ……。

 大迷宮の一階からこの氷結ダンジョンまで来るのに、ゲート抜けるだけってどれだけお手軽なのよぉ……。

 ここって、直線距離自体は近いけど、実際は難所で知られるバンナム連山を超えないと行けないから、普通に行ったら山岳地帯を迂回して二週間くらいの長旅になるの……それが普通。」

 

 メタボリックエストがそんな風にうんちくを語る。

 うーん、世界は広いなぁ……と言うか、寒いよ。

 

「良く解かんないけど、これがダンジョンマスター同士の諍いの解決手段なんだってさ……限定転移門ってのを設置し合って、お互いの守護者やモンスターを動員して、攻め込み合うような感じらしいよ。そいや、この氷結ダンジョンとかって、ダンジョンとしては有名なの?」

 

「氷の王国セレロニアって言えば、ちょっと有名かな……おとぎ話の「凍った王国と雪の狼王」だっけかな。」


「ああ、それ……ボクも知ってますよ。」


「……私、知らない。ざっとで良いから、教えてよ……エスト!」


 油断していると、意識が寒い一色になるから、エストの長話でも聞いてた方がきっとマシ……寒い。


「えー、オホン……昔々ですねー、この国の王様がお城の地下を拡張しようとしたら、ダンジョンを掘り当てちゃったんだって! でも、大々的に探索隊を出した結果、そいつらがなんかやらかしちゃったらしく、主だかなんだかの怒りを買って、一夜にしてお城も住民すべてが氷漬けになって滅亡したって……。

そして、凍てついた氷の城のてっぺんに佇む、真っ白い狼男……! それは冬になると、寝付きの悪い子供の枕元にやってきてぇ……うわぁあああっ!」


 唐突にエストが叫ぶもんだから、皆、一斉にビクッとする……私以外。

 何故なら、寒いから。


「あはは……なんちゃってぇ……寝付きの悪い子供を脅すお伽話の定番なのよぉ……これ。

ちなみに、このダンジョンの入口って、その氷漬けのお城になってるのだよ。まぁ……ダンジョンとしてと言うより、お伽話の方が有名。交通の要所からも外れてるから、こんなところに来るのは余程のモノ好き……だから、探索もほとんど進んでないみたい……。」

 

「そうじゃな……ワシが世界征服した時もこのダンジョンはあったのじゃが……。入り口をガッチガチに閉ざされておって、まさに門前払いじゃったわい……。

ひとまず、このダンジョンについては、ワシらが攻略後、我が魔王軍が制圧し、目ぼしいもんを頂いて、完全破壊する予定になっておる! ここらの土地も本来もっと豊かで温暖な気候のはずなんじゃが、このダンジョンから吹き出す冷気のせいで見渡す限りの雪原が広がっとるような有様じゃ。

……もっと北へ行くと普通の平原が広がっておるのじゃぞ? 不自然極まりないわい……こんな傍迷惑なモノは無くなった方が良いのじゃ。」


「そうねぇ……確かにダンジョンの周囲って、気候が不自然だったり、荒れ果てた土地が多いのよね……。地脈のマナを掠め取って、気候まで変えるとか、考えてみればひどい話よねぇ……。」


「そうなんじゃよ……ワシも各地のダンジョンの存在には頭を悩まされておってな……定期的に毒を吐き出す所やモンスターの発生源になっておったり、ホントろくでも無いのじゃ。

それもあって、ワシも世界征服後は、各地のダンジョン殲滅に励んでいたのじゃが……ウラガン大迷宮ではエライ目にあったわ。

まぁ……あれは良い教訓になったわい……。」


「あはは……魔王様のダンジョン攻略は……神への挑戦の為とかって言われてたんだけどね。

……本人がそう言うんじゃそうなんだろうね。

でも、本当に魔王城を命令一つで動かしちゃうなんて、改めてアンタって、本物なんだって実感したわぁ。」


「エスト殿? もしかして、ワシ……自称魔王(笑)とか思っとった? 確かに今のわし……そんな強くもないんじゃけど、そりゃないわーとか思わん?」


「ゴメンねー! でも、バックアップがしっかりしてるってのも、実に頼もしいわぁ……。」


「本来ならば、入り口をぶち壊して、魔王軍を突入させても良かったのじゃがな……ダンジョン攻略を軍勢にやらすのはどうしても無理があるからのう……それになるべく相手には油断して欲しいのじゃ……。

今回は、支援として我が空中魔王城をこのダンジョンの上空に配置しておる……そろそろ、空挺魔術師団も降下する頃合いかのう……。」


「さすが魔王様です! ボクもその考えに賛同します……世界を人の手に取り戻す! まさに偉業です! でも、空中魔王城を動かすなんて、ちょっと大袈裟じゃないですかね……。」


「大袈裟でもないじゃろう? ……なにせ、一国を滅ぼしたダンジョンに喧嘩を売るのじゃからのう……これは戦争じゃ……滅ぶか滅ぼされるかのな。

じゃが、我らのこの行いはまさに正義、是である事に疑いの余地はないっ! ワシのような力あるものは、相応の義務を負う……これもその一環である! ……ノブリス・オブリージュと言う奴じゃな……。」


「おお、ノブリス・オブリージュですかぁ! 私も戦場では常に先陣を切る! 進んで皆の盾となる! まさに、ノブリス・オブリージュを実践してるだけに、その考えに共感できますよぉ! ノブリス・オブリージュッ!!」


「ふははっ! ノブリス・オブリージュッ! 我が征く道こそ覇道! 共に往こうぞ! 正義の為にっ!」


「正義のためにっ! ノブリス・オブリージュッ!」


 エストと魔王様が妙な盛り上がり方をしつつ、ガッツリと腕を組み交わす。

 

 こいつら、お互い敵同士の関係だったはずなんだけどねー。

 どうもウマがあった様子で……時々、こんな風に意気投合してるのを見かける。


 こないだなんて、ドワーフのおっちゃん達と肩組んでエールがぶ飲みしてたし……。

 

 ……まぁ、仲いいことは良いことだよね……私、寒いんだけど。

かくして、第四章……ダンジョン撲滅運動……皆、ノリノリです。

ロゼたん……寒いしか言ってませんが。(笑)


冬場とかさ、雪の中生足で歩く女子高生とかっているじゃないですか。

あれって、寒くないのかなーと、職場の女子に聞いたわけですよ。


「あったりまえのように寒いよ! でも、そこを耐えるのが女子力ッ!」


……女子力すげー。

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