第三話
「どうしよう、どうしようどうしようどうしよう!」
カノが街を見て回ってくると言い残し去った後、リーンは店内を忙しなく動き回っていた。 今日出会ったばかりの人に求婚されたのは、もちろん人生初めての出来事であり、どうすれば良いものかと悩んだ末、慌ただしく店内を歩き回るといった具合である。 が、そもそも、そんな経験は人生に一度もないだろう。 リーンはこれまでの人生、このダリラと呼ばれる国から一歩ですら外に出たことはなかったが、例え外に出ていたとしても一度としてする経験ではない。
ここで暮らす者は皆、外の世界は危険で、絶対に出るなと教えられている。というのも、それこそがこの異世界の仕様であった。 本国と呼ばれる、種族ごとに一つだけ与えられる国は、通常であれば絶対に奪い取られることはない。 しかし支配した国、所謂属国と呼ばれるものは、他種族からの攻撃によって奪われるのだ。 故に、本国であるダリラから出ない限り、安全は保証されると言っても過言ではない。
もちろんその『仕様』は、カノも把握をしている。 そしてもう一つの仕様、宣戦布告と呼ばれる仕様もだ。
――――――――宣戦布告。 それは、宣戦布告をした種族と戦争状態になるコマンドである。 戦争状態となった種族同士は、例えそれが本国であろうと、システム上安全な場所であろうと、襲撃される状態となる。 その戦争が終結する条件は一つ。
敵本国の制圧だ。
その条件を満たす方法は、通常、本国の王座にある『種族の指輪』を指にはめること。 敵本国に攻め入り、指輪をはめる。 そうすることで、戦争は終結し、敗戦した種族は未来永劫、勝戦した種族の支配下に置かれる。 メリットはかなり大きいが、同時にデメリットも巨大なものだ。 そして今現在に至るまで、その『戦争』状態となった種族は存在しない。 宣戦布告を行い、戦争状態となるためには、条件があるのだ。 たったひとつの条件、所謂仕様が、今日この日までヒューマンという種族が存在している理由でもある。
その仕様とは、宣戦布告された種族がそれを受けること。 受けない限り、戦争状態へと移行することは決してない。 布告側、受諾側、双方が合意した場合のみにのみ、宣戦布告は成立するのだ。
つまり、ヒューマンは本国であるダリラのみで満足するならば、何ら今現在の状態で問題はない。 とは言っても、極度の貧困状態であるのは変わらないが。
「……わたし、どうするのが正解なんだろう」
ようやく落ち着いたのか、リーンは店内にある椅子へ腰掛ける。 その悩みは、仕様故の悩みだった。 命を持ち、仕様と呼ばれる制約以外はなんら変わらない人間であるリーン。 現状で満足すれば、カノの後に続き、国を危険に晒すような真似はしなくても良いのだ。 しかしかと言って、今現在の生活が満足できる水準かと言われると、言い返すことはできない。 けれど、ヒューマンが果たして他種族に勝つなんてこと、できるのだろうか? そんなことを延々と考え続けるも、一向に答えは出ない。
今現在、国外から物資を仕入れることは、身のこなしが上手く、隠密行動に長けるシーフクラスの者が行ってはいる。 が、それでも雀の涙のようなもので、ダリラに豊富にある水を使い、例のあの種族からの僅かな物資提供と、自給自足をすることでギリギリ保っているようなものだ。 日々休みなき労働が続き、国全体の空気は重く、暗い。 それはリーンも知るところであった。
「ア――――――――ァアアアアアアアアア!!」
「ひっ!」
突然、リーンの耳に叫び声が聞こえてきた。 言葉ではない言葉、それはまるで獣の叫び声で、高音は耳を痛めるほどに強大だった。 同時に寒気を感じるほどに、この世のものとは思えない叫び声、雄叫びだ。
この叫び声をリーンは知っている。 ここ最近、このダリラに訪れる例の種族だ。 そして今の叫び声は、わたしたちを呼び寄せるためのものだ。 そう思い、リーンは怯えつつも、喫茶店の扉へと手をかけた。
「……カノの言う通り。 わたしたち、まるで奴隷だ」
リーンは独り言を呟くと、そのまま喫茶店を後にする。 前回の訪問からおよそ三日、奴らは脅しをかけにきたのだろうと思いながら。
「……で、前に来たときから三日だが、まだ決まってないと言うのか? 話を詰めるためにも国王を立てろと私は先日、話をしたはずだが? 聞こえていなかった、とは言わせないぞ」
ダリラの広場に着くと、広がっていたのは何度見ても異様な光景だ。 集まった人々は膝を付き、拝むように、崇拝しているように、その者に頭を垂れている。 集まった人数はおおよそ数十人、気味の悪い光景だとリーンは思うものの、異を唱えることは許されない。
「申し訳ありません、ヴァルヴァード様……国王の適性を持つ者が、現れず」
口を開いたのは、ダリラの四柱であるロッドだ。 かつて、ダリラがまだ国家として形を保っていたときに、国王を支えていた四本柱の内の一人である。 齢五十になる初老の男は、内心どれほどの屈辱があるかは定かではないものの、ヴァルヴァードと呼ばれる者に深く、頭を下げていた。
「はぁ? 馬鹿かお前は。 それで国の支えとなる柱というから笑わせるな。 貴様らヒューマンの中に国王になる素質を持ってる奴らなぞ居るわけがないだろう? 下等で惨めで能なしなヒューマンが、適当にその辺から選べば良いだけだろう? なんならそこに落ちている小石でも構わん、どうせ言語を発するか発さないかの違いでしかないからな。 そんなことも分からないからゴミにもなれないクズだ、貴様らは。 犬でももう少し賢いぞ? 下等が」
蔑むように言うのは、ヴァルヴァード。 種族は神人族と呼ばれるもので、その外見は美しいのひと言である。 白い羽、透き通るような銀色の瞳と、綺麗な肌。 発する声は歌声のように綺麗で、人々を魅了するものだ。 俗に言われる天使のような外見、それが神人族と呼ばれる種族である。 全種族の中でもっとも希少な種族、その数は三十程度しかおらず、しかし国家としての戦闘能力はとてつもなく高い。 全種族最強のパラメーターを有する種族であり、個対個の戦いであれば、敗北の二文字は存在しない。 そして神人族には女性しかおらず、故に子が生まれることはない。 極稀に、自然的にそこへ出現することこそ、神人族が数を増やす唯一の方法である。
種族特有スキルは、全知全能の加護。 対象とした一名が自身よりもステータスパラメーターが高かった場合、その上回っている全ての能力値を一・五倍にし、自身へ付与するというもの。 つまり、神人族は常に相手より優れた能力値を受けることができる。 他者よりも常に上位の立場、それが最強のパラメーターを誇る神人族だ。
そして、その神人族の実質ナンバーツーであるのが、このヴァルヴァードである。 戦乙女ヴァルヴァード、首から腹部の少し上までを隠す白いドレスを身に纏い、肩から先は素肌が露出している。 下は太もも辺りまでの短いスカートを履いており、ヴァルヴァードはこの服装をもっとも動きやすいものとして好んでいる。 そんなヴァルヴァードは、頭を垂れるロッドを見下し、威圧していた。
「申し訳ありません……。 明日、明日までには決めておきますので……どうか、お許しを」
最悪の場合、自分がなるしかない。 そうしなければ、ヴァルヴァードから得られる僅かな物資ですら供給されなくなってしまう。 そう思い、ロッドはヴァルヴァードにそう伝える。
「無能どもが」
その言葉でヴァルヴァードはようやく満足したのか、ロッドの前へ小袋を落とす。 これが、ヒューマンが神人族に逆らえない理由である。 数少ない物資の提供……ヴァルヴァード曰く慈悲の心。 しかし当然、それには対価が存在する。
「あれが、今回の分でございます」
「相変わらず少ないな、私たちの恩がこの程度と思われている、そのことがとても不愉快だ。 家畜が」
「申し訳ありません……申し訳ありません……」
用意されたのは、大量の樽だった。 その中には水が豊富に入っており、この『ワールド』に置ける一般的な価値で考えると、ヴァルヴァードが渡した食物の僅かながらな種とは比べ物にならないほどの物資がそこにはある。 だが、誰も何も言えない。 この僅かな物資にも縋らなければならないほどに、ダリラは危機を迎えている。 長年なんとか生きながらえては来たものの、その終わりも見え始めた……というのが、現状のダリラだ。
「ま、今日は気分が良いしこれで許してやろう。 家畜に一々腹を立てていても仕方ないしな。 それじゃあ……」
ヴァルヴァードはそこで周囲を見渡した。 人々の顔を眺め、誰にしようかと思考した。 今から何が行われるかはその場にいる全員が理解しており、しかし逆らうことはできず、そのときが来るのを待つ。 ヴァルヴァードは尚も視線を彷徨わせていた。 そして、そのとき一瞬だけリーンと目が合ってしまった。
「貴様が良い。 ほら、おいで、犬っころ。 御主人様がお呼びだぞ」
「わ、わたし……です、か」
まさか自分が選ばれるとは思っておらず、リーンは慌てる。 が、機嫌を損ねてしまっては駄目だ。 事実、その場に居る全員がリーンに「早くしろ」と、目で訴えている。 リーンは恐る恐る、ヴァルヴァードの元へと歩み寄った。
「可愛い子だ。 ふは、私、可愛い女の子は好きなんだよ。 貴様がヒューマンじゃなければ良かったのになぁ。 ふはは、はは。 それじゃあ、舐めろ。 ヒューマンらしく、犬らしく、ゴミはゴミで無能は無能で生きてる価値はないと言いながら」
ヴァルヴァードは言うと、リーンの前に足を突き出した。 今まで、何度か見た光景だ。 自分たちは劣っていると言わせ、足を舐めさせる。 そうすることで神人族は支配しているという優越感を得て、帰って行く。 逆らえばどうなるか、誰しもが分かっていた。 だから誰も逆らうことなく、今まで何度もそれを行った。 これが、神人族がダリラを訪れたときに行う儀式であった。
リーンは今日この日、初めて儀式で選ばれたということもあり、遠目から眺めていたそれと、実際に選ばれるとでは酷く異なることを認識した。 そして同時に、今日であってしまった。 もしもこれが今日でなければ、リーンは従っていたかもしれない。 しかし今日に限って、リーンは運命的な出会いを果たしてしまったのだ。
生まれて初めて、人を愛することは正しいと言われた。 国を愛することは間違っていないと言われた。 人々を想うこと、強い意思を持つことは綺麗だと、教えてもらった。 自分の気持ちを肯定してくれた、自分の仲間となってくれた人は、この世界に居たのだ。
故に、リーンは立ち上がる。 そして目の前に居る絶対的な支配者、神人族のヴァルヴァードに向け、言い放つ。
「わたしたちは犬でもなければ、ゴミでも無能でもありませんッ!! 人に足を舐めさせるような卑劣な行為をするあなたこそ、余程無能で愚かな生き物ですッ!!」
反射的とも言えるそれを言い切り、リーンは数秒後に事態に気付く。 が、言い放ったその言葉を取り消すことはもう、できない。
「……」
それを聞いたヴァルヴァードはしばし、思考が停止した。 その広場にいた人々も全て、思考が停止する。 今この場に居た誰もが、リーンがなんと言ったのかを理解できておらず、数秒の沈黙が訪れる。 奇妙な静寂が広場を包んでいた
「……ん?」
ヴァルヴァードは生まれて初めて頭をフル回転させ、思考する。 この状況、この状態で自分が何を言われたか、一体何が起きたのか。 自分はヒューマンよりも優れている、だから命令するのは当然で、馬鹿にするのも足を舐めさせるのも自由だ。 神人族という優れた種に生まれた自分の特権だ。 むしろこの神人族の足を舐められるというのは、至福であり光栄であるはず。 だが、今何が起きた? 神人族の自分に、ただのヒューマンが、ただの娘が、何を言った? そんな思考を延々と繰り返し、やがてヴァルヴァードは答えに辿り着く。 自分がヒューマンに「無能」と呼ばれ「愚か」だと見下されたことを認識した。
「――――――――ヒューマンが、この私に何を言った」
膨大な殺気が全てを包み込む。 リーンは足の震えから立っていられず、その場に居る全ての人々は恐怖に震えた。 死を錯覚するほどの殺気、それは安全が保証されている自国内だとしても、死を見せるほどのものだ。 明確なる死、ヴァルヴァードの殺気を受けた全ての人間が、それを見せられたのだ。
「この私に、神人たる私にッ!! 何を言ったッ!?」
ヴァルヴァードは右腕を樽へと向ける。 次に起きたのは、ヴァルヴァードの右腕から放たれた魔法だ。 とてつもない魔力量から放たれるただの放射、魔力を放っただけのそれは、大量の樽を瞬時に破壊する。 内部にあった水は、膨大な熱量から一瞬で蒸発する。
「……上等だ、上等だぞヒューマンがッ!! 良いか、貴様らはバレていないと思っているようだが、私たちは貴様らヒューマンがコソコソと外に出ているのを察知している。 次に出たときは、そいつらの命はないと思え。 最早交渉の予知も私が慈悲を与えることもない。 そこの家畜が私の奴隷となり、未来永劫恥辱の限りを尽くさない限りは」
それは、まさに寝耳に水のことであった。 リーンたちヒューマンが密かに、物資補給のために外に向けて動かしていたシーフクラスの動きが全て把握されていたとは。 リーンはここに来て初めて、神人族という上位の種族に歯向かったことを後悔しそうになっていた。 自分の浅はかな予想よりも遥かに、神人族の能力は優れている。 隠密行動に特化しているシーフでさえ、動きを把握されるほどに……その探知能力は常軌を逸していると、認識させられた。
だが、既に全てが遅い。 リーンはすぐさま謝罪をしようかと、考えた。 そして、今しがたヴァルヴァードが言ったように奴隷にさえなりさえすれば……少なくとも、この国は今まで通り交渉が続けられるかもしれないと、思考する。 しかしそんなとき、リーンの肩に手が置かれた。
「よく言った」
「へ?」
リーンが瞳に涙を溜めながら顔を上げると、そこに居たのは一人の英雄だ。 今日知り合い、世界を征服すると馬鹿げたことを大真面目に語る男だ。 リーンはそのとき、心のどこかで安堵する。 いつの間にか、カノのことを頼っている。 それがどうしてか、きっと聞かれればリーンは答えるだろう。 自分と同じほどに、カノが人を愛しているからだと。 そして、カノが来てくれたからにはこの場を丸く収めてくれるかもしれない。 少なくともリーンから見て、カノという男は話術に長けているように映っていたことから。
「わあ、天使を見るのは初めてだ。 羽、触っても良い?」
「……なんだ貴様は。 頭が高いぞ、犬畜生」
カノは馴れ馴れしく、リーンの横を抜けるとヴァルヴァードの横に行き、羽に手を触れようとする。 それを受けたヴァルヴァードはカノを睨み、威圧した。
「ん? おいおいリーン、この獣はなんで偉そうなの? 俺たちヒューマンに命令するなんて、躾がなってないにもほどがあるんじゃない?」
「……ハッ!?」
リーンの考えは、その言葉によって粉々に砕かれた。 カノは笑顔で、挑発するように、ヴァルヴァードに面と向かってそう告げたのだから。 ヴァルヴァードは今度はその言葉をすぐさま咀嚼し、怒りに震え、羽を逆立たせる。 その姿は神々しくもあり、同時に威嚇しているようにも見えた。
「獣、だと? この戦乙女ヴァルヴァードに、神人族の私に向け、ヒューマン風情が……!!」
「凄い殺気だ。 けどさ、君は馬鹿かい? ここはヒューマンの本国だぜ。 だから、ここでなら俺のが強いんだ」
カノは心底楽しそうに笑う。 そして、ヴァルヴァードの顔を殴り付けた。 あまりに唐突なことで、そして考えもしないことで、ヴァルヴァードは本来であれば反応できたその攻撃をまともに食らう。 同時、ヴァルヴァードのHPはほんの少し、削られた。 それこそ、気にする程度のものではない。 自然と回復するであろう、そんな程度の傷であった。 だが問題は、ヒューマンであるカノが、神人族であるヴァルヴァードを殴った、ということである。
「……ふざけるな、クソがッ!! 図に乗るなよ劣等種族がッ!! 奴隷種族がゴミカスがッ!!」
ヴァルヴァードは右手を天へと向ける。 すると、その右手に輝く剣が出現した。 光り輝く光の剣、カノはそれを見ると、思わず感嘆の声を漏らす。 その武器の能力値を見て、驚いたのだ。 少なくともその剣の能力値はカノの心を奪い、一瞬でも驚愕させるほどに飛び抜けている。 それほどまでに強力無比、一振りすれば山をも砕くその絶対的な破壊力……それが内包されていると、カノは剣を見て理解する。
「ァアアア――――――アアアアアアア――――――――アア!!」
先ほどよりも随分と大きな叫び声を上げ、ヴァルヴァードはカノへ斬りかかる。 神声と呼ばれるそれは、戦いを知らせる叫び声だ。 周囲の仲間を鼓舞し、自身を戦闘状態へと移行させる神人族の特性である。 その叫び声だけで、多量の殺気が含まれていることは言うまでもない。 しかし、その攻撃はカノの目前で、停止した。
「本国に居る人たちは、戦争状態でない限り、他種族の攻撃を受けることはない。 ただし、逆の場合は別となる。 君程度の能力じゃあ、俺を斬ることはできないよ。 ここでは俺が御主人様で、君は口うるさい犬に過ぎない」
「キ、さま……!! 貴様、貴様貴様貴様ッ!! たかがゴミクズが、何の役にも立たないヒューマンが、下等が劣等が凡夫が家畜が奴隷風情がッ!! この私を……神人たる私を愚弄するかッ!? 生かしておけぬ、生かしておけぬぞ貴様ァァァアああああああ!!」
最早、それは怒りに狂う獣であった。 効かぬと分かりながら、ヴァルヴァードは怒りに身を任せ、その光剣を振るう。 凄まじい振動と、風だけがカノを突き抜け、システム防御によってその攻撃は全て、無効化される。
「やめなさい、ヴァルヴァード」
「ッ!」
静かな声が響いた。 カノとリーン、その場に居た人々は全員が声の方向……上空へと視線を向ける。 ヴァルヴァードは動きをピタリと止め、上を見ようとはしない。
上空に居たのは、まさに天使だった。 白く、ヴァルヴァードのものよりも一回りほど巨大な羽をはためかせ、優雅に地上へと降り立つその姿は、そう言い表す他にない。 落ち着いた雰囲気と、神秘的な空気を持ち合わせる女性、そんな二人目の神人族は、優雅に地上へと降り立った。 ヴァルヴァードと比べて大分落ち着いた服装、ワンピースに近い膝ほどの白服を着ており、髪は金糸のように美しい。 天使というよりも、女神に近い出で立ちをしている。
「なんとも趣味の悪い、神声が聞こえたから来てみれば……。 ヴァルヴァード、わたくしがあなたに命じたのはヒューマンたちを懐かせなさい、ということじゃなくて? 誰がいつ、ヒューマンと喧嘩をしろと言ったのかしら?」
「……申し訳ありません、ヴァルキューレ様」
ヴァルキューレと呼ばれた神人族は、ヴァルヴァードよりも上位の存在であるのだろう。 優しい口調ながらも、その言葉の中には棘が仕込まれているような、そのような言い方をヴァルキューレはする。 それを受けたヴァルヴァードはひと言謝罪をし、跪いた。
「お見苦しいところをお見せしました、ヒューマンの方々。 実は今日、神人族の長たるわたくしが訪れたのは、一つの提案があってのことです」
ヴァルキューレは頭を下げる。 その仕草は、神人族から決してされることはないと、誰しもが思った仕草であった。 それだけで、ヴァルキューレがどれほど気品に溢れた人物か、容易に想像をさせる。
「提案? 戦争をしようとか、そういう話かな?」
ヴァルキューレの言葉に答えたのは、カノだ。 この場で、神人族と対等に話せそうな人物は彼しかいなかった。 他の者たちはリーンも含め、圧倒的な存在感を持つ神人族が二人もいる、という事実に身動きができないでいる。
「経緯としては、それは避けられないことです。 単刀直入に、分かりやすく申し上げましょう。 我々、神人族はヒューマンに対する『同盟』を提案しに来たのです」
ヴァルキューレは笑顔を向け、とても優しそうに、慈愛に溢れた表情をし、そう伝えるのだった。




