愛しい人
家に帰ると、海斗がリビングのソファに座って居眠りをしていた。
しげしげと彼の顔を見た。
可愛い顔。こうしていると、少年の様ね。
そう思って少し微笑ましげに彼を見ていた。
「……ん……?ああ……美々、帰ってきたか……」
あっ、起こしてしまった。
「あ、いいのよ、寝てて」
「……そうはいかんだろう。ふわあー、よく寝た」
そう言うと、ソファの上で大きく伸びをした。
彼だって決して嫌いなわけじゃない。海斗だって良いところはいっぱいある。
だけど、翼都はあまりにも悲しい別れだったから。そう思い私は静かに目をつむった。
そんな風に思っていると、急に眼の前が弾けた。
あっ!
サイレントゾーンだ。
がばっとソファから海斗が起き上がった。世界は私と海斗だけ残し、総て無くなった。
ここは、白い世界。
ギャンギ人が白い世界を歩いている。
「ちっ!」
海斗は光を手に握り天に広げた。光は集まって一つの物を模った(かたどった)。
それは剣。大きい剣が光をまとって現れた。
海斗はそれを握った。その時、私の胸のネックレスが光り輝いた。光の中、杖が現れた。私は翼都を思い出しながら掴んだ。
翼都は……死んでいない。きっと……。
そう思って杖を抱きしめた。
私が愛すのは、ただ貴方だけ……。
そうしている間に、海斗は早速出現した剣でギャンギ人をまるでチャンバラみたいにバッタバッタと切っていた。
切られたギャンギ人は蒸発するように消滅していった。
―美々!
「翼都?」
翼都だ!翼都が私の心に直接喋りかけている。
―この世界から出るんだ!
「待って!翼都、ここから貴方も出るの」
……。
「翼都!」
―僕は、もう声だけの存在だ。君の世界にはいけない。
「そんな……」
そんな事をしゃべっていると、海斗がやってきて何かを言っている。しかし音のない世界では何を言っているのか全く聞こえなかった。
海斗の言っていることは、分からない。
―杖で空間を叩くんだ。
翼都の声だ。
私は頷いて、彼の言うとおりに空間に杖から発する光を当てた。
割れる世界。
気が付くと、元の地球に戻ってきていた。隣に海斗もいる。大丈夫かと、二人は互いに確認して起き上がると、私たちは一緒に家路に着いた。
「貴方と翼都はどういった関係なの?」
私は歩きながらそう言うと、海斗は「ああ……」と言って、話し出した。
海斗は地球にギャンギ人が侵略すると聞いて、兵士に志願したんだって。翼都はもうかなりの戦士になっていたころだったとか。海斗は翼都に特に可愛がられていたそう。
「俺は、蒼い星が好きだった……」
何かを思い出して遠くを見つめる海斗。何を見ているのだろうか。
「着いたぞ」
そう、垣内家に着いていた。懐かしい我が家。玄関のドアを開けると一緒に、
「ただいまー!」
と大きな声で帰った。
いま、タイラ星にギャンギ人が占拠していると言う。その事を知った私は、
「ギャンギ人を滅ぼそう」
と言ったが、ぞれは途方のない苦労をしなくてはいけないだろう事は確かだろう。
「美々は危ない。連れていけない」
そう言う海斗を一生懸命説得した。だってこれは翼都の弔い戦でもある。それに、一人より二人の方が色々と……その、助け合えるし、心強いことだろうし。
「いや……でもな」
まだそう言って渋る海斗に、私は胸を張って言った。
「私もう死ぬ覚悟だってできているから」
そんな事を言うと、海斗は怒って、
「そんな事言うな!お前は俺が守る、きっと。だけど俺だって戦いに中、
どれだけ守れるか分からないんだ」
「翼都の敵を討ちたいの」
そう言うと、それきり海斗は口を閉ざした。ずっと考えている様だった。
お風呂から上がった海斗は、私の部屋に入ってきて、
「美々の好きにしたらいい」
「海斗!有難う!」
私は勉強机から立ち上がり、勢い余ったあまり、膝を机に当てた。
「いったた……」
「ただし、これだけは約束だ。……無理するな。俺が敵を全部切り刻んでやるから、美々は無理するな」
「うん」
私はにっこりと笑った。
海斗は良い奴だ。少し粗野ではいても、彼なりにいろんな事を考えているのだろう。
海斗の去り際に私は「ええ、無理しないわ。有難う」と言った。
カチャ……。
彼が出て行った後、私はテラスに出た。少し星が見える。ここは都会だから、あまり星は見えない。
それでも、美々には良い夜の空だった。
空を見ながら翼都の事を考えていた。
彼はどうしたのだろうか、声だけの存在というのは。私は翼都の姿を見たいのだ。彼をもっと確かめたい。
「翼都……」
彼の名前を呼ぶと、涙が出そうになる。翼都には聞きたいこともいろいろある。
私は目をつむりしばらく彼を想った。




