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4 翼都の死

それから、暫く平穏な日々が続いた。普通に学校へ行き、普通に家に帰って毎日を過ごしていた。


その平穏が壊れたのは……。


私は何気なく彼に言った。


「翼都、貴方の住んでいた星ってどんなところなの?」

「え?」

「どんなところ?綺麗?未来的?」

「……ここより原始的な所だった、森が多かった」

「人、いっぱいいる?」

「……僕の星は……」


何かを考えている様な翼都は、何かを言おうとしたが、ちょっと笑うと、


「この話はやめよう」

「えー?翼都の生まれたところ、聞きたいなー」

「思い出したくないんだ」


そう言うと、どこかが痛いような仕草をした。


「私がいけないこと聞いちゃったのね、ごめんね」

「美々のせいじゃないよ」


その時、暗闇から何かの手が伸びた。それは私を触った。


 「美々!」


 それから私を引きはがした翼都は、代わりにその手に掴まれた。


「翼都!」


その手は白い手。翼都を触ると、眩しく光った。

その手から私は翼都を引き離した。

勢いで倒れる私と翼都。


「いったた……大丈夫?翼都」


翼都……?

なんだか、彼は俯いて眠っている様な……。

なんか変だ!


「翼都?!」

あ!

翼都の体は力を失っていて……。その場に倒れた。


「翼都?翼都!」

 身体を大きく揺さぶったが、彼はピクリとも動かなった。

顔の色が真っ白い。


あの手は、ギャンギ人だったのだろうか。何度目を覚ましてと、叫んでも身体は全く動かない。

慌てた私は救急車を呼んだ。

異星人の彼にそんな事をしても無駄の様な気もしたが、そうするしかなかった。

病院で、すでに止まっている心臓に心臓マッサージを施した。

しかし、そんな事をしても無駄だった。彼は生き返ることは無かった。


一日が過ぎ、彼の葬式をした。

彼はついに目覚めなかったのだ。


「翼都……」


黒い衣装に身を包んだ私は、椅子に座っていた。


彼の事を思って、戻ってきてほしくてずっと俯いていた。


学校の関係者がやって来た。その人たちの慰めに私は戸惑っていた。


彼は本当に……?いや、夢だと思いたい自分がいた。彼の事がそれくらい好きだった。ただ、彼と一緒にいられれば何も望まなかった。彼が生きていれば……それだけで私は幸せだったのに。


翼都は何処かにいる……そう、何処かで。心のどこかで認めたくない私がいた。


しかし、それから一週間経っても彼は姿を見せることは無かった。


魂の抜けたようになって、ただそこにいる植物の様になっている私。だって

彼は骨になった。もう生き返る事なんて不可能なんだ。


一週間が過ぎた時、ずっとそうしているわけにはいかない。と思い、友達に相談して励ましてもらい、


学校に行こう。と思った。


明くる日の朝、家を出た。


日が昇った朝はいい天気だ。

涙雨でも良いのにな。と思いながら。

学校に行くと、彼の机の上に花束が置いてあった。


ああ、彼は亡くなったんだと、心の中で再確認してしまい、全身が苦しかった。


その日の帰り道。

私は遅くなったので小走りで帰っていた。すると、突然目の前の景色が砕けた。


あ!


そう思って私は目をつむった。


ゆっくり開けると、音がない世界に来ていた。

ここは、あのギャンギ人のいた世界だ。そう思い私はその場に立ち尽くした。


彼はもういない。それなのに、何故、この世界に来なければならないのか。

そう思うと泣けてきた。自分はここで死ぬかもしれない。そんな思いが現れると、


―もう何も怖くなんかない。

そう思い、ギャンギ人に襲いかかった。


キラッ!


あれ?と思い、手を見ると、私の手の中に弓が握られていた。


これは……翼都の……?


私はそれを見つめていた。襲いかかるギャンギ人。そのモンスターに弓を向けると、


「死ね!ギャンギ人」


そう叫び、矢を放った。

矢は光を放ち、光で世界が消滅した。


「わっ!」


地面に直撃して、腰をさする私。


地球に戻った私。


弓はもう手の中に無かった。しかし、この時、私は彼の思いを引き継ごうと思った。


彼のしたかった事。それはきっとギャンギ人の滅亡だったに違いない。

彼の言葉を思い出そう。


彼はなんて言っていた?


弓は私にだって使えるんだ。そう思い、私の胸に小さな明かりがともった。

これが、私の今唯一の生きがいだ。と、


 翼都の住んでいた部屋は暗く、家主を無くした部屋は寂しそうだ。


ふと私の心に、孤独感が戻ってきた。そして少し泣いた。

一人にしないで。と思いながら、


泣けば心が浄化される。と思った。少し泣くと気分は幾分かましになった。

そのうちに、四十九日となった。早いものだなと思った。


私はその死後の行事の多さに驚いていた。うちの家には仏壇がある。だけど檜の祭壇を作り、四十九日のあいだそこにお供え物をして、そして隣へ、前に買った和風のお箸と湯呑とご飯の入った茶碗を置いた。


彼はもう死んだんだ。これは動かしようのない事実。骨だってこのペンダントに入っている。


翼都が教えてくれなかったから、あの無機質な音のない世界の事を、「サイレントゾーン」と名付けた。安易な言葉だけど、呼び名を付けないとね、と思って。


そのサイレントゾーンはこのところ現れていない。


私は早くサイレントゾーンに入りたいと思った。だって早くけりをつけたいと思ったから。


そんなある日、学校から帰ってみるととんがった帽子をかぶった男……女?

とにかくそんな奴が私の家の中を覗いていた。


「私の家になにかご用ですか?」


そう言うと、そのとんがり帽の者はびっくりして走り去った。


何だ?あのとんがり帽は。私はしばらくその場で首をかしげて考えていた。

考えれば考えるほど、一つの考えが浮かんできて、その期待は膨らむ一方だった。


あれは翼都ではないか。という説だ。


見たところ翼都の背丈よりは高かったみたいだったが、何が何でも翼都に逢いたいから思ったから。


翼都は異星人だ。地球人には考えられない事も出来るのかもしれない。

あのとんがり帽子をかぶった人にまた逢いたい。逢えれば話しかけよう。


それが私の希望のカケラとなった。



わずかな灯火、消したくはなかった。



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