第4期 第6話 それぞれの一歩
秋が深まり始めた頃。
「NEXT RISE FESTIVAL EXTRA」は、十都市目の開催を迎えていた。
今回の会場は、港町にある老舗ライブハウス。
壁には数え切れないほどの出演者のサインが飾られ、この場所で積み重ねられてきた時間を物語っていた。
「歴史を感じますね。」
アグリが壁を見上げる。
「いつか私たちも、ここへサインを書く日が来るのかな。」
ミユキが笑う。
ライブハウスのオーナーは優しく頷いた。
「もちろん。今日の出演者全員に書いてもらう予定だよ。」
五人は顔を見合わせ、小さく笑顔を交わした。
◇
午後。
リハーサルが始まる。
この日の出演者は四組。
その中には、以前「NEXT RISE FESTIVAL EXTRA」に出演した高校生バンドの姿もあった。
「あれ?」
マアヤが気付く。
「前に会った子たちじゃない?」
「本当だ。」
イノリも穏やかに微笑んだ。
以前よりも表情が明るい。
機材の準備も落ち着いていて、ステージスタッフとのやり取りも自然だった。
「成長してる。」
イノリは嬉しそうにつぶやいた。
◇
リハーサル後。
高校生バンドのベーシストがイノリのもとへやって来た。
「お久しぶりです。」
「久しぶり。」
「前に教えていただいたこと、今でも練習しています。」
イノリは笑顔になる。
「ライブも続けてる?」
「はい!」
少年は力強く頷いた。
「この前は初めてワンマンライブもできました。」
「すごい。」
「まだ小さな会場でしたけど。」
「それでも立派な一歩だよ。」
その言葉に、少年は照れくさそうに笑った。
◇
夕方。
イベントが始まる。
一組目。
二組目。
三組目。
それぞれが自分たちの音楽を精いっぱい届ける。
客席から送られる拍手は、以前よりもさらに温かく感じられた。
ユウキは客席後方からその景色を見つめる。
「少しずつ輪が広がっている。」
イベントを重ねるたびに、新しい挑戦が生まれていた。
◇
Luminous Fiveの出番。
「こんばんは!」
アヤネの明るい声に歓声が上がる。
一曲目から客席は自然と手拍子に包まれる。
ライブハウスという近い距離だからこそ、一人ひとりの表情がよく見えた。
MCでアヤネが話す。
「今日は、以前このイベントに出演してくれた皆さんとも再会できました。」
客席から拍手が起こる。
イノリが続ける。
「続けることは簡単じゃありません。でも、一歩ずつ積み重ねた時間は、必ず自分の力になります。」
その言葉に、出演者たちも客席で大きく頷いていた。
◇
終演後。
ライブハウスの壁へ出演者全員がサインを書く。
高校生バンドのメンバーが、自分たちの名前を書き終えて嬉しそうに笑った。
「いつかもっと大きな字で書けるようになりたいです。」
ユウキはその言葉を聞いて微笑む。
「その日を楽しみにしているよ。」
◇
帰り道。
港には静かな波音が響いていた。
ユウキとイノリは海沿いをゆっくり歩く。
「今日、前に出演していた子たちと再会できて嬉しかったです。」
イノリが穏やかに話す。
「続けてくれていたことが、何より嬉しくて。」
「きっかけは小さくても、その先は本人次第だからね。」
ユウキは静かに答える。
「でも、その最初の一歩を踏み出せる場所があることは大切なんだ。」
イノリは海を見つめながら頷いた。
「私たちも、そんな場所を守っていきたいです。」
夜の港には、街の灯りが静かに揺れていた。
夢は一人で育つものではない。
誰かの応援があり、誰かの背中を見て、一歩ずつ前へ進んでいく。
その優しい連鎖は、今日もまた新しい街で静かに広がっていくのだった。




