第4期 第3話 受け継がれる音
「NEXT RISE FESTIVAL EXTRA」が始まって一か月。
ユウキは全国各地のライブハウスを巡り、新人アーティストたちの演奏を見て回っていた。
「社長、次は名古屋公演です。」
スタッフがスケジュール表を差し出す。
「出演者は四組。そのうち二組は高校生バンドですね。」
「ありがとう。」
ユウキは資料を受け取り、静かに目を通した。
「今回も、一人でも多くの人にステージへ立つ楽しさを感じてもらいたい。」
その言葉に、スタッフも力強く頷いた。
◇
数日後。
会場となるライブハウスでは、リハーサルが始まっていた。
Luminous Fiveはゲスト出演として最後に演奏する予定だ。
「皆さん、お久しぶりです!」
新人バンドのメンバーが緊張しながら挨拶をする。
「よろしくお願いします!」
アヤネが笑顔で応えた。
「今日は一緒に楽しもうね。」
その一言だけで、新人たちの表情が少し柔らかくなる。
◇
リハーサルを見学していたイノリは、一人のベース担当の少女が何度も同じフレーズを練習している姿に気づいた。
「大丈夫?」
声をかけると、少女は慌てて頭を下げた。
「すみません……。」
「本番になると緊張してしまって。」
イノリは優しく微笑む。
「私も最初はそうだったよ。」
「本当ですか?」
「うん。」
イノリはベースを受け取り、ゆっくりと同じフレーズを弾いてみせる。
「難しいところほど、力を入れすぎないほうが弾きやすいこともあるよ。」
少女は真剣に頷いた。
「ありがとうございます!」
◇
夕方。
イベントが始まる。
新人バンドが次々とステージへ立ち、それぞれの音楽を届けていく。
失敗もある。
緊張もある。
それでも客席からは温かな拍手が送られていた。
舞台袖で見守るユウキは、小さく笑みを浮かべる。
「こういう景色を作りたかったんだ。」
音楽の技術だけではない。
挑戦する勇気そのものを応援できる場所。
それが、このプロジェクトの目的だった。
◇
そして、Luminous Fiveのステージ。
「こんばんは!」
アヤネの声とともに歓声が上がる。
会場の空気は一気に熱を帯びた。
全国ツアーや大型フェスを経験した五人の演奏には、以前よりも落ち着きと自信があった。
それでも、ライブハウス特有の近い距離感を大切にしながら、一人ひとりの表情を見て演奏していく。
最後の曲が終わると、大きな拍手が響いた。
◇
終演後。
新人バンドのベース担当の少女がイノリのもとへ駆け寄ってきた。
「さっき教えていただいたことを意識したら、落ち着いて演奏できました!」
「それは良かった。」
イノリは嬉しそうに微笑む。
「ありがとうございました!」
少女は深く頭を下げた。
その様子を少し離れた場所から見ていたユウキも、自然と笑顔になる。
◇
帰り道。
夜風が心地よく吹く中、ユウキとイノリは駅へ向かって歩いていた。
「今日は、教える立場の難しさも少し分かりました。」
イノリが静かに話し始める。
「うまく伝えられるか不安でした。」
「でも、ちゃんと伝わっていたよ。」
ユウキは穏やかに答えた。
「経験は、自分のためだけじゃなく、誰かの力にもなる。」
イノリはゆっくり頷いた。
「そうですね。」
少し空を見上げ、柔らかく笑う。
「私も、昔の自分にしてほしかったことを、少しだけ返せた気がします。」
ライブハウスの灯りが、夜の街に静かに輝いていた。
夢は、一人で叶えるものではない。
誰かから受け取った想いを、また次の誰かへつないでいく。
その輪は、これからも少しずつ広がっていくのだった。




