黒炎の挟撃②
ダークエルフのアーチャー
そうだ
自分が現世で最も使っていたユニットはあの子だった
精霊と交信し、異次元へ通じる空間を生成し、そこから彼方の場所へ射撃を通す異能の持ち主。こちら側の戦場を飛び越えて果ての側を射抜く、あまりにも理不尽で、だからこそ最高に頼れる相棒だった。
あの子に、どれだけ助けられたか。
ネクロスが分裂するのは、あくまで戦闘フィールドで本体が攻撃された時のみの仕様だったはずだ。つまり次元を超えて直接攻撃を入れられるのあれば、それはネクロス使いにとって最悪の事態となる。
もちろんArgonもその弱点は知っていたから、プレーヤースキルの闇魔術で次元封鎖を試みてきたこともある。だが富士宮のエースだったあのダークエルフは、精霊との交信能力が世界最高クラスまで到達する逸材であり、何度もその封鎖を突破していた。
そうだ
Argonが試合後のチャットで愚痴ってたじゃないか
「君との戦いは本当に苦手なんだ」って
あれ、普通に嬉しかった
そこで富士宮は、ふと奇妙な違和感を覚える。
何でこんな大事なこと、今まで忘れていた?
ネクロス相手の対策として、真っ先に思い出してもいい話だ
なのに、ついさっきまで頭の中に影も形もなかった
しかも――
そのダークエルフのことをはっきり思い出そうとした瞬間、頭の中に濃い真っ白な靄がかかった。
彼女の名前が思い出せない。顔も髪の色も、声や細かな癖も、思考が伸びて届きかけるたび、急に目の前が真っ白に塗りつぶされる。
何だこれ
富士宮は心底、ぞっとした。
転生前の最後の心理検査の情景は覚えている。あの白い部屋も、検査用紙の真新しい紙の匂いも、双子の男の子の質問への回答も。多少曖昧ではあっても、記憶として残っているのに。なのに、あのダークエルフのことだけが異様に曖昧だ。
でもあの子に対する感情だけははっきりと覚えている。あの子はとても、とても良い子だった。そこだけはなぜかはっきりしていた。
富士宮の思考がそこまで至った、その瞬間だった。
ネクロス二体が同時に動く。片方が右前方へ、そしてもう片方が左前方へ。富士宮とナビルの斜め前左右へ、それぞれ位置取りをしたのだ。
まずい
富士宮は即座に理解した。右と左で互いの射線は重ならないのに、こちらの回避先は制限される。この配置から想定される攻撃は二方向からの最大出力によるダークネスフレアだ。
ナビルも攻撃を察して前へ出ようとするが、もう遅い。片方へ射撃を集中すれば、もう片方の黒炎が富士宮たちを飲み込むだろう。左右同時に捌くにはとても手数が足りない。
くそ、間に合わない
どうする
今ここで――
次の瞬間、富士宮の視界は黒い炎の壁に包まれた。




