黒炎の挟撃①
2体のネクロスは、まるで同じ思考を共有しているかのように同じタイミングで、広間の左右へ高速で散っていく。片方が高い位置を取れば、もう片方は低い位置へ流れるといったように配置についての思考まで共有しているようだ。殺意を叩きつけてくるタイプの敵ではないくせに、その完成度の高さは本当に嫌らしい。
富士宮は、その動きを《タナトス》で追うだけで精一杯になる。さすがに2体同時の追尾は富士宮の動体視力であっても至難の業だ。
再び本体の腕が現れる瞬間を狙えるかもしれない。だが問題は、その時が攻撃していいタイミングかどうかがわからないことだ。
現世のArgonとの戦いなら、プレーヤーとしての感覚で読めることもなくはなかった。
でも今相手にしているのは、感情のないネクロスだ。無機質な挙動からは何も読み取れない。
厄介だ、とそう思った時、ナビルが富士宮の前へ歩み出た。
白い線で描かれたその輪郭が、まるで盾みたいに富士宮を庇う。ダークネスフレアの熱線が広間を走るたび、ナビルは少しずつ位置をずらしながら銃を撃ち返していた。牽制にしかなっていないが、それでも止めない。止めれば、富士宮へ火炎が直撃するからだ。
黒い炎が壁を舐め、石床が焦げる。熱線の一部がナビルの肩口を掠め、服と皮膚を焼いた。
ナビルの動きがほんの少しだけ鈍るがすぐに持ち直し、また牽制の銃撃を撃つ。
富士宮は思わず声をかけていた。
「ナビル、大丈夫ですか」
ナビルは視線をネクロスから外さずに応じる。
「問題ありません」
その返答は短いが、富士宮には問題がないわけがないのがわかっている。ダークネスフレアの熱量は、少しずつだが確実に彼を削っている。今はまだ軽傷に見えても、このまま2体の射線を受け続ければ持たない。
「無理はしないでくださいね」
富士宮がそう言うと、ナビルはその場に立ったまま、ほんの一瞬だけ目をこちらへ向けた。強い意志の宿った目だった。
「聖女様をお守りするのが、僕の使命です」
富士宮の内心が、一瞬だけ完全に戦闘からズレた。
かっこいいんですけど
こっちはネクロス2体相手で頭フル回転してるのに
でも無理
普通にかっこいい
富士宮は自分の思考に悶えながら、無理やり戦術へ意識を戻す。
そうだ、悶えてる場合じゃない
ナビルが削られてる
この人の役に立つ知識を、何でもいいから引っ張り出せ
前世で何を使ってネクロスを倒してた?
思い出せ。
出てこい、廃人知識
その時だった。
富士宮の脳裏に、唐突にひとつの像が浮かんだ。




