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支援職の怪物②

 ネクロスのローブの裾がふわりと揺れ、ダークネスフレアの火線が新たに2つ生まれる。射線上の破壊された柱の残骸を見ても、先ほどよりも黒炎の威力はわずかに落ちていることがわかる。


 新たな火線を軽やかな身のこなしで避けながら、富士宮は目だけでナビルへ合図を送った。


 ナビルは一瞬だけ富士宮を見て、次の瞬間には意味を理解したらしく、銃口を水平ではなくわずかに交差する角度へ構え直す。


 ナビルの得意とする両手撃ちのスキル《クロスファイア》が唸りをあげる。乾いた銃声が続けざまに鳴り、ナビルが連続で銃撃スキルを発動させ続ける。


 左右へ散った射線が、ネクロスの回避先を潰しながら徐々に中心へと収束していく。単純な連射ではなく、知性を活かして逃げ道を塞ぐように組まれた射撃だ。ネクロスのような異様な反応速度を持つ相手でも、少しでも移動速度が鈍った瞬間なら十分に蜂の巣にすることが可能だ。


 ネクロスの動きがわずかに遅れたところへ、連続した弾丸がローブへと次々に沈み込んでいった。


 物理攻撃に高い耐性を持つネクロスであっても、傷が浅くはない感触を確かに感じる。直後、ネクロスの動きが明らかに遅くなった。


 ようやく通った


 富士宮は内心で短く息をつき、一気にとどめを刺しに行く覚悟を決めた。


「ナビル」


 富士宮は静かに呼ぶ。


「もう少しだけ、あのアンデッドの注意を引いてください。私は一度、姿を消します」


 ナビルは反射的に頷きかけ、だがその途中で少しだけ動きを止めた。


「聖女様……また、あれをされるのですか」


 言葉を選んでいるのがよく分かる問いだった。ロイヤルナイト戦の時、ナビルは一度タナトスを見ている。富士宮が常人ではあり得ないレベルで気配を消し、魔法使いとエルフを瞬殺したあの瞬間を、彼は確かに見ていたのだ。だが、その後も深く聞いてこようとはしてこなかった。


 富士宮は、そういうナビルの節度をかなり好ましく思っていたし、信頼できるとも思っていた。だから富士宮は、声音を少しだけ和らげて返すことにした。


「ご心配には及びません。少し疲れるだけです」


 ロイヤルナイト戦では明らかにやりすぎた。ロイヤルナイトに斬りつけた直後に息が激しく乱れ、神経が焼けるような痛みに襲われた。あげくにロイヤルナイトの反撃をくらってしまうという失態を演じてしまったのだ。だが今はタナトスがより身体へ馴染み始めているから、短時間ならコントロールできるという感覚がある。


 ナビルは、まだ何か言いたそうだったけれど、結局それ以上は尋ねようとしなかった。


「……承知しました」


 それだけ言って、彼は銃を構え直した。富士宮はそんな彼の横顔を見ながら、心の中で少しだけ微笑む。


 やっぱり良い子ね、ナビルは

 無駄に多くを聞こうとしないけど、何かあったらきっと助けてくれる


 前を見ると、ネクロスは《クロスファイア》のダメージを受けてもまだ健在だった。ローブの奥で闇が蠢き、腕とも鞭ともつかない闇色の何かが石床を這っている。恐らく次のダークネスフレアの準備か、闇の大鎌に切り替えての近接戦に移行する途中なのだろう。


 支援職のくせに、前線にも出られるアンデッド。普通なら厄介この上ない相手だ。


 だが富士宮は不思議と高揚しながら、ゆっくりと後ろへ下がる体勢に入った。


 崩れた柱の陰、割れた壁の影、吹き抜けの下へ落ちた黒い闇。玄関広間には、この身を深く深く沈める場所がいくらでもある。


 ナビルがネクロスの正面から《クロスファイア》の銃撃を続ける。ネクロスの意識は明らかにナビルに持って行かれているようだ。


 富士宮はその隙に、闇の中へ溶けるように足を運んだ。


 《タナトス》とは単なるスキルではない。富士宮の周囲から世界の輪郭を削ぎ落とし、生と死の境界へと深く沈み込むことを許す死の神の所業だ。


 視界が暗くなり、息が静かに浅くなる。だというのに、生物の鼓動だけがやけに鮮明に聞こえる。


 富士宮はそうやって、ゆっくりと玄関広間の闇の底へと沈んでいった。


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