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支援職の怪物

 廃城の玄関広間は、かつてこの地を支配していた領主の威光を示すための空間だったのだろう。


 高い天井の下で左右へ伸びる大階段と割れ砕けた石柱の列は、半ば崩れながらもなお豪奢さの残滓を感じさせる。だが今はそのすべてが死んだような静けさと霧混じりの冷気に覆われていた。吹き抜けの上部から射し込む月光は闇を払うどころか、むしろ濃い影を増やしている。


 その中心で、富士宮とナビルに相対するネクロスがゆっくりとローブの裾を揺らした。息を呑むような間が空いた次の瞬間、玄関広間の空間が黒く熱く染まる。


 ネクロスの前方に幾つもの闇色の火線が生まれ、それらがまるで生きているような軌道で弧を描きながら富士宮ひとみとナビルへ襲いかかった。闇魔術系統――ダークネスフレア。ただの黒い炎ではなく、呪詛や暗闇といったデバフ効果を併せ持つ、実に性格の悪い魔術だ。


 ナビルは反射的に富士宮を庇う位置へと前に出ると同時に銃を抜き、短く二発、三発と撃ち返した。銃声が玄関広間へ鋭く響く。


 その精密射撃は見事で、銃弾はダークネスフレアの切れ目を縫うようにして、ネクロスのローブの暗がりに吸い込まれていった。だが、ナビルはあくまで物理攻撃型だ。彼の射撃はネクロス本体への牽制にはなるが、こちらへ飛来してくるダークフレアそのものを止めることはできない。結果、ナビルと富士宮はダークネスフレアの火線を何とか避けながら、ネクロスに一撃を入れる隙を窺う戦法を取らざるを得なかった。


 富士宮もまた、魔術へ正面から対抗するスキルを持たない。だから現状はどうしてもじりじりと押される形になることは覚悟していた。


 富士宮は表面上は冷静さを崩さずにナビルに話しかける。


「ナビル、無理に押し込まなくて結構です。牽制を優先してください」


「承知しました」


 ナビルは短く返し、再び銃口をネクロスに向けて素早く銃弾を撃ち込んだ。正確な射撃はネクロスのローブに吸い込まれていくが、相変わらず影がわずかに揺らぐだけだ。ダメージを与えている様子はないが、それも富士宮には想定の範囲内だった。


 前世の知識があるからだ。ここから先のネクロス攻略法も一定の道筋が見えている。


 ネクロスの魔法攻撃は、基本的に序盤が一番火力が高い。これはルナアリスのプレーヤーだった頃、Argonに嫌というほど見せつけられた挙動だった。初動で火線をばら撒いて広範囲に圧力をかけ、一気に戦場の主導権を握る。そのまま押し切れるなら最高だが、押し切れなくても前へ出て、召喚した大鎌を振り回す近接攻撃で刈ってくる。つまりネクロスは立ち上がり数ターンの火力が異様に高いのだ。


 逆に言えば、一体しかいない場合はそこさえ凌げばネクロスの隙をつくチャンスが生まれる。


 これが複数のネクロスなら話は変わってしまう。闇魔術の多重爆撃に遭ってしまうからだ。だが一体だけなら、耐えて、避けて、初動のピークをやり過ごし、分裂させないように細心の注意を払いながら反撃の機会を待つ。それが対ネクロス戦の基本中の基本だった。


 富士宮は、広間を走る黒炎の帯を冷静に見ていた。


 まだ苛烈だけど、これからほんの少しずつ弱くなっていくはず

 何せ広く火線を撒き散らすのは消耗が激しいから

 今はまだ我慢 

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