支援職ネクロスその2
ネクロスが8体になることにより、そのコスト低減効果も8になる。するとタルタロスのコストが一気に1まで落ちるのだ。
その結果、絶対に溶けない壁であるタルタロスがレギオン前衛に立ち塞がり、敵は前線を崩すことがほぼ不可能になる。そのくせ、ネクロスが背後から高火力闇魔術を8体で乱射してきやがる。遠距離攻撃でちまちま倒そうとして徐々に削っていっても、誰か一体がやられそうになると8体合体技で最大火力のカウンターをぶっ放してくる始末。
そこまで進化したArgonの手札と正面から相対することのできるプレーヤーは、本当にごくわずかしかいなかった。富士宮も何度かは逆転した記憶があるが、それは相手のミスに乗じたか、よほど相性の良い個体を揃えられた場合に限られた。
ここだけ聞くと最強チートっぽいのだが、実はネクロスの分裂がそう簡単ではないため、扱えるプレーヤーが極めて少なかった。ネクロスが分裂しようとするターンで敵が攻撃行動を一切取らなかった場合、分裂は失敗するという仕様があったのだ。しかも一度分裂に失敗してしまうと、次の分裂まで3ターンのクールタイムが発生してしまう。つまり相手からすれば、攻撃しないという選択肢を取ることで最悪の展開を先送りにし、タルタロス召喚の前に決着を付けてしまうこともできた。
だがArgonの本当の恐ろしさは、その読み合いが圧倒的に強いことだった。
分裂するだろうと考えてこちらがバフや回復行動だけしか取らないターンでは、死霊系統お得意の状態異常攻撃を広範囲に撒き散らして戦線を混乱させてくる。分裂しないだろうと読んで攻撃したら、待ってましたとばかりに分裂してくる。しかも分裂成功時にこちらの攻撃が無効になるという鬼仕様。その二択を一度当てるだけでも大変なのに、それを3回も成功させるのだ。
Argonが2択を一度も外さずにタルタロスの召喚を食らった時の絶望ときたら、筆舌に尽くしがたい。
富士宮は城壁の陰に身を伏せながら、生前最後の対Argon戦を思い出していた。
自分はダークエルフのアーチャーを軸にした編成を組んでいた。そのアーチャーは心眼によるスキル命中率の上昇が強みのユニットで、アンデッド軍団の緩やかな進軍を次々と射抜いたかと思うと、獣人・亜人部隊を側面から支援するために高速移動し、そこでも矢の雨を降らせていた。序盤から中盤まではかなりいい流れで、アンデッドが続々と駆逐されていき、富士宮陣営にルナ因子が徐々に溜められていった。Argon相手にここまで一方的に蹂躙できるのも珍しかった。
だがネクロスが配置された最後尾のレギオンだけはどう足掻いても崩せなかった。その上で心眼によるスキル命中確率上昇すら潜り抜け、最終的には分裂を3回も通されてしまった。
その後、瞬く間に獣人・亜人部隊が崩壊した。鉄壁のタルタロスの背後からダークネスフレアの雨が降り注ぎ、戦況は一気に決した。もはやダークエルフ単体で覆せるような状況ではなくなったのだ。
対戦後にArgonと少しだけチャットしたことをぼんやりと思い出す。Argonはインドの大学生で生物学を専攻していると言っていた。これからさらに学業が忙しくなるのでもう引退しようかな、と英語でメッセージを送ってきていた。その軽い文面とあのエグい構成とがあまりにも噛み合わなくて、ほんの少しだけ印象に残っている。
富士宮は意識を廃城への戻した。廃城の中庭では、有翼人と黒ローブ姿のネクロスがなおも激しくぶつかり合っている。
優良個体とSSR級アンデッドが目の前にいるというのに、ただ指を咥えて見ているわけにはいかない。ここで介入し、できれば強個体をゲットしつつ、なぜネクロスがここにいるかも確認したい。富士宮は、真っ暗な影の中で静かに息を整え、そして低くつぶやいた。
「それでは、参りましょうか」
その言葉に三人がそれぞれ反応する。ナビルは真剣な様子で短く頷き、アントニオは不満そうな顔のまま誰よりも前に出ようと動き出し、ラウルはまるで散歩へ出るみたいな自然な顔で笑っている。そして富士宮は、彼らの影へ溶け込むように身を動かした。
さあ、優良個体確保チャンスのサブクエストを開始する。




