夜戦種族とセブンスの影
ラウルに先導され、富士宮一行は林を抜けて廃城の外縁へと回り込むルートを歩いていた。
城は村の者が言っていたとおり、もう何百年も前に打ち捨てられているらしく、外壁のあちこちが崩れていた。月は出ているものの、霧が薄く立ち込めているために石組みの輪郭がぼやけ、遠目にはまるで城そのものが眠ったまま腐りかけているように見えた。
ラウルが見つけた侵入口は、外壁の一角が大きく崩れた場所だった。そこから内側へ入ると、昔は物見の兵が使っていたのだろう細い通路が、外壁沿いにぐるりと巡っている。足場は悪いが、人が通れないほどではない。その通路を進めば、やがて中庭を見下ろせる城壁の上へ出ることができた。
途中から、はっきりと戦闘音が聞こえてきた。
金属がぶつかる高い音に、石を蹴って移動する音。その中に何かがしなるような風切り音や短く鋭い破裂音めいたものも混じる。
城壁の影へ身を伏せ、富士宮たちはそっと中庭を見下ろした。
月明かりは差しているが、荒れた廃城の中庭は影が濃く、戦っている影の輪郭も途切れ途切れにしか見ることができない。
三人の中では最も夜目の効くナビルが目を凝らしながら呟く。
「……片方は、ずいぶん立体的な戦い方ですね」
それにアントニオが続ける。こちらは音や空気といった情報から動物的な勘で戦況を把握しているのだろう。
「壁を蹴って飛んでいる、いや……本当に飛んでるのか、あれ?」
ラウルが月明かりの中で目を細め、二人の分析を肯定するように小さく頷く。
「ええ、確かに飛行しているようですね。もう片方は……両手で伸縮性のある武器を使っている、のでしょうか? 鞭か? いやしかしこれは、もっと平面的な形のようにも……」
一方、富士宮にははっきり見えていた。
《タナトス》の効果により、視界の中で生物の輪郭や殺気、気配といったものが白い線で象られて浮かび上がり、それ以外の事象は黒の海へと沈んでいく。世界の風景が削ぎ落とされ、生きている者=殺害の対象になり得る者の姿だけが鮮明になるのだ。
その黒い視界の中で、中庭で激しくぶつかり合う二つの白い輪郭が見えていた。
一つは有翼人の姿、もう一つは黒いローブを纏った人型だ。
有翼人は短槍とショートボウの武装を使用しており、暗闇の中でも一切迷いなく動いていた。壁や柱を蹴って立体的に動きながら、短槍で鋭い突きを入れ、ローブの人型が離れればショートボウで正確無比な射撃を放つ。夜そのものへ身体を溶かし込んだような戦い方だ。
富士宮は即座に鑑定する。
氏名:ヴァルター・クロウ
種族名:レイブンフォーク
内心で富士宮の中の廃人ゲーマーが大歓声を上げる。
レイブンフォーク!!マジで!?
私の最終レギオンにも組み込んだことあるやつじゃん!!
運用むずいし、昼だと露骨に微妙になるし、専用ルート入れないと中途半端なんだけど、育成し切ったらトップ張れる種族!!
さらにヴァルターのスキル表示を見た瞬間、富士宮のテンションがもう一段上がる。
ジョブ:《呪槍番人》
ジョブランク:SR
ユニークスキル:《モリオン・フェザー》
黒羽を散らして敵の動きを妨害し、味方の位置を撹乱することを主目的としたスキルだ。これだけ見るとデバフが得意な夜戦ユニットで終わりそうだが、このユニークスキルを持っている個体は、あるルートを通れば一気に最上位のアタッカーに化けることを富士宮は知っていた。
富士宮は興奮を押し殺しながら、次に黒ローブの人型へと鑑定眼を向けた。そこで富士宮は、レイブンフォークを発見したのとは全く別種の衝撃を受けることになる。
その人型はヴァルターよりも輪郭が見えづらかった。アンデッドだからなのか、《タナトス》の視界でも線が不安定で存在がぶれて見える。種族名が表示されたのを見た瞬間、富士宮の思考は一瞬止まった。
種族名:【ネクロス】
前世で富士宮やルイと共に【セブンス】と称された、世界トップランカー常連の5人のプレーヤー。その一人にして【死霊使い】の二つ名を持つプレイヤー【Argon】のメイン戦力であった、レア度SSRのアンデッドの種族名がそこにあった。




