廃城へ向かう道とスキルの確認
廃城へ向かうと決めた後、富士宮ひとみたちは街道を少し外れた林の中で馬車を止め、短い休憩を取ることにした。
村を出た時点ですでに太陽はかなり傾いており、今から廃城に向かえば夜間の戦いになることは明白だった。夜の廃墟に踏み込む前に、最低限の準備だけは整えておくべきだという判断をしたのだ。
馬車を木立の陰へ寄せ、ラウルが周囲の地形と廃城への経路を確認しに先行する。商人なのに《ヘルメス》の効果によってその辺の密偵よりもはるかに優れた隠密行動を取れるラウルは、音もなく暗い林の中へと消えていった。
ラウルが帰ってくるまでの間、ナビルとアントニオはそれぞれの作業へ取りかかっていた。
この二週間の旅路の中で、二人は新たな初級ジョブを着実に育てていた。どちらもジョブランクをCまで上げており、複数の初級スキルを取得している。
アントニオは、いかにも面白くなさそうな顔のまま、薬師の初級スキルを使って薬の精製をしていた。薬草をすり潰して薬液を抽出し、それを火にかけて煮沸させた後に適度に冷ました上で少量ずつ瓶へ移すという作業を行っている。手つき自体は意外と器用な部類に入るだろう。筋のいい剣士というのは、指先の精度やよいものなのかもしれない。
現在作っているのは《ヒールポーション》と《リカバリーエッセンス》、それから《アンチドートドロップ》の簡易版らしい。旅の途中で何度も繰り返したせいか、初期の頃より手順がずいぶん安定している。
ただし、本人の機嫌は最悪で、見るからに不満たらたらだ。富士宮はその様子を少し離れたところから眺め、口元へ柔らかく笑みを浮かべた。
「アントニオ、随分と手際がよくなりましたね」
「……嬉しくねえな、その褒め方」
「そうですか?私は素直に感心しておりますが」
「俺は感心されたくて薬を煮てるわけじゃねえんだよ」
その反応、かわいいじゃない、と言ったら多分本気で怒るので口には出さないが、富士宮の内心は少しだけ和んでいた。
一方、ナビルは馬車の後ろで備品確認をしていた。アントニオと違い、ナビルの《家令》のスキルはとても板についていた。旅の持ち物を手際よく整理し、《インベントリーキープ》で補給物資や消耗品の残量を正確に把握し、《ウェアリダクション》で武装や革具の摩耗を手際よく点検していく。
その他の初級スキルも、料理の腕前が向上する《クッキングハンド》、掃除と洗濯の効率を上げる《クリーニングタッチ》、《ランドリーケア》と言ったように、地味に有用な生活技能を身につけるものだった。
富士宮はそれを見ながら思う。
うん、やっぱり正解
《神々の執事》ルートに行くのなら、こういった基本スキルからコツコツ獲得していかないと
ナビル、ほんと順当に育ってるわね
そこへ斥候へ出ていたラウルが戻ってきた。音をほとんどさせず、林の暗がりからスッと現れる様子が、まるで最初からずっとそこにいたかのように錯覚させるほどだ。
改めて、《ヘルメス》の密偵系統効果はどう考えてもやばすぎる。あれをついでみたいな顔で使われると、本職の密偵が泣くと思う。
「戻りました」
ラウルは涼しい顔で言う。
「廃城の中で、激しい戦闘音がしています」
ナビルが眉を上げた。
「A級冒険者は敗れたと聞いていたのに、戦いが起こっているのですか?」
「ええ、どうやら生き残りがいたようですね。正門から入るとすぐに気づかれそうなので、外壁から回り込んで安全に中を見られそうなルートを探しておきました。」
その報告は簡潔で無駄がない。しかもやって欲しいことを確実にこなしてくれている。
うーん、やっぱり優秀
《ヘルメス》、想像以上に狂ってるわね
移動バフだけでも十分チートなのに、密偵系統をこんなナチュラルに混ぜるの反則でしょ
「では、そのルートを使いましょう」
富士宮がそう言うと、三人ともすぐに準備を整えた。




