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指先より、執政官ルキウス・カッシーニへ

 黒髪の聖女富士宮ひとみ、およびその従者アントニオ・カッシーニ、ナビル・ユーラッハ、ラウル・ヴァレンテの四名(以下、「本件対象者ら」という。)についてのレポート


 本件対象者らは、カッシーニ領内で一定期間の保護を完了した後、本日早朝、南方魔王領北部の大都市デミトリスへ向けて出立した。輸送経路上の危険要素については事前にほぼ調査済みであり、現時点において具体的な障害の発生する見込みは乏しい。ただしアウロラ村周辺の遺跡群については指示通り調査を保留しているため、同箇所のルナ因子活性化の有無は判断できない。


 以下、保護期間中の各人の所見を述べる。


1 富士宮ひとみ


 当初の印象より適応能力が高く、不知の環境へ放り込まれた場合でも短期間で人間関係を構築し、周辺の潜在戦力を発見・評価・再定義する性質を確認した。これは単なる対人技能に留まるものではなく、個体の価値を発見することへ極端に特化した資質に由来するものと推定される。

 本人は穏当な言動を心がけているようだが、判断速度と危機対応能力が非常に高いことが見て取れる。特に、敵対関係が疑われる相手であっても転用可能資源として見る傾向が強い。指先に対しても婉曲的な誘いがあったほどである。この性質は短期的には有益である一方、中長期的には秩序を破壊する危険性を秘めていると評価できる。


 また王国から追放されたにもかかわらず、王国への執着を完全には捨てていない。名誉回復を視野に入れつつ、しかし現状においては王国外の勢力圏――特に魔族穏健派、多人種都市圏など――を利用した再起を現実的選択肢として認識し始めている。これは注視すべき変化である。王国へ戻るための戦力獲得に留まるならば問題は局地的だが、聖女たる身分を利用して王国外で独自の政治的正当性を獲得し始めた場合、既存秩序に対する脅威は急激に看過できない程度に至ると予想される。


 単独戦闘における脅威水準は限定的であっても、周辺個体の潜在値を見抜き、適切な環境へ置き、短期間で組織化する手腕は卓越している。上記までの検討と合わせ、従来の王国と共和国間のストレスライン管理に対するリスク要因であることは間違いなく、その脅威度は少なく見積もってもA+と評価する。


2 アントニオ・カッシーニ


 本個体は失敗作として既に処分済みとしていたが、今回の保護期間における観測により、指先の判断は修正が必要であると認める。


 幼少期より武の才は確認されていたものの、情動制御に難があり、カッシーニ家の機密保持および秩序維持の観点から運用不適格と判断されていた。現時点でも粗暴性と短絡性は残存しているが、富士宮ひとみの介入以後、その暴力性が収束し始めていることが確認できた。


 現段階で直ちに回収対象とする必要性までは認めない。だが再観測対象としては十分に価値がある。特に、今後富士宮ひとみの影響下で精神面および知力面の伸長が継続した場合、単独武力として予想以上の脅威となる可能性がある。


 なお、当該個体が家族的情動により再帰的にカッシーニ家へ吸収される可能性は低い。現在の成長は家への回帰ではなく、外部主君への忠誠に依存している。総じて執政行動に対するリスクはB−と評価する。


3 ナビル・ユーラッハ


 本個体は戦闘偏重の育成方針から外れた場合にも高い適応を見せていた。現在、富士宮ひとみの判断により《家令》系統へジョブチェンジを実施済みである。これは最終到達候補と推定される上位非戦闘系ジョブに向けた布石と見られる。


 本個体の危険性は単なる二丁拳銃の射手ではなく、後衛のスキルを横断的かつ広範囲に獲得し得る点にある。富士宮が将来的に政治行動を取る際に、陣営全体の安定をもたらす人材となることにより、執政行動に対する危険度が上昇する見込みである。もっとも、カッシーニ家と縁戚関係を築かせることによりその影響力を限定する布石は打ってあるし、最悪の場合は処理もそれほど困難とは思えない。総じて執政行動に対するリスクはC−と評価する。


4 ラウル・ヴァレンテ


 最重要観測対象個体と評価する。父ゴンサロが高い実務能力を持つことは周知の事実だが、ラウルはそれを別次元で超過する潜在性能を有している。表向きには下級商人職に留まり目立つ昇格を避けていたが、これは能力不足ではなく意図的抑制である可能性が高い。

 また、富士宮ひとみと合流した後の行為選択を総合すると、当該個体は自己の異常性を既に自覚していたと考えられる。恐らくは複数の系統にまたがる複合的異能を保有している。富士宮ひとみがそれを看破したことにより、今後は外部に対して異能が影響を及ぼしていくことになると容易に想像できるが、その具体的機序はいまだ判然としない。よって、観測対象としては最上位の優先性を持つ個体である。


 もしラウル・ヴァレンテが流通・情報・移動に介入できる異能を開花させるのであれば、王国と共和国の既存の監視網や補給線を回避しつつ、自律勢力圏を構築できる可能性すらある。以上を踏まえ、その危険性に鑑みて、富士宮ひとみと行動を共にし続けることを前提としたリスクはSS+と評価する。ただし単独行動を取る際には異能を抑制する可能性が高いため、富士宮ひとみが存在しない条件下では高くてもC+となる。


 以上の観測結果を踏まえると、富士宮ひとみの存在がアントニオ・カッシーニの成長とラウル・ヴァレンテの異能を刺激・促進させている。さらに富士宮ひとみが魔王領側で影響力を過度に獲得した場合、王国秩序に対する脅威はもはや看過できなくなる。


 特に留意すべきは南方魔王領が人類諸国と異なり、中枢の統制下にないことである。そこでは既存の国家間均衡や宗教的正統性とは別の論理で勢力が成長しうる。ゆえに当該領域は構造的に秩序への最大脅威であり、そこへ富士宮ひとみが適応し始めること自体が危険兆候と見なされるべきである。


 もし当該対象がデミトリスで地盤を築き、さらに南方魔王領中心部と接触した場合、王国単独では対処困難となる可能性がある。その場合、共和国側執政担当者へ非公式接触を行い、ルイ・ムラサメの再投入を願い出る必要が生じる。現状、ルイ・ムラサメ以外で富士宮ひとみの展開速度に対応できる召喚者は存在しないからである。


 富士宮ひとみは確かに現時点では排除対象ではないと思料するが、上記した懸念が一つでも現実化した場合には即刻従者ごと排除すべきである。僭越ながら、今回の執政官の判断には直ちに賛同することはできない。アウロラ村遺跡群に残る召喚者の残滓と接触する可能性は潰すべきであったし、時期尚早と評価されようが保護期間中の排除も検討すべきであった。もし本レポートに記載したリスクが悉く生じるのであれば、富士宮ひとみ一行の抱える秩序に対するリスクはExまで跳ね上がるというのが私見である。本意見はぜひとも赤の玉座まであげていただくよう上申する次第である。


 以上


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