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思いがけぬ味方

 現れた一団が王国騎士団ではないのは一目で分かった。


 装備は上質で武装もきちんとしているが、騎士団特有の画一性がない。貴族の私兵と言えばそれまでだが、単なる私兵にしては全員の動きが洗練されすぎていた。十数名が馬から降りて周囲の水際や葦の死角、土手の上に散開し、自然な動きで制圧陣形を作っていく。


 一団から四人の人物が前に進み出てきた。


 最初に目を引くのは先頭を歩く中年の男だ。背が高く、灰を混ぜたような黒髪を後ろへ流し、無駄のない体つきをしている。見た目には派手さがないのに、ただ立っているだけで、その場の空気が引き締まるような圧があった。一見して相当な腕前の剣士であることがわかる。


 次に続くのは、落ち着いた顔立ちの四十代半ばほどに見える女性だ。アントニオと似た燃えるような赤毛を短く切り揃えている。柔らかな雰囲気をまとっているのに、立ち方や肩の構え方に隙がない。しかも視線が一瞬で三人の傷と状態を見切った気配を感じる。武の心得があり、さらに治療にも通じていることを富士宮は直感した。


 その少し後ろには、双剣を腰へ下げた若い女が立っていた。端正な顔立ちだが目が冷たく、明らかに富士宮たちを歓迎していない顔だ。そしてその隣では、背丈に見合わぬ大槌を肩へ担いだ少女がきょろきょろと辺りを見回していた。明るそう雰囲気の少女だが、大人でも持ち上げることが難しそうな大槌を軽々と扱っている時点でただ者ではない。


 四人は岸辺の惨状を見て、各々の認識で状況を理解したらしい。まず最初に声を上げたのは、大槌の少女だった。


「兄さま!?」


 そう叫び少女はアントニオに駆け寄ろうとして、双剣の女に腕を掴まれて転びそうになる。


「ルチア、先に周囲の確認が優先よ」


「でも兄さまが!」


「見れば分かるわ。死んではいないから、落ち着きなさい」


 冷たい言い方だったが、その声色にほんの少しだけ安堵が混じっているのを、タナトスがまだ発動中で感覚が鋭敏になっている状態の富士宮は聞き逃さなかった。


 中年の男は、地面へ転がるアントニオを一瞬だけ見た後、視線を富士宮とナビルへ移す。


「クラウディア、ルチア、事情は後だ。ベアトリーチェ、治療を」


「ええ」


 柔らかな雰囲気の赤毛の女性が即座に動く。彼女はまず富士宮の左脇腹を見るなり、さすがに顔色を変えた。


「このままでは危ないわ。先に彼女を集中的に治療します」


「……私は、いい……ナビルと、アントニオを……」


 富士宮が言いかけると、その女性――ベアトリーチェと呼ばれていた人物は、静かだが有無を言わせない声で返した。


「あなたもその二人も、全員危ないの。治療の順番は、私が決めます」


 その言い方に、富士宮は思わず口をつぐむ。


 一方、ナビルはまだ警戒を解いていなかった。ベアトリーチェが聖女に近づくのを見て、反射的に拳銃へ手を伸ばそうとする。普段の動作に比べてはるかに緩慢なその動きを見ながら、長身の中年の男が低く言う。


「撃てるならものなら撃ってみろ。今のお前にできるならな」


 単なる挑発ではなく、まるで淡々と事実を確認する学者のような口調だった。ナビルは歯を食いしばるが、結局拳銃も握れず、立ち上がることすらできない。


「……聖女様に、近づかないでください」


 それでも渾身の力を振り絞って、伝えたいことを何とか口にした。すると中年の男は、意外にも少しだけ眉を上げた。


「聖女、だと?」


 そこで双剣の女――クラウディアが露骨に顔をしかめる。


「最悪ね。こんな時に王家や教会絡みの厄介者を拾うの?」


「だからと言って、捨てておけとでも言うつもり?」


 ベアトリーチェが静かに返す。


「そこまでは言っていないわ。ただ厄介だと言っているだけ」


「厄介でも、生きている者を見捨てはしない」


 そのやり取りを聞きながら、富士宮の頭はようやく理解する。


 アントニオを兄と呼ぶ少女と、その家族のような一団

 メッシーナ領の近くにあるとされるアントニオの生家カッシーニ家


 なるほど、そういうこと


 そこでようやく、富士宮の意識が少し緩んだ。今までのやり取りを見る限り、この人たちは、少なくとも今ここで自分たちを敵へ売る気はない。


 その安心を実感して気が抜けたせいか、富士宮の視界が急にぼやけ始める。今ここで完全に意識を手放すのは、さすがにまずい。せめて彼らから最低限の情報を引き出してからでないと安心しきれない。


「……あなたたちは……」


 問いかけようとしたところで、ベアトリーチェが富士宮の頭をそっと撫でてきた。


「後でたくさんお話ししましょうね。今はとりあえず眠って」


 その声には母親のような奇妙な説得力があった。富士宮はもう少しだけ昏倒しようとする意識に抗おうとしたが、左脇腹の激痛と川水で奪われた体温と、ここ数日の精神的疲労が一気に襲いかかってくる。薄れていく意識の中で、彼女は最後に一つだけ確認した。


「……アントニオ、は……」


「生きているわ」


 ベアトリーチェが即答する。


「ユーラッハ族の男の子も無事よ。だから安心して」


 その言葉を最後に、富士宮の意識は深い闇へと沈んでいった。


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