十五層:呪いの黒騎士(中編)
黒騎士の猛攻によって、目の前で大切な個体たちが確実に擦り減っていく。イニゴの受けはまだ崩れないが、呼吸が苦しそうだ。ハリーも足を踏ん張り続けているが、盾越しの腕が震えている。アントニオは呪いを無視して無理やり動いているせいで消耗がひどい。ジョンも実戦経験はあっても、こういうタイプのボスへの対応は初めてだ。ナビルとアルバロは攻撃が通らないもどかしさを抱えたまま撃ち続け、エリーは回復と解呪の両立で余裕を失い始めている。
そこで富士宮は、本来はミノタウロス戦まで封じていたスキルを発動することにする。富士宮の《タナトス》Level2は、パッシブ効果で常に敵の急所や壊しやすい箇所が視覚的に見える。さらにスキル発動後のアクティブ効果により、高位の魔物や戦闘者であったとしても、その弱点が闇の中の光点として知覚できるようになるのだ。
富士宮は目を閉じて意識をすぅっと深く沈める。《タナトス》のいる闇の深淵の奥深くまで潜っていくかのような感覚。全身の触覚が鈍麻する代わりに、頭と知覚だけが無理矢理に超高速に引き伸ばされている。奥底までたどり着いたと感じたところで目を開けると、漆黒の闇で覆い尽くされた空間の中で、7体の人型が争っている。人型の外縁が白い太線で浮き上がって見え、その所々に真紅に光る点が見える。一際大きな人型に目を向けると、黒鎧を制御する3つの宝珠と、宝珠の間を流れるドス黒い魔力の循環が見えた。富士宮は瞬時に残りの6体へ向けた鋭い声を飛ばす。
「左肘を集中攻撃してください!そこに制御機構の一部があるので壊せば大きく弱体化します!次に腰部、最後に右胸です!」
声に、皆が反応する。富士宮はさらに続ける。
「ナビル、アルバロ、火力を一段階上げて構いません!無効化は霧と接触する面しかできませんから、火力を上げて攻撃を通してください!被弾増は許容します!今は削り切ることを優先してください!」
そこから、戦場の流れが変わった。イニゴが聖女の指示に従って最初に動く。正面からカースナイトの黒剣を受けようとせず、わずかに身体を左へずらし、敵の上半身の向きを誘導する。ハリーがその隙に真正面から盾を押し込み、敵の動きを阻害した。
続いてかかっていったアントニオは無理に大技を狙わない。左肘へ向けて刀を細かく走らせ、鎧の継ぎ目と霧の流れを読んで削る。ジョンもそれへ続き、蜻蛉切りの穂先をほとんどブレさせず、左腕の可動部へ集中して突き込んでいく。
追い討ちをかけるようにナビルの二丁拳銃が火を吹く。今までより明らかに連射密度を高めた射撃が左肘へ弾丸を集め、黒い装甲に火花が散り、そこから漏れる霧が少しずつ濃くなっていく。アルバロも【セブンスレイ】と属性混成の小規模砲撃を重ね、左肘一点へ魔力を放射していく。
エリーは負傷した前衛を支えながら、富士宮の指示へ即座に追従していた。解呪は最低限とし、今は完全回復より全員が立ち続けられることを優先する。削られたハリーの肩を癒やし、イニゴの腕の痺れを解呪し、直後にアントニオとジョンの脚部を回復する。
そんな中、局面を覆したのはジョンの新スキル【蜻蛉穿ち】だった。
イニゴが黒剣を受け流し、ハリーが盾をぶつけて動きを止めた、その一拍の隙。ジョンの槍が、ほとんど消えたように見えた。予備動作のない刺突が、左肘の継ぎ目へまっすぐ差し込まれる。次の瞬間、そこから黒い霧が爆ぜるように吹き出した。
「今です!」
富士宮の叫びと同時に、アントニオの斬撃がそこへ重なった。左腕の肘から先が切り落とされ、黒い霧が体内から一気に外に流れ出す。前衛はそれをできるだけかわしながら、腰部へ攻撃を切り替えようとした。
だが、敵もここから本気で抵抗してきた。黒霧を荒れ狂うように噴き上げ、前衛だけでなく後衛へまで呪いの霧を飛ばしてくる。ナビルが舌打ちしながら立ち位置を変え、アルバロも顔をしかめながら呪文の再詠唱を始めた。




