強キャラ加入イベント!?
教皇の間へ入った瞬間、富士宮はまず視線を細めた。
スティーナ・ブラックステニウスは相変わらず派手な女だった。
黒いとんがり帽子に黒の全身ローブとそこからこぼれ落ちるボリュームのある金髪、何よりローブ越しにもわかるグラマラスな体型。
あの勇者が好きそう、と二度目の邂逅ながら思わずにはいられなかった。だが、今の富士宮はスティーナの外見より、その中身の方に強く意識が向いている。
前回も強いとは思ったし、相変わらず理想的な後衛火力だという感想も変わらない。
しかし今の富士宮は、以前と違い《タナトス》がレベル2に至っている。だからこそ、前回は取りこぼしていたものが見える。
スティーナには、隙がほとんどない。
《タナトス》レベル2なら、人の殺しやすい部位や、気配の緩み、魔力の流れる癖がかなり鮮明に見える。なのに、スティーナは緩そうな顔をして、立ち方ひとつ取っても死角が薄い。気を抜いているように見えて、実際には全然抜いていない。
何より厄介なのは、その頭だ。ステータスだけでも最高峰の知力を持つ上に、直感系統で最高峰の精度を誇るユニークスキル『看破』を持っている。これらが噛み合って、ほとんど軍師みたいな戦略性能を持っていると言って差し支えない。
あの勇者パーティが、一応パーティとして成立していたのは、多分この女がいたからだ……
逆に言えば、スティーナが見切りつけた瞬間に崩壊したんだろうな
納得だわ
そして、その隣に立つもう一人。こちらもまた、別方向で目立っていた。
カディジャ・ショー、虎の獣人族の女戦士。
スティーナとは正反対だ。派手な色気ではなく、野性の圧で存在感を放っている。軽薄さは皆無、裂帛の気合いをそのまま人型へしたような雰囲気で、立っているだけで「歴戦の剣士です」と全身が語っていた。
富士宮が鑑定したところ、武力S、他も概ねB、ジョブはレア度Sランクのソードマスター、ジョブランクはカンストのSだった。わかりやすく強い。成長余地はほとんどないが、現時点で完成している。近接戦に特化した数十種類のスキルを持ち、そのどれもが無駄なく噛み合っている。
個人的には、こういう美しい構成は少し味気なく思う。もっと変なシナジーとか、変則ルートとか、そういうのが欲しくなるのがゲーマーの性だ。でも強いものは強い。
富士宮は、昔のことを少し思い出した。
こういう純粋火力極振りのプレイヤーに、接戦で負けた夜があった。
最終的には単純な火力なんだな、ってちょっと悔しくなって、でも「次はもっと複雑なビルドで鼻を明かしてやる」って誓ったんだよな。あいつ、それ以来ログインしてこなくなったけど。
……いや、今それを思い出す場面じゃないか。
教皇が、穏やかな笑顔で口を開く。
「さて、本日はどのようなご用件ですかな」
スティーナは柔らかく笑った。
「とても単純なお話ですわ。勇者もいなくなり、わたくしたちの身分も宙に浮いてしまいましたの。勇者を甘やかしていた王国は信用できませんし……よろしければ、教会で何かお仕事をいただけないかしら、と」
要するに、仕官希望だ。横を見ると、どうやら教皇はある程度予想していたらしく、前向きに考えている様子である。教皇が前向きになるのも当然だった。勇者なき今、この国で最高戦力に近い二人が、自分から教会へ来たのだ。断る理由がない。
でも、富士宮は迷った。スティーナが危険すぎる。
戦力としては喉から手が出るほど欲しい。しかも今、自分はアルバロをどう育てるかで困っている。魔法版イニゴが欲しいと、ついさっきまで本気で悩んでいた。
でも、スティーナの戦略眼と看破は、明らかに自分の活動の支障になる。異端審問局が動いている今、下手に暗殺するのも面倒だし、かといって近くへ置くのも怖い。
どう言う
どう言えばこの場が丸く収まる
富士宮がそこまで考えた時、スティーナが先に口を開いた。
「聖女様は、人材の保護と育成にご熱心だと伺っております」
富士宮の心臓が、ほんの少し跳ねた。
「よろしければ、魔術師の後進を指導する機会を、わたくしにいただけないでしょうか」
……は?
「こちらのカディジャも、護衛でも教官役でも、お役に立てることはあると思いますの。いかがかしら?」
富士宮は、そこで本気で唖然とした。
心を読まれたかと思った。だって今まさに、その問題で悩んでいたのだから。アルバロの魔法教育どうしよう、魔法版イニゴその辺に落ちてないかな、って思ってたところへ、本人の方から「後進育てましょうか?」と言ってきたのである。
タナトスはうるさい。
殺せ殺せ殺せ、危険だ、排除しろ、今ならまだ間に合う、この女は裏切り者だ、と叫び続けている。
でもそれを押しのけて、別の声が富士宮の頭を占め始める。
あれ?
これって
もしかして
敵対フラグじゃなくて、分岐に成功した結果の強キャラ加入イベントでは?
スティーナは、勇者を殺した可能性のある自分へ隔意を持っていると思っていた。カディジャだって、人間不信をこじらせてる顔をしている。なのに、二人とも今この場では、敵意を向けてこない。カディジャに至っては、自分を見る目が少し変だった。殺意でも軽蔑でもなく、どちらかと言えば、「珍しい動物だな」という目だ。
え、何この流れ
これ、ノーコストで強キャラ二枚抜きのボーナスチャンスでは?
富士宮は表面上こそ静かな聖女を保っていたが、内心ではだいぶ動転していた。
いや待て待て、そんな都合いいことある?
あるなら掴むけど、掴むに決まってますけど!
でも一回落ち着け、落ち着け私
ここで露骨に食いつくと危ない
スティーナとか、後で裏切りそうなフラグ立ってない?
いやでも、魔法版イニゴ問題が解決するんだけど?
カディジャも教官役と護衛で使えるし、どう考えてもお得なんだけど?
教皇が満足そうに目を細める横で、黒髪の聖女は、表面上の静けさとは裏腹に、ほとんどガチャ演出みたいな高揚を味わっていた。




