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地下診療所の再会①

 富士宮の指示が届くのとほぼ同時に、カイの指先へ集まっていた白い光が細く絞られ、人工庭園の芝生を一直線に駆け抜けた。


 収束した光線は、先頭で盾を構えていた骸甲兵の胸甲を焼き抜き、その背後にいた槍兵の胴体まで貫通すると、さらに後列の弓兵の肩を削って診療所の外壁へ突き刺さった。光が通過した直線上では、鎧と骨が熱に耐え切れず白く崩れ、その一瞬後を追うようにナビルの銃声が地下庭園へ響き渡った。


 銃弾はカイが穿った隊列の穴へ吸い込まれ、光線を避けようと身を傾けた弓兵の頭蓋を撃ち抜き、続く一発が槍兵の膝を砕く。単独であれば堅牢な盾の列に阻まれていた攻撃が、互いの作った隙を利用することで、敵陣の奥まで届いている。


 その突破口へ、ヴィヴィアンとアントニオが同時に踏み込んだ。


 ヴィヴィアンの聖剣が白い光を帯びて横薙ぎに振るわれると、左右から穴を塞ごうとした盾兵三体が、盾も鎧もろとも焼き切られる。開いた空間へアントニオが滑り込み、倒れかけた骸甲兵の首を切断しながら、横から突き出された槍を刀の峰で逸らし、その持ち主の手首と膝を続けざまに斬り払った。


 2人が正面を押し崩す一方、側面からは肉の残った熊型アンデッドが地響きを立てて突進してくる。前衛2人はすでにグールクイーンへの進路を切り開くことへ集中しており、そこで足を止めれば一点突破の勢いそのものが失われる。


 ラウルは逃げることなく熊型の正面へ立つと、突き出された頭部へ片手を添えるようにして軌道をわずかに外し、身体が脇を通り抜ける瞬間に、トンファーを握った右腕を顎の下から突き上げた。最短距離で破壊力を通す一撃によって、熊型アンデッドの頭蓋が砕け、その巨体は勢いを失ったまま芝生を滑っていく。


 続いてラウルは《インベントリ》から半透明の結晶を取り出し、前方へ向けて鋭く投擲した。結晶はヴィヴィアンとアントニオの間を抜け、進路を塞ごうと密集していた槍兵の足元へ着弾すると、封じ込められていた酸を周囲へ撒き散らした。鎧と骨が激しい煙を上げながら溶け落ち、敵陣の中央にはグールクイーンまで続く細い空間が生まれる。


 このまま押し切れる。


 そう思えたのは、ほんの一瞬だった。


 グールクイーンの周囲に控えていた骸甲兵たちが左右へ割れ、その後方から、腐りかけた弓を構えるアンデッドが一斉に姿を現した。通路で戦った軍勢にはほとんど見られなかった遠距離型が、この庭園には10体以上配置されている。しかも弓兵たちは、操られる人形のような鈍さを見せることなく、前衛の動きと味方の位置を見極めながら弦を引き絞っていた。


 富士宮が危険を察して口を開くより早く、最初の斉射が放たれた。


 黒ずんだ矢が人工の白い光を横切り、放物線を描いて一行の頭上へ降り注ぐ。ヴィヴィアンは聖剣を振り上げて数本を弾き飛ばし、アントニオも刀で正面の矢を切り落としたが、攻撃は前衛だけを狙ったものではなかった。弓兵たちは射角を微妙にずらし、前衛の頭上を越えて富士宮たちの後方へまで矢を散らしている。


 カイは身体を捻って2本を避けたものの、3本目が上腕を浅く掠めた。ラウルはトンファーで顔を守りながら後退したが、肩口へ矢尻が触れ、ナビるも富士宮を庇うため射線へ割り込んだ結果、手の甲へ細い傷を負う。どれも戦闘を続けられないほどの傷ではないはずだったが、傷口の周囲は瞬く間に紫色へ変色し、皮膚の下を細い蔓が這うように毒が広がり始めた。


 掠っただけでこの回り方かよ


 富士宮は眉一つ動かさなかったが、内心では弓兵型への評価を即座に引き上げていた。矢そのものの威力は高くなくとも、広範囲へ大量に射かけ、わずかな傷から状態異常を侵入させる構成になっている。一本を防げても2本目が来て、2本目を避けても3本目が別の角度から落ちてくるため、完全に無傷で進むことは難しい。


 ラウルがすぐに《インベントリ》へ手を入れ、解毒魔術を封じた書物を取り出した。開かれた頁から淡い緑色の文字列が浮かび、一行の周囲へ広がると、紫色に染まり始めていた傷口が少しずつ本来の色を取り戻していく。


 しかし、弓兵たちは解毒が終わるのを待ってはくれなかった。


 第二の斉射が放たれ、今度は正面から迫る盾兵と槍兵の動きに重ねるように、矢の雨が降り注いだ。ヴィヴィアンが剣を振って矢を払えば、その瞬間に盾兵が間合いを詰め、アントニオが前方の敵を斬ろうとすれば、頭上から落ちる矢への対応を迫られる。2人の近接能力であれば、目の前の雑兵を切り崩すことは難しくないが、敵を倒すための一歩を踏み出すたび、防御のために半歩を止められていた。


 進んでは止まり、敵を斬っては矢を払う。そのわずかな停滞の間にも、グールクイーンの周囲には紫色の魔力が集まり、新しいアンデッドが芝生から立ち上がってくる。


 カイが弓兵へ光線を放とうとしても、盾兵が射線へ割り込み、ナビルが盾兵の隙間を狙えば、別の弓兵が彼へ矢を集中させる。後衛に攻撃を返せば前衛への援護が薄れ、前衛を支えれば弓兵の数が減らないという、嫌らしい循環が出来上がっていた。


 さらに三度目の矢の雨が落ちる頃には、完全に避け切れなかった小さな傷が一行の各所へ増え始めていた。ラウルの解毒魔術によって致命的な毒は押し戻されているものの、解毒のたびに魔術書の力は消耗し、毒が回るまでのわずかな時間にも、腕の重さや足の痺れが蓄積していく。


 ヴィヴィアンの踏み込みは依然として鋭かったが、最初の勢いと比べれば明らかに距離が短くなり、アントニオも頬を掠めた矢の毒によって、一瞬だけ刀を返す動きが遅れた。カイの光線も照準がわずかにぶれ、ナビルは銃を構える腕へ広がる痺れを振り払うように、何度か指を握り直している。


 雑魚を無視して本体を叩くという方針自体は間違っていない。それでも、その最短距離へ毒矢を敷き詰め、踏み込む者すべてへ小さな消耗を押しつけてくる弓兵たちは、グールクイーンを守る壁としてあまりにも完成度が高かった。


 正面の敵を倒せば進めるのに、進もうとするたび遠くから削られる。致命傷はないのに、確実に速度だけが落ちていく。


 富士宮は静かな表情を保ったまま、少しずつ消耗戦へ引きずり込まれていく戦場を見渡した。


 ああ、これ、すげえ嫌いなやつだ


 一発で壊滅させる火力ではなく、無視できない程度の毒を何度も重ね、こちらが焦って前へ出るほど被害を増やしていく。ゲームであれば画面を叩きたくなるほど性格の悪い敵編成が、いまは白い人工光に照らされた庭園で、富士宮たちの体力と集中力を着実に奪い続けていた。


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