語られざる古戦②
Argon、本人は戦線の後ろに常に構え、ユニットと戦略だけで相手を圧殺する死霊使い。
やっぱり似てる
嫌もなるぐらいに
「そこで当時の魔王が助力を求めた存在がいました」
カイは少しだけ声音を落とした。
「裁定者、と呼ばれる女性魔導師です」
また知らない固有名詞が増えた。富士宮は表情を変えないよう注意しながら、頭の中だけで高速に反芻する。
執政官とは別のやつ?
国家を救うレベルの介入が可能な上位存在が他にもいたのか
互いの関係性はどうなっているのだろう
「裁定者の出自は不明です」
カイはそこで首を振る。
「彼女がどこから来たのか、なぜ王宮にいたのか、何を対価として求めたのかなどの詳細はほとんど記録に残っていません。ただ当時の魔王宮に確かに存在し、不死者の王との戦いでその力を解放したのです」
カイの話はさらに核心へ踏み込んだ。
「裁定者は、精神生命体の騎士団を召喚して反攻を開始したと伝えられています」
富士宮は精神生命体という単語に引っかかった。
肉体を持たない騎士団。霊体か、概念生命体か、あるいは高位召喚による他の何かか。規模も能力も詳しくは分からないらしい。ルナアリスでも存在しなかったユニット群だ。
「その騎士団は、不死者の軍勢を瞬く間に崩壊させました」
カイの声には、史実を読むような冷静さがある。
「ネクロスを正面から破壊し、各戦線を押し戻し、最終的には城へ攻め込んで不死者の王を滅ぼしたとされています」
富士宮は、思わず焚き火の向こうを見た。
アントニオとヴィヴィアンはまだ楽しそうに互いの筋肉の話をしている。その平和な光景と、いま耳にしている古戦の逸話の落差に少しだけ目の眩む思いがした。
ネクロスを正面から粉砕か
やばいな、その騎士団
完全に仕様外ユニットじゃん
普通の国家戦力じゃない
「ですが」
カイはそこで少しだけ間を置いた。
「裁定者もまた、不死者の王との相打ちのような形で姿を消したと伝わっています」
戦死したのか、役目を終えて去っただけなのか、そこは曖昧らしい。だがもっと異様なのはその後だった。
「不死者の王を滅ぼした後、当時の魔王は謎の死を遂げました」
富士宮は目を細める。
「次代の魔王は、この戦いに厳しい箝口令を敷きました。さらに以後は二度と裁定者と関わらないと宣言したのです」
それを聞いた瞬間、富士宮の中に強い違和感が走った。
普通なら逆だ。国を救った英雄として祀るか、伝承として大々的に残す。それなのに、戦いを語るな、裁定者とも関わるなとは。
まるで――
裁定者の方こそ、国家にとって危険みたいじゃないか
富士宮はそう思う。
焚き火の炎がゆらりと揺れた。
カイの語りはいったんそこで区切られる。
「……この逸話は、いまでは昔話として語り継がれているに過ぎません」
彼はそう言った。
「ただ最近になって不死者の王復活を告げる神託があったようで、王都は少し騒がしくなりました。それでヴィヴィアン様も、こちらまで来ることになったのです」
富士宮は、その一言に一瞬だけぞくりとする。
それって、ブラヒムの成長が活性化した時期と被ってないか?
王国に残してきたブラヒム・ディアス。その潜在取得可能ジョブの中に《不死者の王》は確かにあった。しかも、ここ最近の成長速度は明らかにおかしかった。
まさか、直接関係してる?
富士宮は、すぐに理性でその飛躍した思考を押し戻そうとした。
いや、落ち着け
あくまで取得可能ジョブに挙がってるだけ
現時点でブラヒムは不死者の王そのものじゃないし、ジョブ取得が確定事項でもない
直接リンクしてるって決めつけるのは早い
でも……だからといって無関係と断言していい根拠もないんだよなぁ
富士宮は、結局こう解釈することにした。
ブラヒム自身が復活の鍵なのではない
だがこの世界のどこかで何らかの前兆が起き、その余波としてブラヒムの成長も活性化した
そう考える方が自然だ
富士宮は焚き火の火をじっと見つめた。
得られた情報は断片に過ぎない。でもそれらは、確実に一つの流れを作り始めている。
ここまで来たら、あの廃城の地下、やっぱり潜るしかないな
富士宮は静かにそう確信する。
不死者の王が本当に復活するとしたら、それはブラヒムとは別の何かが存在するということだ。ならばその痕跡は、あの城の地下にまだ残っている可能性が高い。
行き先は見えた。ただし、掘ればたぶんロクでもないものが出る。
でも、そういう時に掘らない選択肢なんて、廃人ゲーマーには最初からない。
焚き火の火が、もう一度だけ小さく弾けた。




