魔王と合流②
食事を摂るために全員が焚き火の周囲へ自然に収まったところで、富士宮はまずヴィヴィアンへ向き直った。
「改めまして、私は富士宮ひとみと申します」
落ち着いた敬語で、丁寧に名乗る。
「事情は先ほど簡潔にお伝えしましたが、現在は王国を追放された身です。こちらは同行者のナビル、アントニオ、ラウルです。そして……あそこで寝ている方は先ほどお会いしたばかりのレイブンクローの方です」
最後だけ少し雑じゃない?と自分でも思うが、事実なので仕方がない。
ヴィヴィアンは富士宮の名乗りを聞くと、胸を張って大声で宣言した。
「余が魔王である!」
自己紹介、終わり。
富士宮がどう返そうか一瞬だけ迷ったところで、すかさずカイが間へ入る。
「すみません、いつもこんな感じでして」
そのひと言に苦労がにじみ出ていた。
「改めて申し上げますと、彼女が現魔王ヴィヴィアン・グルーガヴァイス様です。魔王に就任されたのは三年前で、先代魔王の崩御に伴う継承でした」
富士宮は素直に耳を傾けて話を聞きながら、内心で唸っていた。これはかなり重要な情報だ。
カイの説明によれば、魔王位は原則として世襲らしい。魔王の血族の中で、最も資質に恵まれた者が次代として選ばれる。現時点の単純な能力値だけならヴィヴィアン以上の者もいたらしいが、魔王家付きの占い師が見たところ、将来的な適性ではヴィヴィアンがずば抜けていたのだという。
その占い師、占いって言ってるだけで、要するに鑑定じゃん
やっぱりラウル以外にもいるんだな、そういう目を持ってるやつ
富士宮の内心を知らないカイはそのまま続ける。
「ただヴィヴィアン様の継承に不満を持つ者もいました。それが先代魔王の弟にあたる、西方の有力貴族です」
富士宮はそこで、レナートたち勇者一行が戦っていた相手のことを思い出す。王国南西部で暴れていた好戦派の魔族にして、王国が魔王軍として認識していた連中がいると聞いた。
「彼は力の誇示のために、王国へ独断で戦争を仕掛けました」
ああ、やっぱりそれか
つまりレナートたちが相手にしていた魔王軍は、ヴィヴィアンの支配下にあった軍団ではなく、その叔父にあたる西方の独断専行貴族の配下たちだったのだろう。
王国側からすれば区別つかないよね
でも魔王領側からしたら、めちゃくちゃ迷惑な身内だったわけか
カイは自分のことも簡潔に説明した。
「私は代々、魔王家に仕える宮廷魔術師の一族の出です。現在はヴィヴィアン様の側近として同行しております」
単なる高位魔術師ではなく魔王家付きの家臣家系とは、なるほど苦労人ポジションにも歴史があるわけだ。
そんな話をしているうちに、焚き火の向こうで意外な盛り上がりが起こっていた。いつの間にかヴィヴィアンとアントニオが、めちゃくちゃ仲良くなっていたのだ。
「その刀、相当な業物と見た!シンプルな意匠の中にも職人の奥義のようなものを感じるぞ!!」
「へぇ、わかってんじゃねえか。いやしかし、お前のブツも十分イカれてるだろ。何だその光り方」
「ふふん、聖剣だからな!」
「自分で言うか普通」
そう言いながら、アントニオは明らかに楽しそうだ。
次の瞬間には、お互いの腕や肩や背筋を見せ合い、筋肉のつき方を褒め合っている。
「見よ、この三角筋の張りを!」
「お、おう……すげえな。正面からぶつかったら俺も止められかどうか」
「貴様は特に脚が良いな!恐らく踏み込みの速さは相当なものでないのか!」
「へっ、そっちこそ結構なパワー持ちだろ。なあ、今度一戦やろうぜ」
「うむ、もちろんだ!何なら今すぐでも良いぞ!」
富士宮は焚き火越しにその光景を見ながら、妙な納得を覚える。
そうか、脳筋同士はこれほどまでに通じ合えるのか
ちょっと感動した
したくなかったけど
どちらかというと脳筋よりっぽいヴァルターでさえ包帯だらけのまま「うわあ」という顔でアントニオたちを眺め、ナビルは苦笑しながら食器類を片付け、ラウルは面白そうに掛け合いを観察していた。
富士宮は焚き火の輪を見渡しながら、今日一日の出来事を振り返っていた。
旅っていうかもう完全にイベント連鎖なんだけど
しかも魔王とのエンカウントまであった
この後、どうなるんだろ
ちょっと楽しみ
焚き火の火がぱちりと弾ける。その向こうではヴィヴィアンとアントニオがまだ互いのことを褒め合っていた。
どうやら今夜は賑やかに過ぎていきそうだ。




