聖女と魔王の邂逅①
富士宮ひとみは、思わず漏れた間の抜けた声を自分で信じられなかった。
村の中央で、なおも淡い光をまとった剣を下ろした女剣士へ、彼女はもう一度だけ鑑定眼・宵を向ける。
見間違いか、疲労で表示が乱れたのかとも思った。だが、結果として表示は変わらなかった。
ヴィヴィアン・グルーガヴァイス
現在ジョブ・URランク【魔王】
ジョブランク・Dランク
やっぱり魔王だった
富士宮は内心でかなり大きく動揺しながらも、表面上はどうにか聖女らしい落ち着きを保つ。
次に隣の黒髪の長身男性にも鑑定を飛ばす。
こちらの個体氏名はカイで、種族はヴァンパイア。現在ジョブはSSRランクの《ルミナス・アークメイジ》。
光属性魔術に極端な適性を持つ、魔術師系統最上位の一角。しかも聖職者系統ではなく、純粋な魔術理論で光を制御する破壊特化型。対アンデッド、対呪詛、対闇属性に強く、収束光線による精密射撃と広域浄化を高水準で両立するタイプだ。
ヴァンパイアで光魔術師
こういう逆張り構成、嫌いじゃない
いや今はそういう査定してる場合じゃないんだけど
ヴィヴィアンは最後に立っていた王国騎士の喉を一閃で裂くと、すぐに富士宮とラウルの方へ向き直った。
聖剣めいた剣はまだ下ろし切られていない。持ち手の角度こそわずかに緩んだが、少しでも怪しい動きをすれば即座に斬りかかれる位置を保っている。
「待て」
よく通る凛とした声だったが、声色は鋭くまっすぐで、隠す気のない警戒が滲んでいる。
「貴様らは何者だ。王国の者か」
どうやら少し直情型らしい。一方でカイは、ヴィヴィアンほど感情を表に出さない。彼は後方の位置から富士宮とラウルを冷静に観察していた。黒髪に軽装の聖職者の装いや表情、そうした要素を静かに内心で積み重ね、一つの結論へ達したらしい。
そして、ほんの小さな声で呟く。
「あの黒髪は……」
富士宮の耳にはそれがはっきり届いた。
恐らくバレている。黒髪の聖女その人である可能性にもう思考が届いていることが窺える。さすがに魔王の側近をやっているだけあって、察しがいい。
カイはすぐにヴィヴィアンへ耳打ちした。何を告げたかまでは聞こえない。だがその直後、ヴィヴィアンの眉間の皺がわずかに緩み、剣先も一段だけ下がる。敵性判定が少しだけ下がったのだろう。
ヴィヴィアンは改めて富士宮を見た。
「なぜ人間の聖女がこんな場所にいる?」
富士宮はそこで無駄な虚飾を入れないことにした。
「王国から追放されました」
いつもの穏やかな、整った態度を崩さずに答える。
「賢者の政治工作によって聖女としての地位を失いました。その後、移送中に暗殺まで仕掛けられましたので、やむを得ずこの地まで流れてきた、というのが現状です」
ヴィヴィアンは黙って聞いていて、カイはやはりという顔で肩を落としている。
その後、ヴィヴィアンはふん、と小さく鼻を鳴らした。
「人間らしいな」
短い一言だったが、そこには軽蔑と呆れが半々で混じっている。
富士宮はそれに反論しようとは思わなかった。実際、人間らしいのだろう。権力闘争や外部勢力との結託、暗殺はどれも人間社会でありふれている。自分が巻き込まれたからといって、急に珍しい出来事になるわけではないのだから。




