廃城を出て
廃城を出る前に、富士宮ひとみはもう一度だけ内部の状況を整理した。
ネクロスは討滅し、ヴァルター・クロウはアントニオがきっちり半殺しにして確保した。ナビルには新しいユニークスキルが発現し、しかもその中身は富士宮の前世パーティを想起させるものだった。
またラウルが簡単に回った範囲だけでも、地上の廃城は相当な広さであることがわかった。中庭から続く大広間の奥には崩れた兵舎らしき区画や見張り台が連なり、さらに生活空間と思われる位置には巨大な厨房跡もあった。信仰の中心であったのだろう古い礼拝堂めいた部屋も見つかっている。全体的に、王や貴族が住む城というより、実戦を前提にした拠点に近い構造をしていると感じた。
しかし、最も厄介なのは地下空間だった。ラウルの報告によると、崩れた階段と壁の裏にある空洞音や風の抜ける感覚、それに一部の石組みの不自然さから見て、地下には地上以上に広大な階層がある可能性が高いという。
ここでも地下迷宮かよ
富士宮は内心で思う。
こういう廃城の地下って、だいたい濃い連中か、面倒くさいレア枠がいるんだよな
めちゃくちゃ潜りたいけど、さすがに今は無理か
アントニオはヴァルターとの戦闘で右太腿に浅くない傷を負っている。刀マスターのスキルで無理やり押し切ったせいで、見た目以上に筋肉を痛めている可能性が高い。ナビルもネクロス戦で火傷の跡があちこちに残り、服の焦げた匂いがまだ薄く漂っていた。ヴァルターは敵か味方かまだ定かではないし、ラウルは優秀でも本来は前線戦闘職ではない。
富士宮自身も、タナトスの連続使用のせいで、頭の奥にじわじわとした違和感を抱えていた。
だから、ここは一旦引く
デミトリスへの旅は急ぐ旅ではない。廃城は逃げないのだから、補給をして体勢を立て直してから出直した方がいい。
そう判断した富士宮に、廃城を出る直前、ラウルがもう一つ情報を持ってきた。
「商隊が放置していった積荷の一部だと思います。見たことのない銃火器が残っていました」
案内された先にあったのは、崩れた石壁に半ばもたれかかるように置かれていた一挺の大型銃だった。
全長はナビルの上半身ほどもある。黒鉄を基調にしながら、銃身の根元と照門部に赤銅色の補強が走っている。銃床は濃い赤褐色の硬木製で、そこへ魔力伝導用らしき銀の細い紋様が流れるように刻まれていた。飾り気は少なく無骨で荒々しい。
「名前は分かりますか」
富士宮が尋ねると、ラウルは銃身側面を見て答えた。
「刻印があります。《ベルセルク・バスター》というらしいですね」
ベルセルク・バスター、いいじゃないか
富士宮は内心でかなり上機嫌になる。
重いけど強いってタイプの武器だよね
こういうサブ武器、ほんと大事なんだよな
対重装甲、対集団突破の切り札として優秀そう
もっとも今は持ち帰る余裕がないので、富士宮はひとまず村へ戻り、商隊の生き残りあるいは依頼主から正規に買い取る方向で考えることにした。




