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人生をやり直しまくる令嬢、サリーナ  作者: 高杉 涼子
おまけ(婚約後のルシオとサリーナ)
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サリーナ、知らぬ間に 中編

ルシオは、意味もなく訳の分からないことをする人間ではない。

学院の成績を軒並み上げまくったのも、考えてのことだとはわかっている。


それでも、きいておきたかった。


「何故、今だったんですか?」


問いかけると、ルシオはきょとんとした後、声をたてて笑い出した。


「そんな質問するの?」

「え」

「何でそんなことをしたのかとかさぁ。そっちかと思った」


笑いながら言うルシオの言葉が、サリーナには今一つ落ちてこない。

どちらにしても、同じことだと思うのだが。


結局は、今回のテストで首席を取りまくった理由をきいている。


だがルシオにとっては意味が違うらしく「そう、今なんだよね」と一人で納得してしまっている。

よくわからないまま、自分がおかしなことを言ってしまったのかと、サリーナはおろおろと視線を動かした。


「あの、何か……?」

「ごめん、ごめん」

「え……」

「そうだよね、俺はやることはやりきったし、朗報も多いし。いいタイミングかもね」


ふぅ、とルシオは笑いを抑えた。

戸惑いながらもサリーナは、ルシオの台詞を振り返る。


ルシオの言う、やりきったこともわからない。

朗報もわからない。

タイミングも、何のことだろう。


何があって、どうなっているのか。

さっぱりである。


「ちょっと長くなるけど、説明しておくね」

「よろしくお願いします」


張り切って頷いたら、ルシオが苦笑した。

声が少しだけ低くなる。


「説明はするけどさ。嫌な話があったら、遠慮なく言っていいからね」

「え、何ですか、急に」

「何かあれば、サリーナの気持ちを優先してってこと。俺のことなんか気にしなくていいから、ちゃんと教えて」

「わ、わかりました」


ルシオの表情が真剣だったので、サリーナはしっかりと頭を下げた。

話の内容が不安だが、まずは聞かなくては始まらない。


「俺が、王宮に行ったときに、第一王子と会ったのは覚えてるよね」

「もちろんです」


頷きながらも思い出す。

ルシオと第一王子は魔法契約を結ぶほどの関係なので、サリーナの知らないところでやりあっているだろうことは想像できる。


「あれからまぁ、いろいろとやり取りがあるうちの一つなんだけど。王子サマの即位式の後にさ、お祝いのパーティーがあるでしょ」

「はい」


貴族は全員参加なので、サリーナは婚約者のルシオと二人で参加する。

王家主催のパーティーなので、かなり大きなものだ。


パーティー開催の目的は二つ。


一つ目が、新しく王となった第一王子と王妃、当主とその妻との交流だ。

即位式では形式的な顔合わせと挨拶しかできていないが、お酒も振舞われるパーティーならば、距離を縮めて笑いあうことも許される。


もう一つは、次期当主との顔合わせだ。

後継ぎ予定とはいえ、今はまだただの貴族籍の子供でしかない彼らは、即位式は参加できない。

しかし彼らは皆、将来的には魔法をかけられた上とはいえ、王を支える立場になる。

婚約者でもあるパートナーを連れてパーティーに参加することで、顔合わせをすることができるのだ。


一方で、参加する貴族自身にも大きなメリットがある。


まず、即位式後のパーティーということで、貴族籍を持つ人間が全員そろう。

普段なら「たいした用事はない」と、王都に来ない辺境伯爵であるチェルシーの両親もやってくる。

となれば、始まるのが腹の探り合いである。

普段接する機会がない相手と話ができる、絶好の機会になるのだ。


それは、子供たちにも言える。

皆、婚約者と一緒に参加しているので、家の繋がりがわかる。

また身に着けているドレスや装飾品により、家の財力や交流関係をアピールし、マウントを取りあうわけだ。


一介の平民であるルシオの父親は、このパーティーには参加できない。

だが、子爵令嬢の婚約者を持つルシオは別だ。

コンラード商会にとって、ルシオから送られるドレスを身に着けるサリーナ自身が、最大の宣伝になる。

今は縁のない貴族でも、話をして気に入ってもらえれば、新しい商談を勝ち取る場になる。


本来ならば、ルシオが表立っての交渉をするような場所ではないが、特別に認めてもらっているのだろうか。

コンラード商会だけの特別待遇ならば、その見返りは相当なものを求められるだろう。


「……いや。俺は別に、商会の売上はどうでもいいよ」

「え」

「あ、いや。手数料が入るから、全く気にしないわけでもないけど。でも、重要なのはそこじゃないよ」


サリーナは首をわからない、とばかりに首を傾げる。

ルシオは一体、何の話をしているのだろう。


「そのパーティーでさ、俺、即位したての王様から声をかけてもらう予定なんだよね」

「それは……え!? 声を!?」


ぎょっとしたサリーナは、思わず声をあげた。

慌てて口を引き結ぶが、驚きから目は丸くなったままだ。


「お、お声をかけて、頂く、予定なんですか?」

「うん。そういう約束になってる」

「……そ、そう、ですか」


あっさりとしているルシオに、サリーナは混乱してきた。


サリーナはルシオと一緒にパーティーには参加するが、それはあくまで貴族だからであって、特別何かあるわけではない。

王家に出来る限り近づきたくはないサリーナが、何も気にせずにパーティーに参加しようとしているのも、王家とは遠い位置にいられるとわかっていたからだ。

即位したての新しい王と王妃の周囲には人だかりができているだろうが、そこにサリーナは関係ない。


そんな、ただの数合わせレベルのサリーナと、婚約者といえ平民のルシオに、王となった第一王子自ら声をかけるなど、ありえない。


ありえないはずなのだが。

ここまでルシオに言い切られると、ありえると思ってしまう。


先ほどルシオは「声をかけてもらう」と言っていた。

主軸が第一王子ではなくルシオにあるということは、それはルシオから言い出したことだからか。


サリーナは、そろりと視線をあげた。


「ルシオ様。テストで首席を取られたのは、第一王子殿下からの条件ですか?」

「うん、そう」


頷いたということは、やはり声をかけてほしいというのはルシオの要望なのだろう。

それに対して第一王子が条件をつけたのか。


「元々、成績は上位だったと記憶しているのですが」

「んー、上の中ってところかな。でも、貼りだされるぐらいってご所望だったからさ」


小さく笑っているルシオと対照的に、サリーナは引きつった。

貼りだされるぐらいというのは、多くある科目のうち、どれが一つだけでも良かったのではないだろうか。


「や、やりすぎでは?」

「そりゃあ俺だって、どこまでにしようかは悩んだよ。でも第一王子サマ直々のお願いだから、期待に応えないと」

「……他を寄せ付けないほどの、好成績でしたよね」

「今後の覚悟も見せるためにも、ここで見せつけておかないといけないかなぁと思って」

「待ってください。何ですか、その覚悟とは」


今後の覚悟だなんて、恐ろしい言葉である。

震えるサリーナとは違い、ルシオは「だってさぁ」と頭をかいた。


「一度これだけ首席を取ったんだよ。次のテストでいきなり順位を落とすわけにもいかないし、卒業するまでは気合入れてやらないと駄目でしょ? それってリスク高いよ」

「あ……」


そうか、とサリーナは呟く。

極端に一気に成績をあげたルシオは、これからのテストでも、確実に名前が張り出されるような点数を取っていかなくてはならない。

今回一度きりになってしまえば、それは不正をした可能性を再燃させてしまう。


サリーナは探るようにルシオを見た。

もしかして、と言葉にする。


「薬物入りのお茶の作成も、条件の一つですか?」


ぱちり、とルシオと視線があった。

楽しそうな表情である。


「そうだねぇ。こっちは王妃がメインだったけど」


平然としているルシオに、頭がくらくらとしてきた。

第一王子やら王妃やら、平民からすればはるか格上の存在のはずだが、ひょいひょいと出てくるので混乱してきてしまう。

魔法契約を結んでいる第一王子はまだしも、王妃まで出て来るとはどうなっているのやら。


落ち着かなくては、とサリーナは机の上のカップに手を伸ばす。


とりあえずよくわからないけれど、ルシオは第一王子に声をかけられたいらしい。

そのための条件として、薬物入りのお茶も作ったし、首席をとったということか。


先ほどルシオは自分はやりきったと言っていたので、これ以上ルシオに出来ることはないのだろう。

ということは、後は第一王子を含めた王家次第ということか。


そこまで考えたサリーナは、握った手に力を込めた。

ルシオの口にしていることが、どれほど異常なのかをわかっているのは、ルシオ自身だろう。

そこまでわかっているのなら、これ以上口を出す必要はない。


多忙なルシオが、ここまでやったのだ。

それだけ重要な何かがあるのは間違いない。


声をかけられること自体は、決まっているのだろう。

パーティー会場で声をかけられる瞬間を想像して、サリーナは息が詰まりそうになった。


どうしよう。

できれば、王家には近づきたくないし、関わりたくない。

王家の裏事情を知りまくっているサリーナとしては、遠く離れた存在でいたい。


サリーナがあれだけ王家に関わりたくないと言っていたことを、ルシオが忘れているとは思わない。

少しでも隙を見せて目をつけられたら、王家の影が動くかもしれないのだ。

王家の影に狙われるのではないかと思った日のことが蘇る。


ゾッとするし、やっぱり怖い。


「サリーナ。サリーナ、大丈夫だよ」

「……え」

「王子サマの用事は、俺だよ。サリーナじゃないから」


視線が合うと、ルシオが優しく笑った。

サリーナは、思わず息を飲みこむ。


「大丈夫、俺が一人の時に声をかけてもらえるようにするから。サリーナは、遠くにいていいからね。パーティー会場で一人にしちゃうけど、いいかな?」

「え、あの」

「ただ、心配になるし、話はきいておいてほしいから……出来れば、視界の端ぐらいにはいてくれたら嬉しいかなぁ」

「それは、もちろんです、が……」


サリーナがはっきりと返答できないのは、納得できないからだ。


パーティー会場で一人になることは、珍しい訳ではない。

サリーナも御令嬢たちと輪になって話をすることもあるので、特にマナー違反というわけではない。


ただ、サリーナのパートナーは、平民のルシオである。

即位式後のパーティーという場所は、平民のルシオにとっては過ぎたるところなのだ。

周囲は、ルシオの一挙手一投足すべてに目を光らせているだろう。


そんな心安らぐ暇もないような場所で、ルシオを一人にするなど、婚約者のすることではない。

性別が逆だったら、サリーナの行動は非難ごうごうだろう。


「あのぅ。私はおそばにいない方が、いいということでしょうか」


そろそろと問いかけると、ルシオがきょとんと瞬いた。

不思議そうな顔をしている。


「そういうわけじゃないけど。サリーナ、王家と関わるのは嫌でしょ?」


当たり前のように言われて、サリーナは唇を震わせた。


サリーナのためだ。

王家に関わりたくないサリーナのことを考えて、ルシオは一人でいようとしている。

知り合いもいないような、周囲は全員敵のようなパーティー会場で一人になることよりも、サリーナの気持ちを優先してくれたのか。


「私がおそばにいたら、お邪魔ですか?」

「何言ってるの。そんなわけないでしょ」


即答されて、サリーナは反射的にぎゅっと両手を握った。

いつだってサリーナの気持ちを考えてくれるルシオに、胸が痛い。


気づいてしまったことがある。


「ルシオ様にとって。より良い方は、どちらですか?」


一人でいることと。

サリーナと一緒にいることと。


ルシオにとって、より良い方はどちらなのか。


じっと見つめると、ルシオの紫色の瞳が丸くなった。

反らしたくなるけれど、唇を結んで見つめる。

ルシオが、ふっと力を抜いた。


「サリーナさぁ。そもそもの前提を、忘れてるでしょ」

「……え」

「俺にとって一番大切なことは。サリーナが、俺のそばにいてくれることだ」


手を伸ばしてカップを取ったルシオは、一口だけ飲んだ。


そばにいて。

それがルシオの願いなのだと、サリーナは嫌というほど知っている。


「俺は、パーティー会場に一人だろうと気にしないし、周囲の目なんかどうでもいい。それよりも、サリーナの方が心配だよ」

「ルシオ様」

「王家に近づきたくないなら、近づかなくていい。サリーナが気にするようなことじゃない」

「そ、れは」

「せっかくのパーティーなんだから、楽しみなよ。わざわざ自分から、崖に立つようなことをする必要はありません。俺は平気」


そこまで言ったルシオは、お茶を飲み切ってカップを置いた。

優しくほほ笑む。


「王子が俺に話しかけてきたら、周囲は静まると思うからさ。遠くでも声は通ると思うから、聞いててよ」


あ、とサリーナは声をあげそうになった。

ルシオはこの件に関して、サリーナをそばにおく気はないのだ。


サリーナは唇を引き結ぶ。


王家には近づきたくない、出来る限りは離れていたい。

それを察したルシオの優しさは、本当にありがたいと思う。


ただ。

悔しい。


ルシオにとって、これはとても大きな分岐点のはずだ。

多くの貴族が注目する中、即位したての王に話しかけられるなんて、考えられることではない。

そこに至るまでのルシオの努力の一部を知っているというのに、見守ることしかしないのか。


一番近くで支えることができる立場だけは、持っているのというのに。


サリーナは、俯いた。

視線の先にある指先が白くなるほど、力を入れて握る。


サリーナだって、大切なものを守りたい。

絶対に譲れないものを、守れるだけの強さがほしい。


「ルシオ様」


自分の口から出た声が予想以上に硬くて、サリーナの心臓が跳ねた。

緊張からか、唇がわななく。


「……どうしたの?」


新しくお茶を淹れていたルシオが、そっと眉を寄せる。

ティーポットをおいたのを確認して、サリーナは大きく息を吸い込んだ。


「わ、私。ワガママを、言います」

「は?」

「ワガママです、ワガママですからね!」


組んだ手に爪先を押し付けながら、サリーナは震えそうになる声に力を込めた。

虚勢を張ったところで、ルシオにはわかってしまうだろう。

だが、一度口に出してしまえば、サリーナの言葉は形になる。


「私、ルシオ様のおそばにいますから。第一王子殿下が声をかけられるときも、ずっと」

「……え」


眉を寄せたルシオの口から、乾いた声が漏れた。


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