↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生をやり直しまくる令嬢、サリーナ  作者: 高杉 涼子
おまけ(婚約後のルシオとサリーナ)
96/188

サリーナ、知らぬ間に 後編

ワガママを言うこと。

ルシオがくれた優しさのうちの一つである。

それをちゃんと聞くと言ってくれたのは、ルシオ本人だった。


ルシオがぽかんとしている間が、チャンスだ。

サリーナは追撃とばかりに、声を荒げる。


「パーティー会場で、ルシオ様をお一人になんてしませんからね!」

「え、何、サリーナ」

「第一王子殿下からお声をかけられるときは、私も一緒にいます。第一王子殿下に、そうお伝えください」

「待って、急に何で」

「ワガママですから!」


言い切って、口を引き結んだ。

震えそうになるのを堪えて、サリーナは下がりそうになる視線を保つ。


呆然とした様子のルシオは「えぇ?」と乾いた声をあげる。


「あのさぁ。俺のそばにいてほしいって言うのは、パーティー会場に限っての話じゃないんだけど。日常的にって話だよ」

「存じております」


さすがに言葉通り受け取るようなことはしていない。

しっかりと頷くと、ルシオが顔をしかめた。


「自分で、何言ってるのかわかってる?」

「当然です」

「王家に近づきたくないんじゃなかったの? さっきだって、あんなに顔色が悪かったのに」

「……そうでしたか? ルシオ様の、気のせいでは?」


顔色の悪さなど、なかったことにしてしまう。

血の気が引いたので青白くなったのは確かだろうとは思うけれど、直接見たわけでもないので知らない。


ルシオは呆れた様子である。


「いくら俺に用事があるからって言っても、話しかけられないわけじゃないんだよ」

「もちろん、わかっております」


挨拶も含め、全く話さないわけがない。

視線も合わせるだろうし、本題に入る前の軽い世間話なんかもあるだろう。

だが想像しても、今は不思議と怖くない。


サリーナは、渋い顔をしているルシオに笑いかけた。


「ワガママです、ルシオ様。理由なんて意味がありません、ワガママですから」

「いや、おかしいでしょ」

「ワガママですからね、おかしなこともあります」

「いきなり何でそうなったわけ? さすがにわからないんだけど」


サリーナは大きく瞬いた。

ルシオがわからないとは、驚きである。


「私、ルシオ様のことが大切なんですよ」

「……急に、何言い出すの」

「王家と対面する恐怖よりも、ルシオ様のおそばにいたいって思ったんです」


ルシオの言葉が切れた。

サリーナは、くすくすと笑う。


「ルシオ様の存在が、大きくて。私、その気持ちがあれば無敵な気がします」


ルシオの優しいところが好きだ。

最善をと言いつつも、サリーナが嫌がることは避けてくれる人だ。

そうしつつも、サリーナの意見もちゃんと聞いてくれる。


「大丈夫だって、思えるんですよ」

「嘘でしょ。ホント、何なの」


混乱しているのか、ルシオが机に突っ伏した。

初めて見る姿に、さすがに不安になるものの、頭に手を伸ばしていいのかどうかも迷う。


「……ここで、そんなワガママ言う?」


ルシオの掠れた声が、胸に響く。

サリーナのためにとルシオが動いてくれていることを、知っている。


ゆっくりと視線をさげる。


「正直に申し上げますと。今でも王家には、近づきたくないとは思います」

「だったら、離れていたらいいでしょ? 何で、わざわざ自分から飛び込んでくるの?」

「それよりも、ルシオ様のお役に立てる方が、大切なことだと思ってしまいましたから。仕方がありません」


それが、サリーナにとって一番重要なことだ。

サリーナの存在がルシオの役に立てるのならば、嬉しいことはない。


机に伏せたまま、ルシオが視線だけサリーナに向ける。


「そんな言い方、狡くない?」

「狡くはありません、事実です。ズルイのは、ルシオ様だと思います」


いつもサリーナを振り回しておいて、何を言い出すのだろう。

それは紛れもない本心からの言葉だったのだが、ルシオは眉を下げてしまった。


「俺は、わかってやってるからいいの。サリーナは無意識でしょ」

「わかってやっている方が、質が悪くないですか!?」


やっぱり、何もかもルシオの思うがままだったのか!

今更信じられない気持ちで叫ぶと、ルシオがむっとする。


「俺は絶対に踏み込まないところは守ってるけど、サリーナは違うでしょ。思いっきり踏み込んでるし、質が悪いよ」


心外すぎて、サリーナはあんぐりと口を開けた。


「ど、どこがですか?」

「自分の言ってること、わかってるの? 今、俺としては、結構凄いことを言われたと思ってるんだけど」

「え」


どの台詞のことだろう。

そんな凄いことを言った記憶がなさすぎて、首を捻る。


「あの。ズルイと言ったことでしょうか」

「……何それ」

「では、質が悪いと言ったことですか?」


そろそろと問いかけると、ルシオの瞳が据わってきた。

返事を待たずして、間違えていることだけがわかる。


「違い、ました、ね?」

「…………そうだね」


本気でわかっていないサリーナに、ルシオは項垂れた。

本当に力が抜けて、立ち直るのに時間がかかりそうである。


人が持つ本能的な恐怖は、簡単に消すことができない。

サリーナにとってその一つが王家なのならば、ルシオは守る気でいたのだ。

第一王子との接点は今更どうにもならないけれど、あくまで自分だけに留めておくつもりだった。

王になった第一王子どころか、王家そのものとサリーナとの接点を持たせる気など、これっぽっちもなかった。


サリーナにとって、第一王子と対面することは、想像しただけでも青白くなるほど嫌なことのはずだ。

それなのに、ルシオのためならばと、恐怖に立ち向かおうとしている。

目に見えない不確かなものを信じて「無敵な気がします」と言えてしまうサリーナが、あまりにも眩しい。

その真っすぐな思いの先が自分だと思うと、言葉にできないほど気持ちが沸き上がる。


「無意識、ホントにヤだ」

「すすす、すみません」


ルシオの地を這う様な低い声に、サリーナは反射的に謝ってしまった。

何が悪いかもわかっていないのに、言葉だけが飛び出てしまう。


「さっきも言ったけど」


ルシオは静かに口を開く。


「俺一人で大丈夫だよ。サリーナは、声が届く位置にいてくれたらいい」


返事を待つようなルシオの表情は、硬い。

その瞳の奥に優しさが見えて、サリーナは思わず目を細めた。


これは、ワガママなのだ。


「ルシオ様」


サリーナは名前を呼ぶ。


「ルシオ様の優しさを踏みにじろうとしていることは、謝ります。申し訳ありません」


身を乗り出して、頭を下げる。

とにかく、ルシオのそばにいたいと思った。

ワガママなのだから、無茶苦茶を言っていても許してほしい。


「ただ、おそばにいます。譲りません」

「謝った意味、ないよね?」

「踏みにじっている自覚はありますが、ワガママを言います」

「……やめてよ、もう」


息を吐き切ったルシオは、体を起こす。

むっとした顔のまま、頬杖をついた。


「王子サマに目でもつけられたら、どうするの」

「えぇ!?」


低い声に、サリーナはわざとらしく驚き、高い声を出した。

ルシオの眉がさらに寄るが、気にしない。


気持ちは不安になるけれど、頭ではわかっている。

ルシオが、黙って見過ごすような人間ではないということを。


サリーナは、笑みを浮かべたまま「それは、驚きますね」と言葉を続ける。


「ただ、心配はしていませんよ。私は、そんな日がくるとは思っていません。違いますか?」


少しだけ小首を傾げて、柔らかく目を細めた。

いつもルシオに振り回されているのだ、これぐらいは許されるだろう。


「俺は」


大きなため息と共に、ルシオが口を開く。

手を伸ばしてカップを取って、お茶を一気に飲み切った。


「いつだってサリーナを守るし、害するものを許すつもりはないよ」

「……あの、お気持ちは嬉しいのですが。もう少し手を緩めて頂いてもかまいませんからね」

「今更、そんなこと言われても」


ルシオがあまりにもはっきりと言い切ったので、慌ててしまった。

呆れたような顔をされても、言葉が出ない。


「約束するよ、サリーナ」

「え」

「サリーナが不安にならないように手を尽くす。王家の目からも隠し通す」


ルシオの言葉が強い。

きちんと口にしてくれたルシオだ、絶対に守ってくれる確信がある。

大きく心臓が鳴ったのを感じながら、サリーナは「はい」頷いた。


一度呼吸をしたルシオは、真っすぐにサリーナを見つめた。


「だから、一緒にいてくれる?」

「もちろんです!」


勢いよく返事をすると、ルシオが小さく笑った。

先ほどまでとは違い、ホッとしてしまう。


「ワガママですからね、これは。私の、ワガママですよ」

「うん、そうだね、ワガママだったよね」

「そうですよ。ルシオ様は、私のワガママを聞いてくださっただけですから」


柔らかく笑うルシオを見ていると、やる気が湧いてきた。


王となった第一王子が話しかけてくるのは、間違いない。

そのときは、ルシオの迷惑にならないようにしたい。


周囲の貴族の目もあるのだ。

恥ずかしくないように、凛としておかなくては。


「あの。第一王子殿下に話しかけられたときに、私はどうすれば良いでしょうか」


やる気を出してのことだったが、ルシオは力が抜けたように椅子にもたれかかった。


「明らかに挙動不審にならなかったら、それで十分だよ」

「……それだけですか?」

「うん。さっきも言ったけど、王子の用事は俺だしね」


そばにいるとは言ったものの、やはり目立ちたくはないので、特に何もせずにいられるのならば、それはありがたい。


しかし、話の内容によっては、変な声が出ないとも限らない。

魔法を使わないことにしている今、サリーナの表情を隠すものはない。


貴族令嬢として立っていれば、驚きの感情などは隠せるだろうか。

いや、正直に言えばかなり心配である。

あの第一王子も、王としては優秀だ。


「あのぅ。もし可能でしたら、その用事について、もう少々お伺いできたりは……?」

「何でそんな遠慮気味なの。何があったら、いつでも質問していいんだからね」

「いえ、できれば触りのところぐらいで止めておきたいです」

「……相変わらずだね」


ルシオはむぅ、と膨れているが、サリーナとしては微妙なところだと思っている。

聞いておきたい気もするが、あまり知りたくない。


魔法で表情を操っていたときとは違い、今の自分はかなり危うい気がする。

パーティーまではまだ時間もあるので、詳しくは知らない方がいいだろう。

いつもルシオにあれこれ読み取られる身としては、ギリギリのラインで止めておきたい。


サリーナの思いを知ってか知らずか、ルシオは「そうだなぁ」と考えるように口元に手を当てた。


「俺の要望の返事と言えばいいかな。ただ、どこまで通るかは、王子サマの頑張り次第だね」

「それは、これからという意味でしょうか」

「さっき、俺に出来ることはやりきったって言ったでしょ? だから後は、それをどこまで王子サマが活用できるかどうかだなぁ」


何となく、視線が遠くを向いてしまった。

第一王子を相手に、一体何を要望したのだろう。


その条件として、成績やら薬物入りのお茶やらを求められたのだ。

その見返りならば、相当なものを要望したのではないだろうか。

しかもそれを、わざわざ貴族が全員揃う様なパーティーで、特別待遇の状態で受けるというのは、かなりの重要なことのはずだ。


知りたい気持ちが再度湧いてきたが、恐ろしいので、聞くのはやめておこうと思う。


「俺の未来のテストまでかけた上に、わざわざ手を出して結構助けてきたんだからさ。本当に頑張ってもらわないと」


うーん、と背伸びしたまま、ルシオが大きく息を吐いた。

空になった自分のカップに新しくお茶を注ぎならが「期待はずれだったら、どうしようかなぁ」等と、不穏なことを口にする。


サリーナは、引きつりそうなまま笑顔を浮かべた。

不穏ではあるが、ルシオの気持ちもわかる。

ルシオは本当に頑張ったのだろう。

それ相応のものが返ってこなければ、第一王子との関係が破綻してしまいそうだ。


ついでに言えば、「わざわざ手を出して結構助けてきた」あたりのことも気になったが、無視しておく。

知りすぎるのは、よくないと思う、本当に


浮かび上がる疑問を頭の奥に押し込んだサリーナは、ふぅ、と息を吐く。

要望とやらのために、ルシオはこんなにも身を粉にして頑張ったのか。


「ルシオ様のご要望が、通るといいですね」


新しくお茶を淹れようとしていたルシオの動きが、ぴたりと止まった。


この一言は、サリーナにとって、ただの会話の続きのようなもののつもりだった。

ただの言葉の掛け合いの一つであり、特別な意味はなかった。


だが。


「ルシオ様?」


ゆっくりとこちらに向けられたルシオの瞳が、ふ、と細くなる。

柔らかさはなく、むしろ鋭くなった瞳に、サリーナは瞬いた。


何か言ってしまったか、と息を飲むよりも、ルシオの方が早かった。


「そうだね」


目を閉じた一瞬で、何事もなかったかのように、ルシオは穏やかな笑みを浮かべる。

先ほどの剣呑さが嘘のように、ルシオの瞳が柔らかい。


「俺も、そう思うよ」


軽くそう言ったルシオは、ポットを傾けてお茶を淹れた。



テストも終了した学院では、解き放たれた緊張感からか少し賑やかな日が続く。

貴族が多く在席している魔法科では、社交界に向けての茶会が催される日が増え、賑やかになっていく。


そんなときに、ある発表が騒ぎを引き起こした。


とある貴族同士の婚約が、解消されたという。

その話は、瞬く間に貴族が多く所属する魔法科を中心に駆け巡った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。